遠隔点呼とは?活用事例や導入メリット、IT点呼との違いを解説

遠隔点呼とは?活用事例や導入メリット、IT点呼との違いを解説
2023.08.25

自動車運送事業者(バス、ハイヤー、タクシー、トラック)の方であれば、「IT点呼」や「遠隔点呼」という言葉を一度は耳にしたことがあるでしょう。
しかし、最近スタートしたばかりの遠隔点呼も情報が少なく、導入の検討を躊躇してしまうということもあるのではないでしょうか。

この記事では、遠隔点呼の概要やIT点呼との違い、遠隔点呼を導入するメリットや注意すべき点などをご紹介します。遠隔点呼の導入を検討している方はぜひご参考にしてください。

※本コラムは2023年2月現在の情報を基に作成しております。

目次

遠隔点呼とは

遠隔点呼とIT点呼の違い

遠隔点呼とは、自動車運送事業者(バス、ハイヤー、タクシー、トラックなど)が機器・システムを用いて拠点間で行う点呼のことです。点呼は過労運転等による事故防止を目的として、国土交通省の法令によって義務付けられています。点呼は原則対面と定められていますが、遠隔点呼はモニター越しに離れた場所から点呼を行うものです。
なお、これまでもカメラやモニターを用いて点呼を行う「IT点呼(トラック)」及び「旅客IT点呼(バス・タクシー)」が実施されており、いずれも「輸送の安全及び旅客の利便の確保の確保に関する取組が優良であると認められる営業所」に限られたものとされていました。トラック事業者においては、Gマーク認定営業所あるいは下記の4条件を満たした営業所とされ、営業所をまたいだIT点呼は、点呼を行う側と受ける側両方にGマーク認定がある場合に限り実施可能です。

自動車運送事業者は、下記の3条件を満たせば営業所内限定でIT点呼が可能です。

  • 営業所を開設してから3年が経過していること
  • 過去3年間、自らの責に帰する重大事故を発生させていないこと
  • 過去3年間、規定の行政処分又は警告を受けていないこと
  • 地方貨物自動車運送適正化事業実施機関が行った直近の巡回指導において、総合評価が規定以上であること(トラック事業者のみの条件)

このように、IT点呼は優良な営業所限定という制約がありました。一方で、令和4年4月からスタートした遠隔点呼は、要件を満たす機器・システムの導入により、いずれの営業所においても実施可能となっています。

IT点呼と遠隔点呼は併存した制度となっており、似通った点がありますが異なる点もあります。注目すべき点は、遠隔点呼によりいずれの事業者・営業所においても点呼業務の効率化の道が開けたことにあります。

IT点呼 遠隔点呼
営業所の要件 Gマーク認定営業所及び一定の要件を満たす優良な営業所 いずれの営業所でも実施可能
範囲 <営業所内> 営業所と当該営業所の車庫間または当該営業所の車庫と当該営業所の他の車庫間 <営業所内> 同左
<営業所間※1> 営業所と他の営業所間/営業所と他の営業所の車庫間/営業所の車庫と他の営業所の車庫間
※1:トラック事業者であって同一事業者内かつGマーク認定営業所間のみ
<営業所間※2> 同左
※2:同一事業者内、またはグループ企業間(100%株式保有による支配関係にある親会社と子会社又は100%子会社同士)
時間の制約 1営業日のうち連続する16時間以内(ただし営業所内は制約なし) 制約なし
必要な機器・システム 国土交通大臣が認定した機器 要件を満たすカメラ、モニター、生体認証機能、映像・音声共有、点呼結果・故障の記録・保存機能を有する機器・システム、アルコール検知器
環境条件 なし 監視カメラの設置、環境照度の確保、通信環境・通話環境の確保
運用時の順守事項 なし 運行管理者の確認事項、機器故障時の点呼体制整備、個人情報の取扱い等

IT点呼では営業所の要件や時間、必要な機器・システムといった部分で制約があり、場合によっては実施できないということもありました。しかし遠隔点呼では、時間の縛りがなく、要件を満たす機器・システムを用いればいずれの営業所でも実施可能となり、遠隔点呼を導入するハードルが低くなったのが一つのメリットとされます。

遠隔点呼の対象

2.遠隔点呼の対象

上記のとおり、遠隔点呼は貨物・旅客など業種を問わず、要件を満たす機器・システムの導入により、自動車運送事業者における全ての緑ナンバー事業所が実施の対象となります。Gマーク認定の有無や条件等もありません。当該営業所内、又は同一事業者の営業所等間等で遠隔点呼が可能です。

遠隔点呼で満たすべき要件

ここでは、遠隔点呼で満たすべき要件について紹介します。
遠隔点呼では、対面での点呼と同等の確実性を担保するために以下の3つの要件を満たす必要があります。

遠隔点呼に使用する機器・システムが満たすべき要件

遠隔点呼は、運行管理者がカメラやモニター等で運転者の表情、全身、酒気帯びの有無、疾病、疲労、睡眠不足等の状態を明瞭に確認できることが必要です。運行管理者が遠隔点呼における情報をいつでも確認できるよう、他の営業所の情報も確認できることが必要です。点呼結果は遠隔点呼を受けた運転者ごとに電磁的方法により記録し、記録内容は1年間保持されなければなりません。また、運行管理者や運転者以外の者が遠隔点呼を行えないようになりすまし防止として生体認証等を利用して、個人を確実に識別できることが必要です。例えば、点呼時に顔認証を行い本人確認するというものがあります。馴染みのない運転者への点呼も発生する可能性もあるため、運転者がなりすましに及ぶおそれもありますが、顔認証などの生体認証などを導入しておくとなりすましのリスクを抑えることができます。
顔認証は、手持ちのwebカメラから実施することができるものもあり、面倒な機器設定なく点呼時の本人確認が可能です。

遠隔点呼を実施する場所が満たすべき施設・環境要件

カメラ・モニター等で運行管理者が明瞭に確認できる環境照度を確保しなければなりません。運転者の顔とカメラの間の照度は500ルクス程度が望ましいとされています。監視カメラは運行管理者が必要に応じて、運転者の全身及びアルコール検知器の使用状況を確認できるように点呼場の天井等に設置する必要があります。
また、点呼が途絶しないように通信環境を整える必要があります。通話中にノイズに入る、雑音が聞き取れないということがないように通信環境を確保しなければなりません。

運用上の遵守事項

遠隔点呼の運用において大事なのが事前の情報把握です。運行管理者等は、面識のない運転者の顔の表情や健康状態などの確認、運転者がスムーズに業務を遂行するための地理情報や道路交通情報等の把握が必要です。また、運行中の点呼漏れや車両の持ち帰りを防止するため、車両位置の把握に努め、点呼時には運転者の携行品の確認も求められます。
さらに、機器故障等で遠隔点呼が実施できない、あるいは遠隔点呼により運転者を乗務不可と判断した場合など、非常時の対応をあらかじめ決めておく必要がある他、運転者に対して個人情報の扱いに関し同意を得ること、遠隔点呼の運用に関して運行管理者や運転者等の関係者への周知等が必要です。

出典:国土交通省 遠隔点呼リーフレット

遠隔点呼のメリットは多数

人件費の削減

1.人件費の削減

トラックでの長距離運送や深夜の運送、あるいは遅い時間のタクシーや深夜バスの運行など、運送業界では早朝や深夜の勤務が多くあります。このため、営業所ごとの点呼時間帯にあわせて運行管理者等を配置しなければなりません。
これが遠隔点呼により、日中や夜間の時間帯に点呼執行者(運行管理者又は補助者)を営業所ごとに配置しないで済むというメリットがあります。例えば、人件費が高騰する早朝や深夜には複数の営業所の点呼業務を1つの営業所に集約することで少ない人員で対応可能となり、対面点呼と比べて確実に人件費を削減できます。

点呼業務の負担軽減

遠隔点呼により、営業所と車庫が離れている場合には、点呼執行者が営業所から車庫まで移動せずに済む、あるいはドライバーが車庫から営業所まで移動する必要がなくなるため、双方にとって業務の負担軽減のメリットがあります。
また点呼執行者によっては、点呼のために早朝から出勤し、日中から夜間の点呼まで営業所に待機しなければならない場合もあります。遠隔点呼を利用することで、他営業所と点呼執行者をシェアすることにより、必ずしも各営業所の点呼執行者が点呼を担当しなくてもよくなります。

点呼の確実な実施による運行の安全性向上

遠隔点呼に必要となるシステムでは、アルコールの測定結果や点呼結果が自動的に記録・保存され、虚偽報告や記録の改ざんなどの不正防止機能もあるため、安全な運行のための点呼の確実性が向上します。
また、これまで点呼記録を手書きで作成していた場合には、遠隔点呼の実施に伴いシステムを導入することで点呼業務の自動化が実現できます。

遠隔点呼導入時の注意点

遠隔点呼の要件に沿った機器・システムの導入が必要

遠隔点呼導入のためには、以下の表の通り規定された性能を持つカメラやモニター、アルコール検知器、ドライバーの健康状態を平時と比較できる機器の他、映像や音声、アルコール測定結果をリアルタイムに確認・共有できる機能、なりすまし防止のための生体認証機能、点呼結果や故障の自動記録・保存機能などを有する機器が必要となります。また、施設・環境要件として、点呼時に全身を映すための監視カメラの設置も必須です。

カメラ・モニターの推奨スペック
スペック スペックの詳細
カメラ 画素数 200万画素以上
フレームフレート 30fps以上
モニター サイズ 16インチ以上
解像度 1920×1080px以上

出典:国土交通省 遠隔点呼実施要領

そのほか、遠隔点呼に必要な情報が営業所等間で共有され、運行管理者が確認できること、点呼結果および機器故障内容が電磁的方法により記録されていることも必要です。

点呼結果の記録については以下の要件が定められています。

点呼結果についても、下記の結果が運転者ごとに記録されること、遠隔点呼を実施する営業所時間で共有できることとされています。

点検結果(乗務前後共通) ・遠隔点呼者実施名 ・運転者名 ・点呼日時 ・点呼方法 ・運転者の乗務に係る事業用自動車の自動車登録番号または識別できる記号、番号等 ・運転者の酒気帯びの状況に関する測定結果および酒気帯びの確認結果 ・運転者の酒気帯びの状況に関する測定時の静止画または動画 ・その他必要な事項
乗務前 ・運転者の疾病、疲労、睡眠不足の状況に関する確認結果 ・日常点検の確認結果 ・指示事項 ・運行管理者等が乗務不可と判断した場合、乗務不可と判断した理由および代替措置の内容
乗務後 ・自動車、道路および運行の状況 ・交代運転者に対する通告

さらに故障が発生した際、故障発生日時および故障内容が記録されることも要件として定められています。

このように機器・システムに関する要件が多岐にわたるため、従来使用している既存の運行管理システムとの連携だけでは、すべての要件を満たすことは難しいでしょう。そのため、遠隔点呼に必要な要件が揃う専用のシステムを導入し、足りない機器を揃えるということが現実的です。

国の審査が必要

遠隔点呼は、実施営業所を管轄する運輸支局長等に1か月以上前もっての申請が必要となります。令和4年度では、3回期(5月末〆、8月末〆、11月末〆)に分けて申請が受け付けられており、申請後は必要に応じて国の職員による現地調査や追加資料の提出などの審査が行われ、承認が下りた後実施可能となります。

※令和5年度以降は、申請・審査制から、届出制への変更が予定されています。

従来のやり方に合った機器構成を選ぶ

すでに承認が下りている遠隔点呼の機器構成は、事業者に毎に多少の違いがあります。言い換えれば、遠隔点呼で使用する機器・システムの要件を満たしていれば他事業者と同一の機器構成である必要はなく、従来自社で行っている点呼のやり方に合わせた機器構成を選ぶことが可能です。そのため、遠隔点呼切り替え時に大きな混乱が生じないように、従来の点呼業務の実態を踏まえながら機器構成を検討していくとよいでしょう。

遠隔点呼の活用事例

ここからは、遠隔点呼の活用事例についてご紹介します。

営業所内

営業所内

上述にあるように遠隔点呼は、営業所と当該営業所の車庫間、又は当該営業所の車庫と当該営業所の他の車庫間といった営業所内または営業所等間で実施することができます。ただし、業種が異なる営業所等間(バス事業者営業所とタクシー事業者営業所間など)での実施は認められていません。

遠隔点呼を導入することで、営業所から遠隔地にある拠点間の運行管理を行い、過労運転等による事故防止に努めることができます。営業所・車庫以外にも休憩室や待合室、宿泊地などさまざまな場所に設置されています。対面の点呼と違い、運行管理者が事務所に常駐している必要がなく、複数の事務所の点呼を同一で行えるため、人件費削減にも有効です。

営業所等間

営業所と同一事業者の営業所間や車庫間、営業所の車庫と同一事業者の営業所間や車庫間で活用できます。グループ企業間の遠隔点呼も可能な範囲として認められており、営業所とグループ企業の営業所間や車庫間、営業所の車庫とグループ企業の営業所間や車庫間で活用が可能です。
ここでいうグループ企業とは、「100%株式保有による支配関係にある親会社と子会社又は100%子会社同士」であることを指します。遠隔点呼を導入することにより、運行管理者の業務効率化を図ることが可能となります。

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まとめ

自動車運送業界では、長時間労働の是正や働き方改革が強く求められています。今回の遠隔点呼制度の開始は、すべての企業担当者様にとって点呼業務の在り方を見直すきっかけとなり、働き方を改革できるチャンスととらえることができます。
遠隔点呼の導入を検討している、興味のある企業担当者様は、ぜひお気軽にALSOKにご相談ください。