
フランス帝国
親衛猟騎兵連隊
(1800~1815年)
この連載では、世界の「ガードマン」の制服をご紹介します。第4回は、フランス史上に名を残すあの「皇帝」が登場します!
ナポレオンが死ぬまで制服を着続けるほど愛した親衛部隊
フランス革命の動乱の中、彗星のように現れた英雄ナポレオン・ボナパルト。彼がエジプト遠征中の1800年1月に編成したのが、敵地に潜入して進撃路を確保する「ボナパルト司令官嚮導隊」です。現代の特殊部隊の先駆けといえるでしょう。
ナポレオンは皇帝に即位後、この部隊を皇帝親衛隊の中でも最精鋭の「親衛猟騎兵連隊」と改めます。「猟騎兵」は、本来は射撃がうまい猟師を集めた部隊のことですが、この時代にはエリート部隊の意味合いで用いられた名称でした。
ナポレオンは戦場で常に、この部隊の緑色の制服を身につけ、連隊長を兼ねてみずから指揮を執りました。部隊に寄せていた信頼の証しです。
後年、セントヘレナ島に流されたナポレオンは、すり切れた緑色の制服を裏返しに仕立て直して着続け、最期まで愛用したといいます。

1. こだわりの古風な二角帽
二角帽はオムレツ型の帽子で、1789年のフランス革命から爆発的に流行した。はじめは二つの角が顔の左右にくる「横被り」だったが、19世紀には角を前後にする「縦被り」が定着して「トサカ帽」となる。だが、ナポレオンは最後まで古風な横被りを好んだ。帽子につける円形章も普通は外側から「白・青・赤」だが、彼は「赤・青・白」という最初期のタイプを用いた。
2. 連隊長を意味する正肩章
皇帝親衛隊の隊員は、原則として肩から「飾緒」というモール飾りのヒモを吊り下げる規定になっていた。しかしナポレオン本人は飾緒を着けず、両肩に正肩章(エポレット)を着用した。これは猟騎兵大佐を意味する階級章で、彼自身が連隊長であることを示している。
3. 勲章と、独特のポーズ
ナポレオンは、自身が制定したレジョン・ドヌール勲章の最上位「大鷲章」と、最下位の「兵士章」を帯び、しばしば戦場で、兵士章を胸から外し、兵士に授与して感激させた。右手をベストの隙間に差し込むポーズは、当時のフリー・メーソンの暗号だったとの説もある。
4. “緑色に角笛”は精鋭の象徴
赤い装飾入りの緑の燕尾服が、親衛猟騎兵の通常軍服(常装)だ。後ろ裾には猟師の象徴「角笛」のマークがあった。正装として肋骨服もあったが、ナポレオン本人は常装を好んだ。緑色は元々、フランスでは竜騎兵の色だったが、そのエリートのイメージを借りて採用した。
辻元よしふみ 文
辻元玲子 絵
辻元よしふみは服飾史・軍装史研究家、陸上自衛隊需品学校外部講師。辻元玲子は歴史復元画家。いずれも防衛省の外部有識者を務め、陸自の新型制服制定に関わり、陸上幕僚長感謝状を授与された。テレビや新聞、雑誌等のメディアで幅広く活躍し、夫婦の共著も多数ある。