ビルの防災設備点検(消防用設備点検、防火対象物点検)について

総務省消防統計資料によると、近年の出火件数は平成19年以降減少傾向にあり、出火件数および火災による死者数も10年前の7割程度となっています。この要因として、電気機器製品の防火安全性能の向上や住宅用火災警報器の普及のほか、火災事故を教訓とした消防法改正による火災対策強化が挙げられます。死者44名の大惨事となった2001年の新宿区歌舞伎町ビル火災でも消防法は大幅に改正されました。
しかし、2016年の糸魚川火災、2017年埼玉県物流倉庫火災など大規模な火災事故が未だ後を絶ちません。また、これらの事故は、出火原因・建物規模は異なりますが、消防用設備が適切に管理され正常に作動していれば、被害拡大を低減できたと言われています。
この記事では、火災発生時の人的被害を防ぐために必要な防災設備点検(消防用設備点検、防火対象物点検)の重要性について、特に建物数が多い雑居ビルを例にご紹介します。
近年のビル火災
同統計資料によると、雑居ビルの多くが含まれる特定複合用途建物の火災発生件数の直近5年間の推移は以下のようになっています。

全体の出火件数が減少するのと同様に、特定複合用途建物の出火件数も減少傾向にあります。令和元年に増加に転じていますが、令和2年には平成30年よりも件数が減少し、過去5年間では最小の件数となっています。消防法の改正や消防機関による立入検査によって、防災設備の設置状況の改善や防災への意識が高まってきたと考えられます。
火災発生時、逃げ遅れの原因となる防火対策の不備
火災による死者発生の理由として半数近くが「逃げ遅れ」によるものとみられていますが、ビル火災で被害が大きくなる原因として、以下のような防火対策の不備が挙げられます。
- 避難階段に物を置いている
- 消防用設備の点検が未実施
- 自動火災報知ベルの不備
- 防火扉が開放されている(大量の煙が室内に入り込む危険性がある)
2001年の新宿区歌舞伎町ビル火災以降も、2007年の宝塚市カラオケボックス火災、2008年の大阪市個室ビデオ店火災、2009年の杉並区高円寺南雑居ビル火災などが発生しました。これらの火災のいずれにおいても、必要な防火対策を怠っていたことが原因で被害が広がったとみなされています。
火災が発生したこれらのビルは、消防署から防火設備とその管理状況について再三改善が求められていたようです。しかし、改善されないまま火災が発生したため、悲惨な事態を招き、ビルオーナーやテナント関係者も逮捕される事態となってしまいました。
設置と点検が義務付けられている消防用設備

ここでは、様々な消防用設備についてご紹介します。消防用設備の設置は、消防法によって義務付けられており、法に基づく設置命令に従わなかった場合、罰則を科せられることになっています。
警報設備
火災やガス漏れ、漏電の発生時に検知によって警報を発する設備です。火災報知機やガス漏れ警報器、漏電火災警報器などの消防用設備がこれに含まれます。
消火設備
火災が発生した際、早期消火を目的に使用される設備です。消火器や消火栓、スプリンクラーなどがこれに含まれます。また、消防法が定める基準を満たした設備を設置します。
避難設備
はしごや救助袋などの避難器具のほか、誘導灯などが含まれます。
これらには、年2回の法定点検の義務があります。
消防用設備点検の種類とおもな内容

消防法に基づいて実施される「消防用設備点検」には、機器点検と総合点検の2種類があり、それぞれ点検内容に違いがあります。
この法に基づく点検等維持命令に従わなかった場合は、罰則が科せられます。
機器点検
消防用設備などの設置状況や、外観から判断できる変形・損傷などの確認作業、そして簡単な動作試験を実施します。具体的には、消火器に腐食がないか、煙感知器の検知部にほこりが付着していないか、などの内容をチェックします。6か月に1回ごとの実施が義務付けられています。
総合点検
消防用設備などの一部もしくは全部を作動させることで、総合的な防火機能を確認する点検です。「自動火災報知設備に異常がないにもかかわらず感知器が働かず、ベルが鳴らなかった」などの不備を発見し、解消することが目的です。この点検は、1年に1回ごとの実施が義務付けられています。
防火対象物点検
防火対象物点検は、先に述べた歌舞伎町ビル火災を契機に施行された制度です。収容人員300名以上の特定防火対象物(人の出入りが多い建物・病院や店舗など)の管理権限者(各テナントを含む)は、1年に1回、防火対象物点検を実施・報告する義務があります。
この法に基づき、措置命令違反をした場合には、罰則が科せられることになっています。
点検の内容は以下項目を含みます。
- 防火管理者を選任しているか
- 消火・通報・避難訓練を実施しているか
- 避難階段に避難の障害となる物が置かれていないか
- 防火扉を閉鎖する際に障害となる物が置かれていないか
- カーテンなど防炎対象物品に、防炎を有する旨の表示がされているか
消防用設備は定期的に交換
消防用設備を設置していても、故障していては緊急事態の発生時に役に立ちません。交換時期の目安は、消火器は10年、受信機は15年、感知器は10年です。また、安全性の確保に限らず現行法規格への適合のためにも、定期的に防災設備点検を実施し、設備交換を行いましょう。
まとめ
雑居ビル、特に都心部のビルはテナントの入れ替わりが多く、各テナントの消防用設備点検や防火対象物点検が追いついていないビルもあるようです。防災意識の希薄さによる大きな人的被害を繰り返さないよう、消防庁では「違反対象物の公表制度」を実施して違反している建物の情報を公開しています。ビルオーナーやテナントの関係者は安心できる管理会社を選び、防災設備管理を依頼するようにしましょう。
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