Always Essay ゆるゆるな日々 vol.20

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Always Essay ゆるゆるな日々

私の憧れ

鈴木さちこ

音楽を聴くことが、とても好きだ。家で過ごすときは、常にラジオが流れている。ラジオは、普段自分から聴くことのない楽曲や、新譜を知ることができるのがいい。机に向かうときは仕事の内容に合わせて、パソコンに保存してあるプレイリストを選ぶこともある。旅のお供にも欠かせない。音や歌詞が、車窓からの景色に重なるように選曲し、イヤホンで聴く。ミュージックビデオのように楽しんでいる。
歌が上手。リズム感がいい。楽器が弾ける。作詞作曲ができる。私は音楽の才能がある人を尊敬してやまない。特に楽器を弾きながら歌える人は、頭と身体をどのようにコントロールしているのだろう?不思議でたまらない。やはり音楽には、遺伝や生まれつきの才能というものがあるのだろうか。努力だけでは足りない特別な何かが。
夫と息子は、よく歌を口ずさむ。二人とも上手だ。たまに私が参戦すると、調和を乱してしまう。私は音痴でリズムに乗るのが苦手。子供の頃に習っていたピアノは練習が嫌いで、あまり上達しないまま中途半端にやめてしまった。それからは、ピアノを気持ちよさそうに弾く人を見る度に羨ましく感じていた。後悔の念は、どんどん大きくなるばかり。かなり長いブランクを経て、思い切ってピアノを習うことにした。奏でる音はまだ硬いが、思っていたよりも指が動く。指の奥のほうに記憶が残っていたのかもしれない。どこまで上手になれるかわからないけれど、月2回のレッスンの日が待ち遠しい。
音楽は、日々の生活に癒しや活力を与えてくれる。自分にとって宝物のような楽曲は数知れない。良い音楽は世代を超え、月日が経てば彩りを変化させて輝き続けていく。コロナ禍で不安な毎日の中、音楽によって精神的に支えられている人は多いと思う。今日も私は、素晴らしい音楽を生み出してくれる方々に、憧れの眼差しを向けている。ライブ等の自粛期間が長引く今、どうか、誇りを持って制作を続けてくださいと願う。そして私は少しでも憧れに近づけるように、鍵盤に触れてみる。

すずき・さちこ

1975年東京生まれ。旅好きのイラストレーター・ライター。
「きのこ組」「うちのごはん隊」などのキャラクターを手がける。著書に『電車の顔』『日本全国ゆるゆる神社の旅』『住むぞ都!』『路面電車すごろく散歩』ほか。

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