裁量労働制とは?対象業務やメリット、導入する際の問題点を解説

裁量労働制とは?対象業務やメリット、導入する際の問題点を解説
2022.03.14

企業が従業員を雇用する際、必ず結ぶのが雇用契約です。その際、契約条項に含まれる労働形態の1つに「裁量労働制」に基づく働き方があります。
裁量労働制は複雑な労働形態となるため、導入時にはメリットや注意点を正しく把握し、企業と従業員の双方にとって有用となるよう活用することが求められます。
この記事では、裁量労働制の概要やメリット、注意点などをご紹介します。

目次

裁量労働制とは

裁量労働制は、労働基準法で定められている「みなし労働時間制」のうちの1つです。具体的には、実際の労働時間にかかわらず労働契約上取り決められた時間の分を働いたとみなされるものです。
出勤・退勤時間に制限を設けず労働者(各従業員)の裁量に任せ、労働者が自身のペースで仕事を進めて生産性を高める目的で設けられました。

フレックスタイム制との違い

裁量労働制と混同されるのが「フレックスタイム制」です。裁量労働制の出勤・退勤時間が一律ではないという点は、フレックスタイム制と共通しています。しかし、制度そのものには大きな違いがあります。

フレックスタイム制は、あらかじめ1カ月分の総労働時間を決めておき、労働者はその時間内で働く時間を自由に決定することができます。自由に決められるとはいえ、フレックスタイム制には必ず働いていないといけない時間帯「コアタイム」と、自由に出退勤時間を決められる「フレキシブルタイム」が設けられることもあります。

コアタイムとフレキシブルタイムは労使協定で自由に定めることができ、コアタイムを設定せず、労働者が働く日も自由に選択できるようにすることも可能ですし、フレキシブルタイムの途中で中抜けするといったことも可能です。ただし、フレキブルタイムやコアタイムを必ずしも設けなければならないものではありません。

このようにフレックスタイム制は「働く時間帯」を労働者に任せる制度であり、労働者は雇用者と取り決めた時間分だけ実働しなければなりません。

参照:働き方改革関連法解説(労働基準法/フレックスタイム制の改正関係)

みなし残業制度との違い

みなし残業制度とは実際の残業時間にかかわらず、労働契約にある残業時間を働いたものとみなす制度です。

このみなし残業制度と、裁量労働制は以下のように「労働したとみなす時間の対象」が違います。

  • 裁量労働制における対象は「所定労働時間」
  • みなし残業制度における対象は「所定労働時間を超えた残業時間」

みなし残業制度ではみなし時間の範囲内で残業時間が増減しても給与は同額となります。一方で裁量労働制は、みなし労働時間の範囲で実労働時間が増減しても給与は同額となります。(休日・深夜労働を除く)
例えば、裁量労働制でみなし労働時間が8時間の場合、その日の実労働時間が5時間であったとしても、給与は定められたみなし労働時間8時間分となります。5時間働いても、8時間働いても、10時間働いても、給与の金額は同じです。

みなし残業制度の場合、残業代(割増賃金)が支払われないと勘違いされやすいですが、残業時間とみなす時間を超えた場合は残業代が支払われる制度となっています。

また、裁量労働制もみなし残業制度も休日や深夜労働に関する割増賃金の規定が適用されるところは同一です。

みなし残業制度との違い
みなし残業制度との違い

裁量労働制は対象業務が限られている

裁量労働制が導入できる対象業務は限られており、次のとおり「専門業務型裁量労働制」と「企画業務型裁量労働制」の2種類があります。ここでは、2種類の裁量労働制の概要や対象業務をご紹介します。

専門業務型裁量労働制

業務の性質上、業務遂行の手段や方法、時間配分などを大幅に労働者の裁量に委ねる必要のある業務を対象とします。(労働基準法38条)
具体的に対象とされているおもな職種には、以下のようなものがあります。

  • アパレルや建築などのデザイン業務
  • 新聞やテレビ・ラジオ放送の制作、取材、編集業務
  • 弁護士、建築士、不動産鑑定士、公認会計士、弁理士、税理士、中小企業診断士
  • システムコンサルタント
  • インテリアコーディネーター
  • 証券アナリスト
  • 研究職 など(全19職種)

参照:厚生労働省労働基準局監督課「専門業務型裁量労働制」

企画業務型裁量労働制

事業運営上の重要な決定が行われる企業の本社などで、企画、立案、調査および分析(業務の遂行の手段および時間配分の決定等に関し、使用者が労働者に具体的な指示をしない業務)に携わる労働者が対象です。
上記の業務が行われているとみなされる対象事業所は、以下となっています。

1. 本社や本店にあたる事業所

2. 1以外では、次のいずれかに属する事業所

  • 事業の運営に影響のある決定が行われている
  • 本社や本店による具体的な指示なく、独自に事業の運営に影響のある事業計画や営業計画の決定が行われている支社や支店

参照:厚生労働省労働基準局監督課「企画業務型裁量労働制」

裁量労働制を導入するメリット・デメリット

裁量労働制の導入にあたっては、企業側と労働者側の双方で以下のようなメリット・デメリットがあります。

企業側のメリット

裁量労働制は、人件費の総額が算定できるため人件費の予測が容易になり、経費管理の手間を減らすことが可能です。

企業側のデメリット

各従業員1人ずつの出退勤時刻の把握など労働管理が難しくなる点や、労働時間が異なると顔を合わせる機会が減り、社員同士のコミュニケーションが困難になる点があります。

労働者側のメリット

自分のペースで仕事を進めることが可能となり、進捗や成果に応じて業務時間のコントロールがしやすくなります。また早期に業務を終えられれば、早く帰ることも可能です。出勤・退勤の時刻に縛られず、柔軟に働けることで集中しやすくなり、生産性向上にもつながります。

労働者側のデメリット

実際に何時間働いたとしても、決められた時間だけ働いたことになる「みなし労働」であるため、基本的には残業代が発生しません。
ただし、時間外労働(1日のみなし労働時間が法定労働時間の8時間を超えて設定されている場合)・深夜労働・休日労働がある場合は法令上割増賃金が発生します。

裁量労働制の運用における注意

裁量労働制を導入し運用するにあたっては、特に以下のような点で注意が必要です。

  • 残業時間に関する取り決め(主に長時間労働の防止)
  • 代休や振替休日の取り扱い(裁量労働制の適用外となる休日に労働した場合)
  • 年次有給休暇の取り扱い(裁量労働制の対象者の休暇取得状況を把握する必要がある)
  • 在宅勤務の場合の労働時間管理(主に長時間労働の防止)
  • 時短勤務で裁量労働制を取り入れる場合の労働時間管理(従業員が育児や介護を理由に時短勤務を申し出た場合は、みなし労働時間ではなく実労働時間における所定外労働や深夜労働を制限する必要がある)
  • 残業代が発生するケースにおける適正な割増賃金の算出(夜22時~翌朝5時に労働した場合や休日出勤を行い振替休日や代休が取得できない場合は休日の割増賃金(※)が適用されることがある)
種類 支払う条件 割増率
時間外
(時間外手当・残業手当)
法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えたとき 25%以上
時間外労働が限度時間(1ヵ月45時間・1年360時間)を超えたとき 25%以上
時間外労働が1ヵ月60時間を超えたとき 50%以上
休日(休日手当) 法定休日(週1日)に勤務させたとき 35%以上
深夜(深夜手当) 22時から5時までの間に勤務させたとき 25%以上
- 法定時間外+深夜 50%以上
- 休日労働+深夜 60%以上

※時間外労働や休日出勤による賃金の割増(割増賃金)は、全て労働基準法で定められています。

  • 副業可能な場合の労働時間管理(全ての働き方に共通することだが、従業員の健康管理のため裁量労働制にも当てはまる)

特に、以下のケースは導入時に十分な留意が必要です。

みなし労働時間が8時間を超えている場合

法定労働時間には上限があり、労働時間が「1日8時間、週40時間」を超える場合は割増賃金の対象となります。裁量労働制の場合も、みなし労働時間が法定の8時間を超えて設定されていれば超過分には割増賃金が発生します。例えば、みなし労働時間を「9時間」と設定した場合、各日1時間の残業代が発生することになります。

深夜労働が発生した場合

22時~翌朝5時の間に労働した場合、深夜手当が発生します。

休日労働があった場合

休日に出勤した場合、休日手当が発生します。

「時間外労働+深夜労働」のように、2つの超過勤務が同時に行われれば、2つを合算した割増賃金が発生することになります。

裁量労働制の導入の際に見直すべき問題点

裁量労働制にはメリットとデメリットがあるため、導入時には課題が生じる可能性があります。ここでは、裁量労働制を導入する際のおもな問題点と、その対処法をご紹介します。

長時間労働が常態化してしまう

裁量労働制は、労働管理がうまくできないと、みなし労働時間と実働時間に差が生じてしまいます。特にテレワークを推奨している場合、労働者が管理者による指揮監督の及ばない環境にあるため長時間労働に陥りがちです。
裁量労働制の導入にあたっては、労働時間管理の方法や勤怠管理の仕組みの見直しなどを適宜実施する必要があるでしょう。

評価制度の見直しが必要になる

裁量労働制のもとでは1人ひとりの働き方が変わるため、個々の成果や業績に適した評価制度を決めなければなりません。人事評価制度を大きく見直す必要も出てくる場合があるでしょう。

休日出勤に対する賃金の未払い

裁量労働制は残業という概念はなく、あらかじめ1日の労働時間を8時間と取り決めた場合、3時間働いたとしても8時間働いたとみなして、給与が支払われます。あるいは、10時間働いたとしても会社側は超過2時間分の残業代を支払う必要はありません。そのため、従業員が「裁量労働制は残業代(割増賃金も含める)が一切出ない」と誤解したまま、働いていることが少なくありません。誤解したまま休日出勤や深夜労働などを報告しないもしくは労務管理担当者が把握できていない場合、割増賃金の支払いを怠ってしまうケースがあります。一般的に裁量労働制であっても深夜や休日賃金は発生します。
この事例は、労務管理担当者が従業員の労働状況を把握しきれていない場合に起こり得ると考えられます。個々の労働状況を都度把握できる勤怠管理システムの導入など、適切な対策が必要です。

裁量労働制の運用をサポートするALSOKのサービス

上述のとおり、裁量労働制を導入し運用する場合、労働時間管理や勤怠管理、人事評価などを適正に見直すことが大切です。
ALSOKではセキュリティカードでの入退室による出退勤管理や、生体認証による出入管理のほかにさまざまなテレワーク支援のサービスも取り扱っております。

勤怠管理システム

タイムカードを利用している場合、打刻し忘れや出退勤記録が改ざんされる可能性もあります。それでは適正に勤怠管理ができません。
ALSOKの勤怠管理システムは、ICカード認証による入退室で出入管理や出退勤の管理が可能です。オフィスに出入りした時間を出退勤時間としてシステムで集計することで、タイムカードの打刻時間や勤怠管理システム等に登録した勤務時間が正しいか確認できるため、煩わしさがありません。また、打刻ミスや出退勤記録の改ざんなども起こりにくく、適正な勤怠管理を実現できるでしょう。
ICカード認証の他にも、非接触型の指紋・指静脈情報による生体認証での出入管理もお選びいただけます。

ALSOKの出入管理サービス

テレワーク支援

テレワークの場合、特に適正な勤怠管理を行わないと長時間労働が常態化しやすくなります。
ALSOKがご提供するテレワーク用ツール「ソリトン セキュアデスクトップサービス」では、パソコンでログインしている時間を管理することが可能です。パソコン管理を行うことで実際の業務時間との乖離が生じているか、すぐに把握できます。

PCマネジメントサービス

テレワーク中に使用するパソコンの管理ツールとしてもお使いいただけるPCマネジメントサービスでは、いつ、誰が、どのようにパソコンを操作しているか操作ログの取得が可能。残業人数の確認や、豊富な設定で就業時間の管理をすることができ時間外労働超過を抑制、確実な勤怠管理と管理者様の負担軽減を実現いたします。

まとめ

裁量労働制は長時間労働を招くという意見もありますが、導入に際し適正な労働管理や評価制度の見直しを行うことで、企業にも従業員にもメリットが生まれます。
働き方改革を進めるために裁量労働制やテレワークを導入することは1つの手段といえます。テレワーク時のパソコン管理などにお悩みでしたら、ぜひALSOKまでご相談ください。