居住用不動産事故物件の告知義務の新基準とは?不動産オーナーが知っておくべきガイドライン
不動産オーナーの方なら、事故物件という言葉をよくご存じかと思います。最近はテレビ番組や映画、インターネット上の読み物などでも事故物件を取りあげる機会が増え、一般の方への認知度も高くなりつつあります。
この記事では、事故物件と呼ばれる居住用不動産物件の定義や概要、居住用不動産取引における事故物件の新たな告知義務などをご紹介します。
目次
居住用不動産の事故物件の定義
まず、居住用不動産の事故物件とはどのような物件を指すのかをご説明します。
事故物件とは
事故物件とは「心理的瑕疵がある物件」のことです。
不動産業における「瑕疵(かし)」とは住宅や建物の傷や不具合などを指し、法律的には建物が本来あるべき要件を満たしていないことを意味します。
心理的瑕疵とは、裁判例では、「目的物にまつわる嫌悪すべき歴史的背景に起因する心理的欠陥」と表現されており、一般的には、「それを知れば該当物件の売買・賃貸契約をしない」といわれるものです。心理的瑕疵には「人の死にかかわるもの」と「近隣に嫌悪施設があるもの(環境的瑕疵として分ける場合もあります)」があり、前者の「人の死に関する」物件がいわゆる事故物件にあたります。
心理的瑕疵のある物件は、入居や購入を希望する者に対し契約前に必ずその件を告知することが義務づけられています。
この事故物件に関する告知に関して、一般的な基準をとりまとめた新しいガイドラインが2021年10月に制定されました。
参考:国土交通省 宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン
新ガイドラインが制定された理由
居住用不動産取引に際し、買主・借主が契約を締結するか否かの判断に重要な影響を及ぼす可能性がある事案について、売主・貸主による告知が適切に行われることが重要です。しかし、実際には告知義務の必要な範囲や期間などが明確でなく、従来、事故物件とみなされる基準は不動産会社の判断によって差があったのです。
また、所有物件で死亡案件が発生すると無条件で「事故物件」とみなされるのではないかという不安から、高齢者の方の入居を敬遠する貸主へ、告知基準を明確にすることで高齢者の方への賃貸を促進する目的も兼ね備えています。
以下は、厚生労働省の「人口動態統計」による、「死亡の場所別にみた年次別死亡数」の推移をグラフにしたものです。
2000年からの約22年間をみても、自宅内で亡くなる方の人数は増加傾向にあります。自宅での死者数の増加は、この先事故物件が増加する可能性も考えられることを示唆しているといえるでしょう。
以上2点の観点から新ガイドラインが制定されました。
新ガイドラインで居住用不動産について事故物件である旨の告知義務の対象外となるケース
新たなガイドラインでは、居住用不動産の事故物件である旨を告知する義務のある物件とない物件に明確な線引きがされています。ここでは、新ガイドラインでは告知義務の対象に含まれない事例をご紹介します。
1.自然死・日常生活の中での不慮の事故死
原則として老衰や持病による病死など一般家庭で通常起こりうる死亡案件は、告知義務対象外となります。また自宅内での転落事故や転倒事故、入浴中・食事中に誤って発生した死亡案件も含まないものとされています。
2.上記以外の死亡の発生からおおむね3年経過したとき
上記でご紹介した以外の死亡案件や、上記のケースでも特殊清掃が必要となるような死亡が発生した物件は、買主・借主が契約を締結するか否かの判断に重要な影響を及ぼす可能性があるものと考えられるため、告知が必要となります。但し、当該案件の「発覚」からおおむね3年経過後は告知義務がなくなるとされます。
3.隣接住居や共用部分での発生
1でご紹介した以外の死亡案件でも、取引の対象となる不動産の隣接住戸や、集合住宅において日常生活上ほぼ使用しない共用部分で発生した場合は告知義務がないものとされます。また、1でご紹介した死亡案件で特殊清掃を行ったケースでも、隣接住戸や使用しない共用部分で発生したものについては告知義務の対象外です。
告知義務の期間はいつまで?
居住用不動産の事故物件には、告知義務の発生期間が設けられています。ここでは、事故物件の告知義務期間についてご紹介します。
告知義務の期間は人の死の発生からおおむね3年間
先にも簡単にご紹介していますが、居住用不動産の事故物件の告知義務は物件で死亡案件が発生してから「おおむね3年間」となっています。
ただしこの告知義務期間には注意が必要で、「賃貸物件のみ」に適用されることを知っておく必要があります。賃貸ではなく、売買契約を前提とする物件の場合は、経過期間にかかわらず告知義務が発生します。
これらの告知義務は宅地建物取引業法第47条、35条によって定められています。死亡案件により長期間放置されるなどで、特殊清掃や大規模改修が必要となった賃貸物件は、死の「発覚」から3年間はそのことを入居希望者へ告知しなければなりません。
ただし、47条において重要な事項について故意に事実を告げないことはしてはならない、と記載されていることから、死亡の発覚以降の期間にかかわらず、下記の場合は告知を行うことが必要といえます。
- 入居者などから心理的瑕疵に関する問い合わせがあった場合
- 入居者などが把握しておくべき特段の事情があると認識した場合
高齢者の入居に向けた賃貸物件の対策
高齢化社会にともない、賃貸物件にも単身で入居を希望する高齢の方が増えると予測されています。高齢の方も安心して賃貸住宅に住むことができるよう、入居に向けた対策を行っていくことが求められています。
現在はまだ、所有物件で死亡案件が発生すると無条件で「事故物件」とみなされるのではないかと、所有者が不安に感じてしまう状況が指摘されています。このため賃貸物件においては、高齢の方の単身入居が敬遠される傾向がなかなか払拭できません。
また、死亡案件が発生した物件は極端に価格相場が低く設定されるケースもあります。入居者が決まらないことを危惧して、価格を下げざるを得ない状況が想定できるでしょう。
先に述べた通り、生活上起こりうる自然死などのケースでは事故物件とみなされません。しかしながら死因を問わず、発見が遅れれば特殊清掃などが必要です。そうなると物件に心理的瑕疵が発生し、事故物件として3年間の告知義務も生じてしまいます。これらを防ぐには、万一入居者の自然死などがあっても早期の発見につなげることが重要です。
入居者に万一の事態があっても、早期発見で心理的瑕疵の発生を阻止でき、場合によっては入居者の死亡も回避できるかもしれません。告知義務を免れるためだけでなく、人命救助や物件の状態を維持するためにも入居者の状況を確かめることは大切でしょう。賃貸物件に緊急通報ひとつでガードマンが駆けつけて対処を行うサービスなどを導入し、安心感を高めることもおすすめです。
ALSOKでは、一人暮らしの高齢の方などに安心して生活を送ってもらうためのさまざまなサポートをご用意しています。入居者と連絡が取れない、入居者本人から緊急通報があった場合などは、近隣のガードマンが迅速に駆けつけ対処を行います。
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まとめ
居住用賃貸物件を所有・管理している方にとっては、物件にさまざまな人が暮らすことを想定し、万一の事態にも備えておくことが大切です。今後は一人暮らしの高齢者の賃貸暮らしも増えるとみられており、時代に見合った備えを取り入れておくことで物件価値を維持できるでしょう。
居住用賃貸物件の入居管理でお悩みをお持ちであれば、ぜひALSOKまでお気軽にお問い合わせください。