インバウンド対策

2024.01.26更新(2019.06.03公開)

近年、さまざまな業界において注目されるようになったインバウンド。2019年までは日本を訪れる外国人観光客も増加の一途を辿り、大きな経済効果を生んでいました。しかし2020年からの新型コロナウイルス感染症の拡大にともない、世界中で渡航の制限などが行われ外国人観光客も激減しました。現在では、新しい生活様式におけるインバウンド対策について考えることが求められています。

インバウンドとは

「インバウンド」とは、海外から日本を訪れる訪日外国人旅行、またはその訪日旅行者のことを指します。そもそも英語の「inbound」は“外から中へ・本国行きの”といった意味を持ち、「インバウンドツーリズム(inbound tourism)」が略されて観光分野においては一般的に「インバウンド」が訪日外国人旅行を示すようになりました。ちなみに、インバウンドに対する「アウトバウンド」という単語もあります。こちらはインバウンドの真逆を意味し、おもに「日本から海外へ渡航する観光客」を指しています。

参考情報ですが、インバウンドという言葉は観光業界だけでなく、広告の世界でもよく用いられています。広告業におけるインバウンドとは、企業がブログ、SNSや動画など広告以外のコンテンツで訴求を行い、消費者を販売や契約へ誘導する広告手法を指します。(インバウンドマーケティングとも呼ばれます。)それに対しアウトバウンドとは、CM、新聞・雑誌、カタログなど従来の広告手法で消費者に訴求を行う手法を指します。(アウトバウンドマーケティングとも呼ばれます。)

観光におけるインバウンドに話題を戻すと、かつて日本は独自の文化によって欧米などから憧れを持たれながらも、2000年頃まで日本へのインバウンドは大きく伸びることはありませんでした。しかし、その後の官民による振興策や世界情勢の変化などによって、2013年以降はインバウンドが大幅に増加するようになりました。

このような状況でインバウンド需要は日本経済にも大きな影響を与え、観光業界をはじめとする多くの業界においてインバウンドというキーワードが大きく注目されるようになりました。2015年には中国人観光客による大量購入を指す「爆買い」が流行語大賞にノミネートされるなどの出来事もあり、世間全体のインバウンドに対する意識が非常に高まりました。

政府による以前の訪日旅行者数目標は「2020年までに2,000万人」とされていましたが、インバウンドの急増によって2016年には「2020年までに4,000万人、2030年までに6,000万人」と上方修正されました。しかし、新型コロナウイルス感染症の世界的流行をきっかけに、感染症対策を大前提とした新しいインバウンド対策を講じる必要性が指摘されています。

インバウンド市場の動向

インバウンド市場が現在どういった状況にあるのか、いくつかデータを見ながら確認してみましょう。

まずは外国人旅行者数の推移についてです。国土交通省を中心にインバウンド拡大に取り組むキャンペーン「ビジット・ジャパン」を開始した2003年時点での訪日外国人旅行者数は約521万人でしたが、2013年には約1,036万人となりました。その後、インバウンドは大幅に拡大し、2018年には約3,119万人、翌2019年には3,188万にまで増加しました。

2017年時点ではアジアからの旅行者が8割以上を占め、最も多いのは中国の25.6%で、次いで韓国24.9%、台湾15.9%となっていました。一方、欧米からの旅行者も増加しており、2017年には欧州主要5カ国(英・仏・独・伊・西)で初めて100万人を突破しました。また、インバウンドの増加にともなって外国人旅行者による消費も拡大しており、2013年には1兆4,167億円であったのに対して、2017年には4兆4,162億円と推移。費目別で見ると、買い物代が全体の37.1%を占め、宿泊費28.2%、飲食費20.2%と続きました。 (*2)

こちらも2017年の情報ですが、観光等を目的に日本を訪れた外国人旅行者の行動実施率を見てみると、「日本食を食べること」「ショッピング」「繁華街の街歩き」「自然・景勝地観光」を行なっている旅行者が50%を超える結果となっています。そのほか、「旅館に宿泊」「温泉入浴」「美術館・博物館」「日本の歴史・伝統文化体験」「日本の日常生活体験」といった活動をしている旅行者も多く、これらは外国人旅行者が多い北海道・東京・京都・大阪・沖縄はもちろん、その他の地域においても全般的に好まれていました。(*3)

しかし2020年に入って世界中で新型コロナウイルス感染症の拡大に見舞われ、日本を訪問する観光客数も激減。2019年の3,188万人に対し、2020年は412万人と、前年比約8.7割の減少幅となりました。

外国人旅行者に対する環境整備の課題も明らかになってきています。観光庁の「訪日外国人旅行者が滞在中に困ったこと」というアンケート結果によると、「施設等のスタッフとコミュニケーションがとれない」と感じている旅行者が26.1%に上りました。さらに「両替」「クレジット/デビットカードの利用」が約14%と、キャッシュレス事情の違いに戸惑う旅行者も少なくないようです。その他にも、交通機関やインターネット環境に関して戸惑った方も一定数いることがわかります。

感染症対策を踏まえた新たなインバウンド対策は、再び外国人旅行者が日本を訪れやすい環境を整備するとともに、その需要を取り込む大きなチャンスとなるでしょう。

インバウンドにまつわる取り組み

現在、各方面でインバウンド回復に向けた取り組みが推進されています。

外国人旅行者向け消費税免税制度

以前から行われているインバウンド対策のひとつとして、外国人旅行者向けの消費税免税制度が挙げられます。近年では街中で「免税」「Tax Free」という表示を見かける機会もかなり多くなっているのではないでしょうか。

上記で解説した通り、外国人旅行者の消費における買い物は大きな割合を占めます。免税店として認められれば、外国人旅行者に対して消費税を免除して商品を販売することが可能です。つまり、免税店は外国人旅行者にとってお得に買い物ができる場所となり、免税店となることでインバウンドの集客や売上の向上が期待できます。

また、令和4年度の税制改正にともなって、2021年12月に「外国人旅行者向け免税制度に係る免税対象者の明確化」が決定し、2023年4月1日から外国人旅行者向け消費税免税制度が改正されました。

免税店において、免税対象者であるか確認する際に、在留資格によって必要な書類が統一されていないこともあり、確認に時間がかかってしまい、長い行列ができたり、お店によって対応が異なったりするなどの事例が発生していました。
免税対象者の確認方法を明確化することにより、原則旅券を確認するだけで免税対象者であることが確認できるようになりました。煩雑だった免税対象者の確認手続がよりスムーズになり、店頭で頻繁に見かけた手続きにともなう行列も大幅に解消されることが期待できます。免税店では販売機会がさらに拡大できるとともに、外国人旅行者の買い物における満足度の向上にもつながるでしょう。

訪日旅行促進事業(訪日プロモーション)

外国人旅行者を考慮した環境づくりを行うとともに、在外公館や民間企業、地方などが連携して日本の魅力の発信や誘客事業を行い、インバウンドの拡大を促進する取り組みも積極的に行われています。海外で日本文化を紹介するブース出展やイベント開催、海外メディアへの取材支援、地方への招請など、その取り組みは多岐に渡ります。また、持続可能な観光やスポーツリズム等、ポストコロナに需要の増加が見込まれる観光コンテンツの発信の強化も行われています。

インバウンド対策で導入すべきもの

さまざまな面からインバウンドが注目されている今、インバウンドへの備えを行うことはその需要の取り込みにつながります。最後に、インバウンド対策として導入を検討したいものをいくつか紹介しましょう。

QRコード決済

外国人旅行者が日本の決済事情に戸惑うことも多く、日本国内では現在、急速にキャッシュレス化が進められています。そうしたキャッシュレス決済のひとつとして注目されているのがQRコード決済です。QRコード決済はスマートフォンひとつで決済ができ、ポイント還元や導入ハードルの低さなど、利用者・店舗の双方にメリットの多い決済方法です。

QRコード決済は主に中華圏で広く普及している決済方法であり、中国からの旅行者がインバウンドの多くを占める現状においては、QRコード決済への対応を進めることはインバウンド対策の有効な一手と言えるでしょう。具体的には、小売店や飲食店はもちろんのこと、テーマパークや複合商業施設、温浴施設、博物館、土産物屋、道の駅に至るまで、多くの場所で集客・消費喚起の効果が期待されます。

QRコード決済にはいくつかの決済ブランドがありますが、中国ブランドを含む複数のブランドに対応できるマルチQRコード決済端末をひとつ準備しておけば、お客様がスマートフォンで提示するQRコードを読み取るだけで決済が完了します。日本円による現金のやり取りが不要になるため、正確かつスピーディーに決済ができ、店舗側のオペレーション負担軽減にもつながります。

民泊

インバウンドの増加とさらなる目標達成のため、近年では宿泊施設の拡充が進められています。その方策のひとつが、自宅やマンションなどの空き部屋を外国人旅行者に貸し出す「民泊」の規制緩和です。この規制緩和にともない、最近は民泊ビジネスを行うオーナー・事業者が増えています。

しかし、民泊は常駐スタッフのいない家主不在型での運営を行なっているケースが多く、火災等のリスクに備えた対策が非常に重要となります。例えば、消防法では自動火災報知設備の設置が定められていますが、これはあくまでも施設内で警報音がなる仕組みであり、消防への通報などは宿泊者や近隣の方が行わなければなりません。外国人旅行者しかその場に居合わせない民泊では、そういった場面での対応が遅れたり困難になったりする可能性も十分にあるでしょう。

外国人旅行者が安心して利用できる民泊の環境づくりをするとともに、建物・部屋の安全を確保することは必須の要件。そこでご利用いただきたいのが、ALSOKの「民泊運営サポートソリューション」です。ALSOKの提供する機械警備を導入いただければ、24時間365日体制で火災警報を受信し、隊員が駆けつけて通報や初期対応を行うことができます。

こういった火災対策のほか、ALSOKではAEDなどの応急救護、防犯カメラ・金庫などのセキュリティ対策、清掃業務など、民泊の運営に役立つ幅広いサービスを全国でご提供しています。

これからも重要視される感染症対策

新型コロナウイルス感染症の流行により、全世界における観光業を取り巻く環境は一変しました。今後も感染症対策を前提にした新しい生活様式が続いていくと考えられます。
そのため、観光業に携わる事業者の方々も、今後は「感染症対策を整えておくのは当たり前」という考え方に基づく運営・管理が求められます。

感染症対策の励行に備え、以下のような設備の導入を積極的に検討してみてはいかがでしょうか。

・非接触体温計

さまざまな感染症の兆候として挙げられるのが、発熱の症状です。接触を回避しながら検温が可能な設備を店頭に設置することで、訪れる観光客に対して安全性のアピールが可能です。

・抗ウイルス・抗菌コーティング・オゾン除菌

除菌・抗菌に対する取り組みは、施設内における感染症対策のなかでも基本中の基本といえるもの。もっとも取り入れやすい対策であり、店舗を訪問する観光客の方の大きな安心感にもつながります。

・従業員の安否確認・防護対策

従業員の安否確認は災害が発生した場合だけでなく、万一、従業員が感染症にかかった場合にも有用です。スムーズに状況確認を行える手段が整っていると適切なコミュニケーションを確保でき、従業員だけでなくお客様へも安心感を与えられるでしょう。

まとめ

全世界の観光業を取り巻く状況が、新型コロナウイルス感染症によって一変してしまいました。しかし、人々の暮らしが続く限り旅行や観光に対する需要がなくなることはありません。観光客をお迎えする立場の方々は、新しい生活様式における旅行や観光の形を模索し、満足度の高い旅行の提供に向け尽力していることでしょう。 今後のインバウンド対策にお悩みをお持ちの方は、ぜひALSOKまでお気軽にお問い合わせください。

(*1)出典:日本政府観光局(JNTO)「国籍/月別 訪日外客数
(*2)出典:観光庁「令和5年版観光白書
(*3)出典:内閣府「地域の経済2018(第2章)