企業がやるべき避難訓練の流れやポイント・効果的に行うアイデア

2024.02.26更新(2017.08.08公開)

震災や台風などの災害が起きた際、きちんと対応するためにも避難訓練は重要なものになっています。消防法に基づき、多くの企業や組織で行われている避難訓練ですが、実施することにとらわれすぎて、内容が毎度似通っており参加者も主催者もマンネリ化していると感じることがあるのではないでしょうか。この記事では、避難訓練の流れやポイント、効果的に行うアイデアなどを紹介していきます。

災害時に命を守るためには各個人の適切な判断により避難することが重要です。そのためにはいざという時に適切な判断を下せるようになるための訓練、すなわち避難訓練が必要です。その避難訓練もマンネリ化に加え、昨今の災害の教訓や周辺環境の変化を反映させた訓練内容にアップデートしないと効果が半減してしまいます。緊急時に従業員が適切な判断をくだせるようにさまざまな災害を想定した避難訓練の実施が必要です。企業・組織における防災対策としての避難訓練を今一度見直してみましょう。

目次

マンネリ化した避難訓練を見直そう!従業員に当事者意識を持たせるためのアイデアとは

消防法に基づく行政や消防署からの指導により、多くの企業や組織で行われている避難訓練。緊急時に従業員の命を守り、適切に判断するための訓練として、非常に重要な意義を担っています。近年の自然災害等による大きな被害や、将来的に起こるといわれる大規模地震などを考えれば、企業における避難訓練がいかに重要かうかがえるでしょう。

一方で、避難訓練を実施することだけを重要視するあまり、毎年同じような流れで形式的に訓練を行っているという企業も少なくないはず。しかし、実際に緊急事態が発生した場合、想像もしなかったようなことが次から次へと起こります。2020年以降、新型コロナウイルスの拡大により生活様式自体が変容しました。今後は未知の感染症などの対策も織り込んで避難訓練を見直すことが必要であり、従来の避難訓練のように人が集まって行うことが難しい状況でもあります。また、マンネリ化した避難訓練では従業員の対応力が身につかず、本当の非常時に役立つとはいえません。

今回は、マンネリ化しがちな避難訓練を一新し、参加者の関心・防災意識を引き出すアイデアや効果的な訓練を行うポイントをご紹介します。改めて避難訓練の内容を見直すことで、緊急時に適切な対応ができるような体制を整えておきましょう。

避難訓練の重要性

企業における避難訓練は、非常時の行動指針や役割分担を明確にしておく防災マニュアルや、被害を最小限にとどめ事業を早期復旧するためのBCP(事業継続計画)といった視点を取り入れ、企業全体の防災力を高めることが求められます。

一方で、防災マニュアルやBCPだけを準備していても、従業員にその内容が浸透していなければ、いざという場面で適切な判断をすることは困難です。避難訓練は、そういった非常時の対応を従業員に習熟させるための貴重な機会となります。

従業員の安全配慮義務が強く求められる近年においては、どんな企業においても災害への備えは必要不可欠です。企業や組織の日頃の訓練や防災意識の高さは、万一の非常時に従業員を守り、ひいては企業や地域を守るためにも大切なものといえるでしょう。

企業の取り組みから見る避難訓練の重要性

以下は、内閣府防災担当による「令和3年度 企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査」内で、企業が災害によって被害を受けた際に有効であった取り組みについて聞いた結果をグラフ化したものです。

出典:内閣府「令和3年度 企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査」

全体で最も多く回答が得られたのは「社員とその家族の安全確保」で、約45%の企業が有効であったと回答しています。次いで「備蓄品(水、食料、災害用品)の購入・買増し」が約40%、「リスクに対する基本的な対応方針の策定」が37%となっています。やはり多くの企業において、災害発生時には従業員とその家族の人命を最優先に考えた対処を行っていることが分かります。そして、それらのほかには「安否確認や相互連絡のための電子システム(災害用アプリ等含む)導入」が約37%、「訓練(安否確認、帰宅、参集等)の開始・見直し」が約31%となっており、人命を守るためのシステム構築と組織的な取り組みを同時に行っていく意識が浸透してきているといえます。

法律により義務付けられている「避難訓練」

各企業においては、災害発生を想定した定期的な避難訓練を実施しているかと思います。この避難訓練は、消防法第8条で「多数の者が出入し、勤務し、又は居住する防火対象物で政令で定めるもの」に対して義務付けられています。

消防法では防火対象物の用途によって特定用途か非特定用途に分類されますが、企業の事業所は「非特定用途防火対象物」にあたり、防火管理者を指定してその者の指示で消防計画を作成し、管轄の消防署に届け出を行う必要があります。その消防計画では指定した回数の避難訓練を行うことが義務付けられており、「年1回以上の消火、通報及び避難の訓練」を実施しなければならないとされます。

よくある避難訓練の問題点

従来行われてきた避難訓練で、何らかの問題点を感じたことのある方は多いでしょう。ただ慣例的に実施されるだけの避難訓練には、以下のような問題点があることも考えられます。

マンネリ化(形骸化)

毎回同じような内容・シナリオの訓練を繰り返すことで、訓練の雰囲気に参加者が慣れてしまい、実際の災害発生時の緊迫感が欠如してしまう可能性があります。

情報が更新されていない

日本では毎年さまざまな自然災害が発生しており、それらの経験を踏まえて防災に関する情報や災害との向き合い方が都度アップデートされています。それらを訓練の手順やルールに反映させないままだと、これから起こり得る新たな災害への対処に役立たない可能性もあるでしょう。

イレギュラーに対応できない

訓練に共通のシナリオが用意されるなど、次に起こることが予測可能になってしまうと、何が起こるか分からない実際の災害状況下で訓練のノウハウを生かせません。災害そのものがイレギュラーな状況ともいえますから、イレギュラーな状況の中でできる限り多くのリスクに対応できるための訓練内容を考える必要があります。

用意されたシステムをいざというときに活用できない

安否確認システムなど、適切に運用すれば災害時に確実に役立つシステムを導入している企業も多いかと思います。しかし、実際にそれらの使い方や緊急時の対応について平時に学んでいないと、いざというとき使えない可能性があります。

避難訓練の効果を高めるためのアイデア

せっかく行う避難訓練ですから、万一に際しより効果を発揮できる訓練としたいものです。ここでは、以下3つの避難訓練の効果を高めるアイデアについてご紹介します。

  1. 消防署で行われる防災訓練を取り入れる
  2. 各地域にある防災関連施設を活用する
  3. 状況・被害別のシナリオを作成する

① 消防署で行われる防災訓練を取り入れる

参加者から避難訓練に対する興味を引き出すためには、印象に残る避難訓練を行うことが重要です。しかし、自分たちで考える避難訓練にはアイデアにも限界があるもの。そんなときは、消防署職員や防災のスペシャリストなどの専門家を招き、訓練のシナリオ作成や実際の訓練時の指導に際しアドバイスを受けることも有用です。

地域によっては、消防署や自治体が資器材の貸出しや職員の派遣、講習会の実施に応じてくれることをご存知でしょうか。いくつか例をご紹介します。

渋谷消防署 応急手当講習

渋谷消防署を会場に、東京防災救急協会が主体となって救命講習を実施。団体での申し込みもでき、普通救命講習のほか、上級救命講習や普通救命ステップアップ講習なども行っています。また、消防職員が訪問して実施する講習なども受け付けています。
※出典:東京消防庁「講習案内

新宿区 自主防災訓練

新宿区では防災区民組織やマンション管理組合などが企画して行う訓練を自主防災訓練として、資機材の貸出しやアルファ化米の提供などを実施。小型消防ポンプ操法訓練や初期消火訓練、炊き出し訓練といった訓練を支援しています。
※出典:新宿区「自主防災訓練

大田区 訓練・講話

大田区ではマンション等の集合住宅や企業、グループ単位での防災訓練や防災講話を受け付けています。地震体験車や煙体験ハウスを使用し、災害に対する関心を深める訓練が可能です。
※出典:大田区「訓練・講話

このように消防署や自治体が実施・指導する訓練は、専門的な講義や体験ができる貴重な機会となりますので、会社等がある地域の市役所や消防署の実施内容を確認してみてはいかがでしょうか。詳しい依頼方法等については各市役所・消防署等にお問い合わせください。

② 各地域にある防災関連施設を活用する

印象に残る避難訓練を行うためのもうひとつの手段としては、各地域にある防災関連施設を活用することが挙げられます。

例えば、2015年に東京都江東区にオープンした無料防災体験施設「そなエリア東京」が挙げられます。“首都直下型地震発生から72時間を生き抜く”をテーマにした体験学習ツアー「東京直下72h TOUR」では、音響・照明・映像によりマグニチュード7.3、最大深度7の地震が発生した街のなか、参加者は避難所まで向かいます。
実際に大地震が発生した際の状況を、身をもって学べるだけでなく、タブレット端末を使ったクイズに答えながら進んでいくので、避難方法について主体的に学ぶことができます。ほかにも映像や壁面グラフィックで津波の特徴がわかる「津波避難体験コーナー」など、地震以外の災害について知識を得ることが可能です。
全国各地にこういった防災関連施設があるので、それぞれの地域にある施設に足を運んでみるのもひとつの手です。

全国各地の防災体験館データ

釧路市民防災センター

地震体験や、実際に水を噴射する水消火器と、簡易的な赤外線式を使った消火体験が可能。
※出典:釧路市「釧路市民防災センターのご利用案内

大阪市立阿倍野防災センター あべのタスカル

地震で崩れ落ちた街中を、地震発生から火災発生、消火、救出、応急救護まで一連の流れを体験しながら学べる。
※出典:「大阪市立阿倍野防災センター あべのタスカル

福岡市民防災センター

大画面で防災について学べるガイダンスシアターをはじめ、地震、強風、火災等の体験コーナーがある。(新型コロナウイルス感染症防止のため、閉館していることがあります)
※出典:福岡市消防局「福岡市民防災センター

防災館(東京消防庁都民防災教育センター)

東京消防庁は豊島区・墨田区・立川市に「池袋防災館」「本所防災館」「立川防災館」を設けています。池袋と本所では防災体験ツアーが行われ、企業や学校、町内会など団体での防災訓練にも活用できます。
また、各館ご家族で楽しみながら防災体験が可能です。特に立川では、ご家族やお友達同士などで体験できるさまざまなコーナーも用意されています。
※出典:防災館(東京消防庁都民防災教育センター)

その他全国各地の防災体験館は、「日本全国の防災体験館データ(市民防災ラボ)」をご参照ください。

③ 状況・被害別のシナリオを作成する

防災訓練は、毎回同じシナリオでは想定外の状況において適切に対応できない可能性があります。災害別(地震、台風、火災、テロ行為など)のシナリオを設けて、それに応じた内容のシナリオで訓練を実施するとよいでしょう。

以下は状況・被害別のシナリオ作成例となります。

地震を想定した避難訓練

地震を想定した避難訓練の内容としては以下のとおりです。

  • 緊急地震速報の放送を流す
    地震速報が流れたことを放送で建物全体に知らせる。
  • 身の安全を守る行動(机の下にもぐる等)
    机の下にもぐる、窓に近づかないなど身の安全を守る。
  • 避難の指示
    状況を確認し、避難誘導を開始する。
  • 安否確認
    避難が完了したら点呼をして従業員の安否を確認する。
  • 訓練の振り返り
    避難訓練が終わったら振り返りを行い、次回の訓練にどう改善すべきかを見直しましょう。

火災を想定した避難訓練

火災を想定した避難訓練の内容としては以下のとおりです。

  • 火災を覚知
    火災報知器による感知や従業員による発見。
  • 現場確認
    火災を確認したら、非常ベルや火災報知機を作動させて建物全体に火事を知らせる。同時に消防署へ通報し、防火責任者の指示で避難を開始。
  • 初期消火
    初期消火を担当する方は消火器などを使って消火を行う。火が天井に到達したら危険なので消火をやめ、避難誘導班に合流。
  • 避難誘導
    自力で避難できる方に避難ルートと避難場所を伝える。自力で動けない方や身体や精神に障害がある方には、安全に避難誘導を行う。
  • 消防隊への報告・情報提供
    避難が完了したら点呼をして従業員の安否を確認する。消防隊がいる場合は避難の状況を正確に報告し、消防隊の指示に従う。
  • 避難訓練の振り返り
    避難訓練が終わったら振り返りを行い、次回の訓練にどう改善すべきかを見直しましょう。

水害を想定した避難訓練

水害を想定した避難訓練の内容としては以下のとおりです。

  • 水害に関する情報収集・全体周知
    ラジオやテレビで水害状況や今後の気象情報を集め、建物全体へ伝える。
  • 避難の指示
    状況を確認し、避難誘導を開始する。ひざ上まで浸水している、移動が危険だと判断される場合は浸水よりも高い近くの建物などに避難する。
  • 安否確認
    避難が完了したら点呼をして従業員の安否を確認する。
  • 訓練の振り返り
    避難訓練が終わったら振り返りを行い、次回の訓練にどう改善すべきかを見直しましょう。

実施時にはシナリオ内容の全体を公開せず、事前に通知する事項も限定的とします。訓練の経過に応じて、シナリオに基づいた情報を伝達しながら指示するとよいでしょう。

企業の避難訓練のやり方とポイント

ここからは企業の避難訓練のやり方とそのポイントについてご紹介します。

訓練の目標を明確に

訓練は、限られた時間のなかで最大限の効果を得られるものでなければなりません。実際の非常時に役立つような対応力を身につけるために、まずは訓練の目標を明確にすることが大切です。形式的に訓練を行わず、設定した目標に対してどのような訓練が効果的かをしっかり考慮しましょう。

災害の状況を具体的に設定する

訓練では、発生を想定した災害の種類や発生日時、発生した箇所や地域、災害規模などあらゆる状況をできるだけ具体的に設定しましょう。訓練にあたって緊迫感が維持でき、実際の非常時を想定した行動を促すことができます。
また状況設定においては、過去にあった災害の事例やその際の適切な対処などを参考にしてシナリオに盛り込むなどするとよいでしょう。

BCPや防災マニュアルに沿った訓練

先にも触れた通り、企業での避難訓練は単なる身を守る方法の確認だけに収まらず、BCPや防災マニュアルに基づいて適切な判断や行動をする訓練や、被害を最小限にとどめ、早期に業務再開する方法などを確認することが重要です。そして訓練を踏まえ、適宜BCPや防災マニュアルを見直すことも求められます。

周辺地域との連携も重要

避難訓練は社内のみで行われることが多いかもしれませんが、災害時には周辺地域との連携が必要になる場合があります。実際に、周辺地域・消防署と合同で訓練を行っている企業や、過去の災害時に帰宅困難者のためにロビー等のスペースを提供した企業などもあります。自社の従業員と企業を守るだけでなく周辺地域との関わりも考えた訓練を行うことで、周辺地域を守り企業としての価値をより向上させていくことができるでしょう。

定期的にシナリオを見直す

効果的な訓練のシナリオが完成しても、防災に関する情報が新たにアップデートされなければ内容が古いものになってしまう可能性があります。せっかく作ったシナリオを恒久的に役立てるには、定期的にその内容を見直して新たな情報を加えたり、古くなった情報を改訂したりすることも大切です。

  • 積雪時の避難ではより暖かい2次避難場所へ移動する
  • 積雪地帯では冬季と夏季それぞれの避難経路を想定する
  • 避難時にAEDが必要となった場合の対処方法
  • エレベーターに閉じ込められた場合の対処方法

当事者意識を持たせるALSOKの防災訓練支援とは

今回ご紹介したアイデアは、実働型の訓練になるため、マンネリ化した避難訓練よりも当事者意識を持って取り組むことが可能になります。ALSOKでも警備のプロによる、当事者意識を持たせる防災訓練の支援サービスを提供しています。

BCPソリューションサービス

警備会社のALSOKが提供するBCPソリューションは、実際に災害現場に立ち会ってきたガードマンの知見を生かした提案に基づきサービスをご提供します。また、自然災害にとどまらず、犯罪やテロ、サイバー攻撃など、BCPの対象となるさまざまなリスクにワンストップで備えられるBCP対策を提案します。

防災講習会

地震の基礎知識や、周辺地域の特性・被害予測、地震の際にとるべき行動などを講習で学んでいただきます。従業員の皆様に防災意識を持っていただくことで、震災対策の必要性、防災マニュアルの作成など、震災対策を実施、浸透させる雰囲気作りを行います。

防災訓練実施支援

地震などの災害が発生した際の訓練をお手伝いします。火災発生時の「避難訓練」(避難場所への移動や消火訓練等)や、防災意識を高めるための多種多様な「防災訓練」に対応します。訓練を行なうことで、震災への備えの必要性、現在実施している対策やマニュアルの周知、現状の不足部分などを発見、改善に役立つことも期待できます。

災害図上訓練

ALSOKの災害図上訓練は、講師から出題される災害発生時の想定に対して何をすべきか参加者各々が自ら考えるという形で行われるユニークな訓練です。周辺地域や地元の情報を取り入れて、参加者各々が身近に遭う可能性のある災害状況を想定しながら、実際に役立つ訓練を行うことができます。

救急トレーニング(AED)

救急処置用の医療機器AEDの販売・レンタル・管理だけでなく、実用的な使い方まで講習を行います。詳しくはこちらから。

このように、ALSOKで展開する防災訓練支援は自ら考え、意見を出し合い、実用的な情報を講習するなど「主体性をもたせること」を目的に行っています。

マンネリ化している避難訓練を続けるだけでは、実際の災害発生時に役立ちません。実施する内容を見直し、参加者にとって「印象に残る避難訓練」を行うことで、実際の緊急事態時に対応できる力を身につけていきましょう。

まとめ

従来の避難訓練において「この訓練に意味があるのだろうか?」と思うような避難訓練を体験した方は、意外に少なくないと思われます。しかし、そう感じて訓練内容を見直すことは、これからの防災に取り組むチャンスでもあります。生活様式に合わせたより実践的な訓練実施のために、近年の災害対応などを参考にした訓練内容へのアップデートを図ってはいかがでしょうか。

ALSOKの安否確認サービス(アプリ版)

ALSOK安否確認サービス(アプリ版)