海外進出をする企業が行うべきリスクマネジメント

2017.07.11 (2020.03.11修正)

中小企業を含めた日本企業の海外進出が、拡大しています。斯かる状況下、懸念されているのが国内と異なるリスクに直面し、撤退を余儀なくされる企業が増えていることです。今、海外進出時のリスクマネジメントとして、企業がとるべき安全対策について解説します。

現代における海外進出のメリット

グローバル化が進んだ現代においては、金やモノなど、さまざまなものが国境を越えて動いています。全世界で認知されているようなブランドが日本に多数入ってきているのと同じく、日本の企業が海外進出で成功を収める例も聞かれるようになっており、今現在、グローバル展開を中長期的目標として掲げている企業もあるでしょう。今や企業にとって海外市場は遠くない存在。大きな力を持つ大企業から中小企業に至るまで、海外進出で売り上げを拡大できる可能性が高まっているのです。

周知の通り、日本国内のマーケットは少子高齢化・人口減少等によって縮小し、日本のGDPは過去20年ほど横ばい状態。さらに価格競争力や技術力を誇る外資系企業が参入しており、国内においてもライバルは多数存在します。そのような状況の国内と比べると、世界の市場は規模が大きく、年率数パーセントずつ成長しています。国にもよりますが、海外進出はコスト面のメリットも大きく、人件費や原材料などの生産コストを削減できるほか、税率の低い国で事業を行えば利益が上がります。また、市場や利益の大きさだけでなく、海外進出することによって現地の認知度が上がり、販路拡大できるという可能性もあるでしょう。

さらに、国内から世界へ視野を広げることで資金や人材が集まりやすくなるといった利点もあります。例えば、アメリカのベンチャーキャピタル(VC)の投資金額総額は日本の10倍以上と言われ、大きな資金を集めることでより大きな事業が可能になります。そして、世界レベルで事業を展開していけば、世界レベルで優秀な人材を獲得することにもつながり、より強い企業を作っていくことができるでしょう。

海外における安全対策の必要性

海外では、観光に訪れる旅客のみならず、事業のために滞在する人たちも適正な安全対策の実施が必要です。現在では海外進出といえば大企業だけの話とも言い切れず、中堅・中小企業においてもアジアの近郊諸国などへ進出を検討しているケースが増える傾向にあります。
外務省が提供している「中堅・中小企業海外安全対策ネットワーク」による安全対策支援や「官民合同テロ・誘拐対策実地訓練」、「在外安全対策セミナー」などを活用し、自主的な安全対策への取り組みもしっかり行いましょう。

リスクマネジメント不足による失敗の事例

このように、海外進出にはさまざまなメリットや魅力があり、チャンスをつかめば大きな成功を得られる可能性があります。しかし一方で、海外進出を果たしたものの、その後何らかの問題に直面して、思ったような結果が得られないという企業も少なくありません。

帝国データバンクの調査(2014年)によると、海外に直接進出している企業1,611社のうち、実際に撤退した、または撤退を検討したことがあると回答した企業は約4割に上ります(*1)。
また、経済産業省のデータでは、2016年度末の現地法人数が24,959社であるのに対して、同年度に進出先から撤退した現地法人数は650社。そのうち、製造業の271社撤退しています。毎年、2%少々の企業は海外から撤退しているのです(*2 )。

理由は企業によってさまざまですが、事前の備えや問題発生時の対処が不十分で損失を被り、結果的に撤退するというケースが少なくありません。海外では文化や商習慣、法制度、賃金体系などあらゆる事情が国内とは異なり、撤退にまで至らなくとも国内では起こらないような問題が発生する恐れがあります。

そのため、海外進出する際は、現地に存在するリスクについてしっかり把握し、対策を組み込んだ進出計画を作ることが非常に重要。目の前にある利益を性急に求めるのではなく、しっかりとしたリスクマネジメントと長期的ビジョンを持って取り組まなければなりません。

海外進出で想定されるリスク

海外進出で発生しやすいリスクは、主に次の3つに分けることができます。それぞれどのようなリスクなのかを確認しておきましょう。アメリカや欧州などの先進国に企業進出した場合と、アジアやアフリカなどの発展途上国に進出した場合では傾向が異なりますので、進出先で懸念されるリスクに対して対策を立てることが大切です。

海外進出で想定されるリスク

カントリーリスク

カントリーリスクとは、その国や地域の情勢が変化することによって企業が受けるリスクのこと。主に政治・経済・社会といった分野がカントリーリスクに含まれます。政治にまつわるリスクは現地の政治的基盤が安定していないために生まれ、例えば政権交代によって進出企業の扱いががらりと変わることなどがあります。それまでは顕在化していなくとも、反政府暴動など、将来的なトラブルの火種をはらんでいる国などもあるので注意しましょう。

経済的なリスクとしては、国債の債務不履行やバブル崩壊のような国家レベルの経済問題などが挙げられます。電力・通信・用水・輸送といったインフラの未整備や競争法等の不備なども経済的な要因です。社会にまつわるリスクは、文化や歴史的背景、宗教等によって引き起こされます。先にも触れたような紛争や治安の変化のほか、反日感情によって現地の日系企業が暴動に遭う例もあります。

カントリーリスクへの対応

海外進出先の情勢や動向の変化によって生じるカントリーリスクに対応するには、現地の情報とそれを元にしたリスクマネジメントが欠かせません。しかも、状況は刻々と変化しますから、情報のアップデートにその都度対応・対処することも必要です。それまで最新であった情報が、一週間経つと古いものになってしまっていることも少なくないでしょう。
現地の専門家などの助けを活用し、新たに生まれ続けるカントリーリスクへの対処を怠りなく実行していきましょう。

セキュリティリスク(人的・物的セキュリティ)

セキュリティリスクとは、企業や従業員の安全面に関するリスクです。テロや誘拐などのほか、衛生・医療環境が整っていないために起こる感染症などによって、従業員の身に危険が及ぶ恐れがあります。また、麻薬や売春なども危険要因となります。
それらのなかでも、持ち物の置き引きやスリ・ひったくりなどは海外において日本人が特に見舞われやすいトラブルです。今も海外の一部では、日本人はお金持ちで高級品を持っているという印象が強く、日本人であると分かると格好のターゲットとして扱われる可能性があります。

自然災害もセキリティリスクのひとつ。不可避な面も大きい一方、防災インフラが弱いために被害が予想以上に大きくなる場合もあり、事業を存続させるためにはきちんと対策を立てる必要があります。

セキュリティリスク(人的・物的セキュリティ)への対応

人やモノに関するセキュリティ対策は、やはり現地でのサポートが大切です。住居を選ぶ時点で危険エリアの情報を確かめることや、保険への加入は必ず行いましょう。また、拠点へのAEDの設置や安否確認システム・常駐警備・機械警備などの整備も油断せず実施することが必要です。過剰と思われるほどの対策でなければ、役立たないと考えたほうが良いかもしれません。

セキュリティリスク(サイバーセキュリティ)

また、近年では情報セキュリティのリスクも意識しなければなりません。アジアではインターネットユーザー数が急増しており、セキュリティ構築の遅れによるマルウェアの流通増加やサイバー攻撃、情報漏えいといった可能性があります。
また近年では、従業員や取引先社員などの内部犯行によるセキュリティ事故の発生件数が増加する傾向にあります。これらの情報セキュリティに関する事故は、世界中で1件あたりの規模が年々拡大し、深刻化しています。

セキュリティリスク(サイバーセキュリティ)への対応

悪質な手口で行われるサイバー犯罪のリスクに対処するには、海外進出のローンチ段階できちんと対策を講じておくことが重要。海外拠点のオープン時から、確実にセキュリティ対策済みの状況にしておくようにしましょう。セキュリティシステムを導入し、外部からのサイバー攻撃やマルウェアによる情報漏えい、クレジットカード情報のデジタルスキミングなどにしっかり対処してください。
また、オンライン上での監視を強化しても、内部犯行のセキュリティ事故は防ぎきれない可能性もあります。現地で従業員を雇う場合などは、適切な社員教育などをきちんと実施することも大切。自社のセキュリティに関するガイドラインを整備するとともに、それらを現地で働く人たちにも徹底周知しましょう。

オペレーショナルリスク

オペレーショナルリスクとは、実際の事業展開や日常的な業務遂行などの場面で発生するリスクです。貿易における輸出入規制や投資規制、製造における操業規制、原材料・部品調達が困難であることなどが代表的なオペレーショナルリスクとして挙げられます。

また、販売面では代金回収が困難であったり、不十分な特許制度などで知的財産権が侵害されたりといったケースもあるでしょう。社内においても、人材不足や賃金上昇による採算悪化、労働争議によるストライキ・デモといった労務的リスクなど、企業のオペレーションに関わるリスクは多数存在します。

オペレーショナルリスクへの対応

オペレーショナルリスクの特徴として、事案そのものとしては軽微に思える1つの発生要因であったとしても、甚大な損害を被る可能性が高くなる点があります。金銭的・物的被害にとどまらず、企業イメージの損失なども思いのほか損害の規模が大きくなるもの。
それらへの対処の際に日本での業務環境を想定していると、海外の現地事業では通用しにくいことも多いでしょう。現地に詳しい専門家による各種コンサルティングなどを必ず取り入れ、その風土やトレンドに合わせた対応を徹底することも大切になります。

海外進出のリスクマネジメントのPDCAサイクル

海外進出の計画・準備の段階はもちろん、操業を開始してからも事業を定着させ、継続していくために終始リスクマネジメントが欠かせません。進出前や手続き段階においては、海外進出の目的や自社の強み・弱みなどを明確化させつつ、国内での情報収集・海外での現地調査などを行い、リスクなどを踏まえて当初の進出計画をブラッシュアップしていきます。また、いざリスクに直面した際は、日本の本社とも連携しながら対処しなければなりませんので、本社側と海外拠点側それぞれの役割分担も決定しておきましょう。

そして、操業開始後はPDCA(Plan・Do・Check・Action)サイクルに基づき、継続してリスクマネジメントを運用していきます。1年かけてPDCAサイクルを1周させるのが一般的です。事業計画の立案とともに、リスクマネジメントも翌年度の計画を立てるとよいでしょう。

海外進出のリスクマネジメントのPDCAサイクル

Plan:リスク洗い出し・対策の検討

まずはその時点において、自社にどういったリスクが存在するのかを洗い出して把握します。リスクの重要度に応じて優先順位を決め、具体的に対策の内容、いつ・誰がやるかなどを決めていきましょう。

Do:対策を実施

対策が決定したら、計画をもとに実施していきます。海外拠点のみで要員が足りない場合は、本社側がしっかりとバックアップをしていかなければなりません。

Check:進捗を確認

進捗確認のタイミングをあらかじめ設定しておき、その時期になったら計画に遅れや問題がないか、そしてその対策が有効かどうかをチェックします。

Action:取り組み改善

確認した現状を踏まえ、スケジュールを調整したり、これまでの取り組みを振り返ったりして、次年度のリスクマネジメントについても検討していきましょう。

海外進出のリスクマネジメントで大切なこと

リスクマネジメントを実効あるものとするには、事前に海外進出の目的を明確にした上で、しっかりと計画をまとめ上げておく必要があります。そしてリスクマネジメントにはコストがかかる場合もあるので、海外進出全体として適切な費用対効果が得られるかの検証を行っておくことも重要です。さらに、何かが起きたときの安全確保や、損失軽減のための緊急対応プランも用意します。計画が固まったら、それに合わせて社内体制を構築し、マニュアルを整備して社員教育を行うことになります。

海外進出のノウハウがまだ確立していない企業の場合は、こうした安全管理・安全対策を構築するために、外部の海外進出コンサルティングサービスを利用するのが有効です。安全対策診断やセミナー、マニュアル作成のサポート、社内研修を通した個別アドバイスなど、海外進出時のリスクマネジメント、海外セキュリティに関する支援を受けることができます。また、ALSOKを始めとした警備会社のサービスであれば、社員やその家族を守るための海外拠点の警備対策も依頼できます。

海外では、日本での企業活動とはまったく異なるリスクが存在します。国や地域によって事情が変わるため、リスクマネジメントの方法として何が正解かを探るのも難しい場合もあるでしょう。プロのサポートを受けながら、しっかりとした海外進出計画を立てることをおすすめします。

(*1)出典:帝国データバンク産業調査部「海外進出に関する企業の意識調査」(2014年)

(*2)出典:経済産業省「第47回 海外事業活動基本調査概要」(2017年7月1日調査)

(*3)出典:中小企業庁「中小企業白書(2014年版)」(2014年7月1日)

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