テロなどの予期せぬ脅威からソフトターゲットを守るには

2017.09.12

ソフトターゲットとは

ソフトターゲットとは、テロの対象として「攻撃がたやすい標的」を意味する言葉。警備や監視が手薄で狙われやすい場所・人を指し、不特定多数の人が集まる民間施設や繁華街、公共交通機関、民間人などがソフトターゲットに該当します。一方、ハードターゲットという言葉もあり、こちらは警察や自衛隊の施設・人、重要人物である政治家など、普段から警備や監視が厳格で攻撃が困難な標的を意味します。

ソフトターゲットを標的とするテロは世界各地で多発しています。実際に、日本人を含む民間人が犠牲となる事件が起きていることをニュース等で知る機会もあるはず。最近のソフトターゲットを狙ったテロは銃器や爆発物などを使わず、観光地等の人混みに車両で突っ込むといった手口もあり、いつどこが狙われるかわからないのが恐ろしいところ。2020年の東京オリンピック・パラリンピックを控えていることもあり、日本でもこういったテロへの対策が急がれています。

過去に起きたテロ事件

ダッカ日航機ハイジャック事件(1977年・バングラデシュ)

武装した日本赤軍グループ5人によって起こされた事件。日本赤軍は新左翼系の過激派組織で、1972年よりさまざまなテロを起こしていました。この事件では、パリ発羽田行きの日本航空機をインド・ムンバイ離陸後に乗っ取り、バングラデシュの首都・ダッカの空港に強制着陸。乗客142人と乗員14人を人質に、身代金と日本で服役・勾留中であった日本赤軍メンバー等の釈放を要求し、出国を望んだ6人が超法規的措置によって釈放されました。

地下鉄サリン事件(1995年・日本)

一般市民を標的とする大規模化学テロとして大きな衝撃を与えた国内におけるテロの代表例。新興宗教団体であるオウム真理教が東京都心の地下鉄車内にサリン(毒ガス)を散布し、13人が死亡、負傷者は約6,300人に上りました。被害者は呼吸困難や視覚異常を訴え、20年以上経った現在でも重い後遺症に悩まされている人が少なくありません。

ダッカ人質テロ事件(2016年・バングラデシュ)

親日国として知られるバングラデシュの首都・ダッカにおいて、イスラム過激派の武装集団がレストランを襲撃。客・従業員を人質にとり、日本人7人含む人質20人が殺害された事件です。前年にもバングラデシュにおいて日本人がイスラム過激派組織に殺害される事件が発生しており、この人質テロも日本人だとわかったうえで殺害に及んだ可能性も指摘されています。

2017年ロンドンテロ事件(2017年・イギリス)

2017年3月、ロンドンのウェストミンスター議事堂(英国政治の中心地)付近において歩道に車が突っ込み、通行人3人が死亡、40人以上が負傷。車は議事堂付近の鉄柵に激突して停止し、降りてきた男性が議事堂に侵入するのを制止しようとした警官1人がナイフで刺されて死亡しています。この事件のほか、同年6月にもロンドン中心部の市場周辺において車と刃物で通行人等が攻撃される事件が発生しており、7人が死亡、48人以上が負傷しました。

テロの手口と近年の動向

現代においてはテロの脅威が多様化しており、以前と比べて対策が難しくなっています。テロにはどのような手口があるのか、そして近年のテロの動向について見ていきましょう。

ハイジャック

航空機を乗っ取るハイジャックは1968年から急増し、72年には年間で100件を超えるハイジャックが発生しました。70年にはハイジャック防止の国際的な法制が定められており、手荷物検査なども強化されて発生件数は大きく減少。

しかし、2001年には今世紀最大のテロとも言われる「アメリカ同時多発テロ(9・11)」が発生。ビルの崩壊などもあり、全体の死者は約3,000人に上りました。その後、ハイジャックテロへの対策はよりいっそう強化され、最近では手荷物の制限や検査、金属探知機等による安全チェック、警備などが厳重に行われるようになっています。こういった対策によってハイジャックの件数はかなり減ったもののゼロではなく、発生する可能性がないとは言い切れません。

CBRN(シーバーン)

CBRNとは、テロ攻撃の手段である化学<Chemical>・生物<Biological>・放射性物質<Radiological>・核<Nuclear>の頭文字をとった言葉。CBRNによるテロは通常の爆弾等によるテロとはまったく異なる被害・症状を及ぼし、通常の兵器では考えられないような規模の被害となる可能性があります。

化学テロではサリン等の化学物質、生物テロでは天然痘・炭疽菌といった細菌やウイルス等、放射性物質テロではウラン等を爆弾に詰めて周囲に拡散させるダーティボムなどが使われます。核はテロリストが保持する可能性は低いものの、原子力施設などにテロ攻撃が行われる可能性も。また近年では、個人で作れる簡易爆弾=IED(Improvised Explosive Device)の作り方をインターネットで容易に入手でき、各地のテロで使用されることが増えています。そのため、CBRNに爆発物<Explosive>を加えて「CBRNE」とされる場合もあります。

ローテク

先述の2017年ロンドンテロ事件をはじめ、近年、欧米等でのテロで増えている手口。銃器・爆弾などを使用せず、身の回りにある車や刃物などを凶器として人混み等を狙います。特別な知識や力がなくても実行できてしまうため、いつどこで発生するかわからず、防止するのが困難です。

近年はどのようなテロが多発しているのか

近年では、インターネットを通じてテロに結びつく過激思想が拡散されているケースが増加しています。かつてはテロ組織が戦闘員を送り込み、指揮をとってテロを実行していましたが、今ではインターネットで思想を広めることで世界中の同調者に攻撃させることが可能です。それも、組織が直接指示したり同調者がコンタクトを取ったりすることなく、同調者が同調を示して各自で計画・実行するという場合が多くなっています。

2014年、イギリスにおいて国内外のイスラム教徒を扇動していた著名な説教師がテロ関連容疑で逮捕されていますが、実際にこういった過激思想に影響を受ける者は多く、ダッカ人質テロ事件のリーダーはこの説教師のTwitterをフォローしていたということ。また、2017年ロンドンテロ事件の容疑者も、国際テロ組織に感化されて犯行に及んだ可能性があるとされています。

このように最近は、大規模な攻撃よりも、実行者の地元等でローテクなどのテロ行為が行われるケースが多くなっています。テロ組織と直接的な関わりがなく、単独〜数人が自発的に行うこういったテロ行為はローンウルフ型と呼ばれ、その標的は、これまであまり重要視されていなかったソフトターゲットが中心。しかしながら、ソフトターゲットに該当する場所は、その役割やコスト的に厳重な警備体制を敷くことが難しいため、対策が困難化しているのが現状です。

日本国内におけるテロ対策の必要性

さて、先にも触れた通り、2020年の東京オリンピック・パラリンピックをはじめ、近い将来、世界的な大規模スポーツイベントなどが日本で開催されようとしています。すでに外国人観光客の数も増えており、今後はさらに多くの人々が日本にやってくることになります。

一方で、外国人に限らず、人が増えたり大きなイベントが開催されたりするということは、必然的にテロのリスクが高まる恐れがあるということでもあります。テロリストが紛れやすく、狙いやすくて甚大な被害が出る場所・機会が増えるからです。そして、そういったタイミングで攻撃を行うことは、人々に大きな衝撃を与えることにもつながりやすいと言えます。

「日本ではテロなんて起こらない」と思っている方もいるかもしれません。確かに世界的なテロの脅威は、中東やアジア、欧米などで顕著なものとなっています。しかしここまで見てきたように、日本国内・日本人関連でも政治・思想・宗教などに起因するさまざまなテロ事件が発生してきた過去があります。テロは決して他国だけのものでも、他国によるものだけでもありません。日本でもテロが深刻な問題となる可能性をしっかりと認識し、テロ発生や被害拡大を防止するために適切な対策をとっていくことが非常に重要です。

テロ対策に関する世論調査の結果

日々、ニュースなどで世界各地で発生しているテロ等の情報がもたらされますが、日本国民はテロについてどのように考えているのでしょうか。2015年に実施された世論調査の結果を見てみましょう。

日本国内でのテロ発生に不安を感じるかという質問では、「不安を感じる」「どちらかといえば不安を感じる」という回答が合わせて79.2%。「不安を感じない」という回答は6.2%のみとなっており、多くの人がテロの不安を感じているようです。その理由として大きいのが、海外で日本人が巻き込まれるテロが発生している、欧米などの先進国でもテロが発生しているといった事実。また、見逃せない理由として「日本のテロ対策は不十分」という意見が42.0%となっており、今までは問題なくても将来的にテロが発生した場合のことを考えると不安に感じる人が多いようです。

国民が考える有効なテロ防止策としては、「テロリスト入国させないこと」が61.8%。また、「テロ組織に関する情報収集、警察による警備等の強化」や「爆発物等の管理・売買の規制強化」といった意見も多くなっています。一方、「政府・国民・民間企業などが緊密に連携して情報収集・発信や警戒警備などを行う」という回答も41.8%となっており、社会全体としてテロに対する意識を高め、連携しながら確実に対策していくことが求められていると言えるでしょう。

出典:内閣府大臣官房政府広報室「『テロ対策に関する世論調査』の概要」(2015年)

テロで狙われやすい場所は?

テロでは軍事施設や軍人、政治関連施設・政治家などが狙われる可能性もありますが、それらはすでに警察・警備会社等によって厳重な警戒態勢が敷かれるハードターゲット。近年ではやはり、警備が薄く不特定多数の一般市民が多く集まる対象、つまりソフトターゲットを狙った無差別テロが多発しています。

標的とされやすい場所としては、イベント会場や競技場、お祭りの開催地、観光地、鉄道・地下鉄、商業施設などが挙げられます。ロンドン・パリ・ブリュッセル・バルセロナなどで相次ぐテロを見ても、今後特に注意が必要なのは、民間人を中心としたソフトターゲットと言えるでしょう。

イベントの主催者やイベント企画・運営会社、広告代理店、劇場やスタジアムなどの管理会社、大型商業施設、自治体などはテロをはじめとする脅威を想定し、有効な対策をとることが求められています。安全対策を怠れば、万が一のときに、為す術もなく被害が拡大することになります。その場合、社会的責任を追求されることもリスクとして考えなければなりません。

テロ対策で行うべきこと

テロ対策では、発生をいかに予防するか、実際に発生した場合はいかにして被害を最小限にとどめるかを検討することが重要です。

予防策としては、テロの発生による施設や人への被害、事業に与えるリスク等を分析・シミュレーションすること。テロのターゲットとなりそうなポイントでは、金属探知機や車両下部監視システム(車の下部に隠された危険物をチェックする装置)などを導入してテロの原因を排除します。同時に、テロ発生時に対応する組織や指揮命令系統の準備、スタッフや警察・警備会社などを含めた情報共有網の確立などが必要となります。

被害拡大の防止策としては、爆発物テロが発生した際に効力を発揮する耐爆ゴミ箱(中に仕込まれた爆発物が爆発しても耐えられる頑丈なゴミ箱)や防爆シート(爆発の衝撃や飛散物を防ぐ耐久性の高いシート)などの設置、救急用具、有毒ガス等から身を守るマスク・防護服などの準備などが挙げられます。また、避難誘導などを的確に行える人材の育成・訓練や篭城部屋の設置なども効果的な対策です。

国内におけるテロ対策の事例

警視庁では2008年、行政機関や民間事業者と連携して首都・東京にふさわしい高精度なテロ対策を行なっていくため、「テロを許さない社会づくり」をスローガンに、テロ対策東京パートナーシップ推進会議を発足しました。その翌年には、合同訓練の実施、合同パトロール・キャンペーンの実施などを含む6つの取り組みを定め、さまざまな活動に臨んでいます。また、官民一体のテロ対策を推進するため、一般の人々にテロ対策を知ってもらうための映像やポスター等も作成。こういったものを駅などで見かけたことのある方もいるのではないでしょうか。

ほかの例としては、東京都足立区において、海外で多発している車両突入テロに備え、2018年に区と警視庁・区内警察署、消防署が合同で訓練を実施。2020年の東京オリンピック・パラリンピックの中止を訴えるテロが発生したという想定で爆発物処理、犯人の制圧、人質解放といった訓練が行われました。

このように、テロに関する対策は日本をはじめとする各国が国を挙げて取り組んでいますが、屋外や大規模な施設などでゲリラ的に起こるソフトターゲットへの攻撃を完全に防ぐことは至難であることも事実。今のところ、国内で自爆テロなどの事件は起こっていませんが、諸外国で多発しているローテクによるテロ攻撃などの事例もあり、あらゆる場所において適切な対策が求められます。テロが身近なところでも起こり得ることを一人ひとりが意識し、どうすれば助かるか、どうすれば被害を抑えられるかをしっかり考えることが、テロ対策への第一歩となるはずです。

ソフトターゲットにおける弱点をカバーするには、テロ対策に関してノウハウのある警備会社による警備システムや警備員の投入が効果的です。刻一刻と変化するテロ情勢に対応できることや、継続的な教育を行う負担を軽減できることなどがメリットとして挙げられます。

現在ALSOKでは人とICTを融合させた「ALSOKゾーンセキュリティマネジメント」でテロ等の脅威の未然防止や発生時の被害拡大を防止することを目指し、日本各地で検証試験を続けております。

テロ対策を行うことは、社会的責任であるとともに、ソフトターゲットと成り得るあなたやあなたの周りの人々を守ることでもあります。根拠なく安全であると過信せず、当事者意識を持って実効性ある対策を立てていきましょう。

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