
バチカン市国
スイス衛兵隊
(1506年~現代)
この連載では、世界の「ガードマン」の制服をご紹介します。第6回は、現代に生きる華やかな傭兵の登場です。
500年以上もローマ教皇を警護し続けるスイス人の傭兵隊
スイスと言えば時計産業の中心地で、観光も盛んな永世中立国。平和なイメージが強い国です。しかし、この国で軽工業が盛んになったのは、フランス王ルイ14世が新教徒の時計職人を国外追放し、彼らがスイスに移住した17世紀後半以後のこと。それまでのスイスを支えたのは、実は傭兵産業でした。スイス人傭兵は、ルネサンス時代の欧州で最強の歩兵部隊として勇名をはせ、各国で雇用されたのです。
有事のたびにスイス傭兵と契約することが普通だった中で、彼らを常備軍としたのが、ローマ教皇ユリウス2世です。以来、スイスが国策として傭兵業を禁止した後も、バチカンでのスイス人衛兵は例外として認められてきました。そして500年後の現代でも、135人の精強なスイス人の若者たちが、教皇の身辺を警護し続けているのです。

1. スイス兵の象徴である矛槍
スイス傭兵の象徴がハルベルト(矛槍)だ。槍としても斧としても使える便利な武器で、徒歩のスイス傭兵たちは、しばしば甲冑に身を包んだ騎士たちをこれで打ちのめした。現代のバチカン市国の衛兵として、彼らは突撃銃や自動拳銃などの現代的な武器も装備している。
2. 大きなベレー帽
ルネサンス時代の傭兵一般によくみられたテラー・バレッツという形式の帽子を被る。大きなベレー帽、という意味だが、この種の帽子は元々、バスク人の民族帽だった。なお、日曜礼拝などの礼装では帽子の代わりに黒い兜を、最高礼装では銀色の兜と甲冑を身に着ける。
3. 16世紀の「エリザベス・カラー」
首の周りにラフというヒダ飾りを付け、儀式では巨大なものを装着する。ラフは16世紀に欧州全域で流行し、英国のエリザベス1世女王がこよなく愛したもの。これにちなんで、今でも病気の犬や猫の治療のため首の周りに付ける器具を「エリザベス・カラー」と称する。
4. ルネサンス・ファッションの再現
派手なストライプ柄は、ユリウス2世の紋章の色にちなみ、彼が寵愛したミケランジェロが配色を担当したとの伝説もある。この制服はその後、廃止されたが、1914年に復活した。3色を使うのは兵士だけで、下士官は赤と黒、将校は赤い制服を着用する。ベルトのバックルにはGuardia Svizzera Pontificia(教皇庁スイス衛兵隊)の頭文字GSPと刻まれている。
辻元よしふみ 文
辻元玲子 絵
辻元よしふみは服飾史・軍装史研究家、陸上自衛隊需品学校外部講師。辻元玲子は歴史復元画家。いずれも防衛省の外部有識者を務め、陸自の新型制服制定に関わり、陸上幕僚長感謝状を授与された。テレビや新聞、雑誌等のメディアで幅広く活躍し、夫婦の共著も多数ある。