企業の海外進出リスクとは?対策と進め方・進出形態を解説

2026.10.27更新(2017.07.11公開)

この記事では海外進出時のメリットや主な進出形態、企業が直面するリスクと対策、リスクマネジメントの進め方について解説します。

中小企業を含めた日本企業の海外進出が拡大する一方で、国内とは異なるリスクに直面し、撤退を余儀なくされる企業も存在します。海外進出を検討しているものの、どのようなリスクがあり、どう備えればよいか分からないという担当者の方もいるのではないでしょうか。

【この記事で分かること】

  • 日本企業における海外進出の現状とメリット
  • 海外進出にはどのような形態があるのか
  • 海外進出で企業が直面するリスクと、その備え方
  • リスクマネジメントをどのように進めればよいか

目次

日本企業の海外進出の現状

海外進出とは、自社の商品・サービス・生産機能を国外市場へ展開し、継続的に事業を運営することです。日本企業の海外進出は広がっている一方で、国内とは異なるリスクに対応できず、撤退に至る企業もあります。

経済産業省のデータでは、2024年度の現地法人数が25,745社であるのに対して、同年度に進出先から撤退した現地法人数は716社(そのうち、製造業が257社、非製造業が459社)です。撤退比率は約2.7%にのぼります。

撤退理由は企業によってさまざまですが、事前の備えや問題発生時の対処が不十分で損失を被り、結果的に撤退するケースもあります。海外では文化や商習慣、法制度、賃金体系などあらゆる事情が国内とは異なり、撤退にまで至らなくとも国内では起こらないような問題が発生するおそれがあります。

そのため、海外進出する際は、現地に存在するリスクについてしっかり把握し、対策を組み込んだ進出計画を策定することが非常に重要です。目の前にある利益を性急に求めるのではなく、リスクマネジメントと長期的ビジョンを持って取り組まなければなりません。

近年は、自社サイトやECモールを通じて海外の消費者に直接販売する越境ECなど、現地に拠点を持たずに始められる手段も増えています。中小企業にとっても海外進出のハードルは下がりつつありますが、どのような形で進出する場合でも、リスクを把握したうえで計画的に進めることが大切です。

企業が海外進出をするメリット

企業が海外進出する主なメリットは、次の3つです。

  • 新たな市場・販路の獲得
  • 生産コスト・人件費の削減
  • 資金・人材の確保
企業が海外進出をするメリット

新たな市場・販路の獲得

海外進出により、国内市場だけでは得られない新たな顧客や販路を獲得できる可能性があります。グローバル化が進んだ現代においては、資金やモノなど、さまざまなものが国境を越えています。世界的に有名なブランドが日本に多数入ってきているのと同じく、日本の企業が海外進出で成功を収める例も聞かれるようになっており、グローバル展開を中長期目標として掲げている企業もあるでしょう。今や企業にとって海外市場は身近な存在であり、大企業から中小企業に至るまで海外進出で売り上げを拡大できる可能性が広がっています。また、現地で事業を展開することで認知度が上がり、販路拡大につながることも期待できます。

生産コスト・人件費の削減

国にもよりますが、海外進出は主に次の3点でコスト面のメリットが期待できます。

  • 人件費:日本より賃金水準の低い国・地域では、人件費を抑えやすくなります。
  • 原材料費:原材料の産地に近い場所で生産すれば、調達や輸送にかかるコストを削減できます。
  • 税率:法人税率の低い国・地域で事業を行えば、税負担を軽減できる可能性があります。

ただし、賃金水準は経済成長とともに上昇する傾向があるため、中長期的な見通しを持って進出先を選ぶことが大切です。

資金・人材の確保

国内から世界へ視野を広げることで、資金や人材が集まりやすくなるといった利点もあります。海外での事業実績が評価されれば、取引先や金融機関からの信用が高まり、資金調達の選択肢が広がることもあります。世界レベルで事業を展開すれば、優秀な人材の獲得にもつながり、企業の競争力を高めることが期待できます。

企業の海外進出の主な形態

企業の海外進出の主な形態には、輸出・越境EC、駐在員事務所、海外支店、現地法人の4つがあります。現地での営業活動の可否や設立コストが異なるため、目的や事業の段階に合わせて選ぶことが大切です。

進出形態 現地での営業活動 初期費用 向いている企業
輸出・越境EC -(現地拠点なし) 小 低リスクで海外需要を検証したい
駐在員事務所 不可 小 市場調査を行い進出可否を見極めたい
海外支店 可 中 日本本社主導で事業を拡大したい
現地法人 可 大 現地に根付いた事業展開を目指したい

輸出・越境EC

輸出・越境ECとは、現地に拠点を持たず、日本から海外の取引先や消費者に商品を販売する形態です。初期投資が小さく撤退もしやすい一方で、現地の顧客との接点が限られ、市場の情報を得にくい面もあります。まずは海外市場の反応を試したい段階に向いています。

駐在員事務所

駐在員事務所とは、市場調査や情報収集、広報活動などを目的に設置する、本格進出前の準備段階の拠点です。設置手続きが比較的簡単でコストを抑えられる一方で、契約の締結や受注などの営業活動は原則として行えません。また、国・地域によっては銀行口座開設などにも制約があります。初めて海外に拠点を置く際の選択肢として検討すると良いでしょう。

海外支店

海外支店とは、日本本社の一部として現地で営業活動を行う拠点です。現地法人より設立手続きが簡易な場合が多い一方、法人格は本社と同一のため、取引や債務の責任は本社が負います。利益は現地と日本で課税対象となり、外国税額控除により一定の範囲で二重課税を調整できます。また、重要な意思決定に本社の承認が必要な点にも留意しましょう。

現地法人(子会社・合弁会社)

現地法人とは、進出先の法制度に基づいて設立する、日本本社とは別の独立した法人です。現地の税制が適用され、採用や取引において信用を得やすい点がメリットです。一方で、設立手続きが煩雑で、労務・会計・税務を現地の制度に沿って運営する負担も生じます。なお、現地企業と共同出資で設立する場合は、合弁会社と呼ばれます。

海外進出で企業が直面するリスクと対策

海外進出で発生しやすいリスクは、主に次の4つに分けることができます。

  • カントリーリスク(政治・経済・社会)
  • セキュリティリスク(人的・物的)
  • サイバーセキュリティリスク
  • オペレーショナルリスク(規制・調達・販売・知財・労務)
海外進出で企業が直面するリスクと対策

それぞれどのようなリスクなのかを確認しておきましょう。なお、先進国に進出した場合と、新興国・途上国に進出した場合では発生しやすいリスクの傾向が異なりますので、それぞれに対策を立てることが大切です。

カントリーリスク(政治・経済・社会)と対策

カントリーリスクとは、その国や地域の情勢が変化することによって企業が受けるリスクです。主に政治・経済・社会といった分野がカントリーリスクに含まれます。政治にまつわるリスクは現地の政治的基盤が安定していないために生まれ、例えば政権交代によって進出企業の扱いががらりと変わることなどがあります。また、クーデターや内戦、他国との武力紛争といった事態が起これば、従業員の安全確保や事業の継続そのものが難しくなるおそれもあります。それまで顕在化していなくても、反政府暴動など、将来的なトラブルの火種をはらんでいる国などもあるので注意しましょう。

経済的なリスクとしては、国債の債務不履行やバブル崩壊のような国家レベルの経済問題などが挙げられます。電力・通信・用水・輸送といったインフラの未整備や競争法等の不備なども経済的な要因です。
社会にまつわるリスクは、文化や歴史的背景、宗教等によって引き起こされます。先にも触れたような紛争や治安の変化のほか、反日感情によって現地の日系企業が暴動に巻き込まれる例もあります。

海外進出先の情勢や動向の変化によって生じるカントリーリスクに対応するには、現地の情報とそれを元にしたリスクマネジメントが欠かせません。状況は刻々と変化するため、その都度情報をアップデートすることも必要です。現地の関係機関などと連携し、新たに生まれ続けるカントリーリスクへの対処を怠ることなく実行することが大切です。

セキュリティリスク(人的・物的・災害)と対策

セキュリティリスクとは、企業や従業員の安全面に関するリスクです。テロや誘拐などのほか、違法薬物の勧誘など、現地の犯罪に巻き込まれるおそれもあります。
なかでも、手荷物の置き引きやスリ・ひったくりなどは海外において日本人が特に見舞われやすいトラブルです。今も海外の一部では、日本人はお金持ちで高級品を持っているという印象が強く、日本人だと分かるとターゲットにされてしまうおそれがあります。

自然災害もセキュリティリスクのひとつです。不可避な面も大きい一方、防災インフラが弱いために予想以上に被害が甚大になる場合もあり、事業を存続させるためにはきちんと対策を立てる必要があります。また、衛生・医療環境が整っていないために集団感染が起こり、従業員の身にも危険が及ぶおそれがあります。

人やモノに関するセキュリティ対策は、現地でのサポートが大切です。主な対策は次のとおりです。

  • オフィスや住居を選ぶ時点で危険エリアの情報を確かめる
  • 海外旅行保険や損害保険など、必要な保険に加入する
  • 常駐警備の配置や機械警備を導入する
  • AEDを設置する
  • 安否確認システムを整備する

サイバーセキュリティリスクと対策

サイバーセキュリティリスクとは、サイバー攻撃や内部不正などにより、情報の漏えいやシステムの停止が起こるリスクです。主に外部からの攻撃と内部犯行の2つに分けられます。海外拠点も、日本国内と同様にサイバー攻撃の標的となるおそれがあります。情報セキュリティに関する事故は、世界中で1件あたりの規模が年々拡大し、深刻化しています。

また近年では、従業員や取引先社員などの内部犯行によるセキュリティ事故の発生件数も増加傾向にあります。

主な対策は次のとおりです。

  • 海外進出のローンチ段階でセキュリティシステムを導入する
  • 現地で従業員を雇う場合は、社員教育などを適切に実施する

自社のセキュリティに関するガイドラインを整備するとともに、現地の従業員にも徹底周知しましょう。

オペレーショナルリスク(規制・調達・販売・知財・労務)と対策

オペレーショナルリスクとは、実際の事業展開や日常的な業務遂行などの場面で発生するリスクです。代表的な例は次のとおりです。

  • 規制:貿易における輸出入規制や投資規制、製造における操業規制
  • 調達:原材料・部品調達が困難になる
  • 販売:代金回収が困難になる
  • 知的財産:進出先の知的財産に関する法制度を十分に理解していないことなどにより、知的財産権が侵害される
  • 労務:人材不足や賃金上昇による採算悪化、労働争議によるストライキ・デモ

オペレーショナルリスクは、事案そのものは軽微に思えても、金銭的・物的被害にとどまらず、企業イメージの損失など甚大な損害を被るおそれがあります。
オペレーショナルリスクへの対処では、現地の風土や情勢に合わせた対応を徹底することが重要です。現地に詳しい専門家による各種コンサルティングを取り入れることも検討しましょう。

海外進出のリスクマネジメントを機能させる進め方

海外進出のリスクマネジメントを機能させるポイントは、次の3つです。

  • リスクマネジメントはPDCAサイクルで継続的に回す
  • 本社と海外拠点の役割分担・緊急対応プランを決めておく
  • 従業員に対する安全配慮義務を果たす
海外進出のリスクマネジメントを機能させる進め方

リスクマネジメントはPDCAサイクルで継続的に回す

操業開始後はPDCA(Plan・Do・Check・Action)サイクルに基づき、継続してリスクマネジメントを運用していきます。事業計画の立案とともに、リスクマネジメントの計画を立てるとよいでしょう。

Plan:リスク洗い出し・対策の検討

まずはその時点において、自社にどういったリスクが存在するのかを洗い出して把握します。リスクの重要度に応じて優先順位を決め、具体的に対策の内容、いつ・誰がやるかなどを決めていきましょう。

Do:対策を実施

対策が決定したら、計画をもとに実施していきます。海外拠点のみで要員が足りない場合は、本社側がしっかりとバックアップをしていかなければなりません。

Check:進捗を確認

進捗確認のタイミングをあらかじめ設定しておき、その時期になったら計画に遅れや問題がないか、そしてその対策が有効かどうかをチェックします。

Act:取り組み改善

現状を踏まえ、スケジュールを調整したり、これまでの取り組みを振り返ったりして、リスクマネジメントの継続的な改善を行いましょう。

本社と海外拠点の役割分担・緊急対応プランを決めておく

海外で緊急事態が起きた際に迅速に動けるよう、本社と海外拠点の役割分担や緊急対応プランを事前に決めておくことが大切です。いざリスクに直面した際は、日本の本社側とも連携しながら対処する必要があるため、本社側と海外拠点側それぞれの役割分担を明確にしておきましょう。
さらに、緊急時の安全確保や、被害軽減のための緊急対応プランも用意します。計画が定まったら、社内体制の構築とマニュアルを整備して社員教育を行うことになります。

海外進出のノウハウがまだ確立していない企業の場合は、こうした安全管理・安全対策を構築するために、外部の海外進出コンサルティングサービスを利用するのが有効です。安全対策診断やセミナー、マニュアル作成のサポート、社内研修を通した個別アドバイスなど、海外進出時のリスクマネジメント、海外セキュリティに関する支援を受けることができます。

従業員に対する安全配慮義務を果たす

企業には、海外に赴任・出張する従業員が生命や身体の安全を確保しながら働けるよう、必要な配慮をする義務(安全配慮義務)があります。世界情勢を見てみると、中東情勢の悪化や領土紛争、自然災害、感染症など多くのリスクが存在します。日本人も例外ではなく、テロや武装勢力間の衝突などさまざまな事件・事故に巻き込まれたり、標的にされたりするおそれがあります。
そのため、海外では観光に訪れる旅客だけでなく、事業のために滞在する邦人に対しても安全対策を講じることが必要です。外務省が提供している「中堅・中小企業海外安全対策ネットワーク」による安全対策支援や「官民合同テロ・誘拐対策実地訓練」、「安全対策セミナー(国内)」などを活用し、しっかりと安全対策に取り組みましょう。

また、海外旅行保険への加入は万一の際の費用面の備えにはなりますが、それだけで従業員の安全を確保できるわけではありません。安全配慮義務を果たすためには、次のような取り組みもあわせて進めましょう。

  • 従業員の渡航先・滞在先を把握する(外務省の「たびレジ」への登録や、在留届の提出を徹底する)
  • 現地の医療機関や治安に関する最新情報を収集し、従業員と共有する
  • 緊急時に現地で動ける協力会社や専門機関とのネットワークを確保する

ALSOKの海外展開企業向けソリューション

国内で警備会社として安全に関するノウハウを培ってきたALSOKでは、海外進出や海外出張の際の安全を守るために役立つサービスも展開しています。海外の拠点や目的によって、ご支援できる内容が変わりますので、まずはお気軽にお問い合わせください。

ALSOKの海外展開企業向けソリューション

ALSOKの海外事業

現在ALSOKでは、海外にも複数拠点を持ちながら事業を展開しています。警備・防災・ファシリティマネジメントなど、トータルソリューションで現地の事業をサポートしますので、海外進出や海外拠点の安全対策を検討する際は、ぜひご相談ください。

海外向け安全安心ソリューション

これから海外進出を目指す企業様に向けた、防犯・防災・設備管理までのトータルサポートになります。海外でもALSOK品質のサポートをご提供します。

まとめ

海外進出には、新市場の開拓やコスト削減、人材確保などのメリットがある一方、国内とは異なるカントリーリスクやセキュリティリスクへの備えが必要です。輸出や越境EC、現地法人など、進出形態ごとの特徴を理解し、自社の目的に合った形態を選びましょう。進出後はPDCAでリスク管理を継続し、本社と海外拠点の役割分担や緊急対応プランを整備することが重要です。まずはリスクの洗い出しと、従業員の安全を確保する体制づくりから始めましょう。

企業の海外進出に関するよくある質問

Q:中小企業でも海外進出はできますか?

A:可能です。越境ECや駐在員事務所など、初期投資を抑えて始められる形態もあります。ジェトロ(日本貿易振興機構)や中小企業基盤整備機構などの公的機関も活用し、まずは相談してみましょう。

Q:海外進出にはどのくらいの費用と期間がかかりますか?

A:越境ECや駐在員事務所はコストを抑えやすい一方、現地法人は費用と時間がかかる傾向にあります。進出先の国・地域や進出形態、事業規模によって異なるため、事前に専門機関へ相談しましょう。

Q:海外進出に失敗しやすいのはどのような企業ですか?

A:目的が曖昧で、現地の法制度や商習慣、リスクの調査が不十分な企業は、注意が必要です。進出の目的を明確にし、事前調査とリスク管理体制を整えましょう。