野生鳥獣による農作物被害の現状と対策

野生鳥獣による農作物被害の現状と対策
2024.01.31更新(2023.03.15公開)

近年、野生動物が人里の農作物を荒らすことによる食害の深刻化が多く報じられています。
実際に農林水産省の発表によると、野生鳥獣による農作物被害は令和2年度で約161億円にのぼり、前年度に比べて約3億円増加(対前年2%増)しており被害は拡大傾向です。
この記事では、野生鳥獣による農作物の食害の現状と、被害を防ぎながら生き物との共生を図る対策・事例についてご紹介します。

目次

有害鳥獣による被害の現状

鳥獣被害が現在どのくらい深刻であるか、その現状についてご紹介します。

野生鳥獣による被害状況

森林や農作物に被害を与える可能性のある野生動物として、熊(ヒグマ、ツキノワグマ)や野生のシカ、イノシシなどがよく知られていますが、その他にもハクビシンやカラスなど住宅地でも見る機会のある鳥獣もいます。

林野庁が令和5年(2023年)に発表した資料「森林・林業統計要覧2023」によると、おもな野生鳥獣による森林被害の年間発生面積の推移は以下の図のようになっています。

主要な野生鳥獣による森林被害の年間発生面積の推移
出典:林野庁 主要な野生鳥獣による森林被害の年間発生面積の推移
https://www.rinya.maff.go.jp/j/kikaku/toukei/attach/pdf/youran_mokuzi2023-3.pdf

被害の要因となる動物はシカが中心です。令和3年度(2021年度)の森林被害全体の約7割が、シカ被害によって占められています。

主要な野生鳥獣による森林被害面積(令和2年度)
出典:林野庁 主要な野生鳥獣による森林被害面積(令和3年度)
https://www.rinya.maff.go.jp/j/kikaku/toukei/attach/pdf/youran_mokuzi2023-3.pdf

令和5年に農林水産省が発表した鳥獣被害の現状と対策の資料では、令和4年度の野生鳥獣による農作物被害は約156億円にものぼりました。平成22年以降ゆるやかに減少傾向にありましたが、近年は横ばいが続いています。数字の大きさから農作物の被害が深刻であることが分かります。

農作物被害額の推移
出典:農林水産省 農作物被害額の推移
https://www.maff.go.jp/j/seisan/tyozyu/higai/hogai_zyoukyou/index.html

なお、上記の農作物被害額の6割がシカとイノシシによるものと明らかになっており、全国各地の里山においてシカ・イノシシ対策が早急に求められていると考えられます。

野生鳥獣の被害が減少しない理由

上述した通り野生鳥獣による被害は深刻であり、なかなか改善できないという現状があります。ここでは、森林開発が進んだ現代でも野生鳥獣による被害を減少させることが難しい理由についてご紹介します。

なぜ鳥獣被害は減少しないのか

1.鳥獣の個体数の増加

野生鳥獣は近代からの山林開発によって減少していると思われがちですが、増加している地域も少なくありません。近年のハンター(猟師)の高齢化や減少、また国内のオオカミが絶滅したこともあり、天敵が減少したシカなどの繁殖力の高い野生鳥獣の数が増えてしまったことが要因の一つとして挙げられます。

2.鳥獣を捕獲する人手の不足

上記で猟師の数の減少を挙げましたが、猟師に限らず野生鳥獣を捕獲できる人材が高齢化によって減っています。また、地方では人口の減少が深刻な社会問題となっており、森林の補修などを担う治山事業(※)の人材が減っていることも鳥獣を捕獲する人手不足の要因として考えられるでしょう。

※森林法に基づいて定められた「保安林(生活にとって重要な公益的機能を持った森林)」が持っているさまざまな機能を高度に発揮させることを目的とした事業。
例えば、荒廃地の復旧、山崩れで傷んだ森林の補修、土石流で荒れた渓流を安定させ災害を防止する、といったことが当てはまります。

3. 緩衝帯の減少と耕作放棄地の増加

近年、鳥獣が山奥から里へ下りてくるようになった原因の一つに緩衝帯の減少があります。緩衝帯とは鳥獣と人との生活圏を隔てるエリアの事で、昔は「里山」へ山菜や薪を採取するなど、人の出入りによって管理されていましたが、現在は人口減少、高齢化の影響で「里山」の管理が不十分となり、鳥獣が人の生活圏へ接近する状態となりました。さらに、かつて畑であった土地が耕作放棄され、適切に管理されないまま放置されているという状況が見られ、平成17年には東京都の面積の1.8倍に相当する38.6万haとなっており、農地面積は減少する一方で耕作放棄地面積率は約3倍に増加しています。おもな耕作放棄地の発生原因は、高齢化による労働力不足や農地の受け手がいないことなどが挙げられています。
このように森林環境を人が整備できなくなり、耕作放棄地は野生鳥獣にとって身を隠しやすい環境でもあるため、鳥獣と人が接近しやすい条件が揃い、結果として農作物の被害を招いていると言えます。

鳥獣被害が増え続けるとどうなる?

先の項目で有害鳥獣が増加傾向にあり、人との生活距離が近いということが分かりました。しかしこの状況をそのまま放置すると、いずれ産業としての農業はどう変化してしまうのでしょうか。

1.営農意欲の減退

せっかく手間をかけて農作物を育てても、野生動物による被害で収益が上がらないという事態になってしまいます。これでは後継や新規就農にも悪影響が及び、営農意欲の減退に繋がります。

2.農作物被害額が高い水準のまま

農作物への被害が高額に及ぶ状況が長期化すると、農林水産業が基幹産業となっている地域は特に深刻なダメージとなるでしょう。また金銭的な問題に限らず、増加した鳥獣による食害は再造林や新植地にまで広がり、森林環境そのものの破壊につながります。ゆくゆくは生態系自体が大きく乱れ、さまざまな生き物が絶滅の危機に瀕するおそれもあります。
野生鳥獣が農作物に被害を及ぼしている状況は、自然環境全体の問題であることを意識する必要があるでしょう。

鳥獣被害を減少させる対策

野生鳥獣による農作物の被害を減少に導くため、鳥獣被害対策の基本とされている3つの要素についてご説明します。

個体群管理

その地域の野生動物の個体数や密度などを考えて、適切な個体数の目標を定めます。その後、適切に狩猟や捕獲を実行し、その地域に最適な個体数が保たれるようコントロールする対策です。
この対策は、単に農産物被害そのものを減らすことだけではなく、地域の野生動物の個体数を把握することによって、生態系も適切に管理することを目的としています。
また、すべての鳥獣を捕獲対象とするのではなく、農地にある餌を目当てに侵入する有害な鳥獣だけを捕まえることで、最小限の被害で今後の影響を抑制することが可能です。

侵入防止対策

被害が及ぶと思われる農耕地などへ野生鳥獣を侵入させないよう、柵や罠などを適切に使用して捕獲したり追い払ったりします。
シカやイノシシのような動物の場合は電気柵や箱罠などが効果的ですし、鳥類の場合は網での対策が有効とされています。侵入が予測される鳥獣の種類を考慮し、適切な侵入防止対策を実施しましょう。また、生き物たちが身を隠しにくいよう除草をしっかり行っておくことも侵入防止に有効です。

生息環境管理

個体数管理を行い、侵入を防ぐことによる被害防止に加え、環境を整備することで人と鳥獣との居場所をすみ分けることも必要です。
例えば、不要な作物を畑の周辺に放置しておけば、鳥獣たちは餌と認識して畑の周辺へとどんどん侵入してしまいます。これらの行動は人による餌付けともいえるため控える必要があるでしょう。
また、けもの道の脇の草木を刈るなど適正に管理をすることで、鳥獣たちが身を隠しにくくなり、警戒し始めることによってその付近に近づかなくなってきます。その他、耕作放棄地を荒れたままにせず、草や木を刈っておくことも有効なすみ分け対策になるでしょう。
鳥獣が入って良いと認識できる場所を減らすことで、人と鳥獣の居場所をそれぞれ区画できます。

鳥獣被害を減少させる対策

野生鳥獣の捕獲方法

すべての野生鳥獣を同じ方法で捕獲(※)することはできません。体の大きさや生態の違いに合わせ、有害性を認識できている鳥獣に向けた方法をとる必要があります。
ここでは、動物の種類別に有効な捕獲方法や捕獲設備設置時の注意点、ポイントをご紹介します。

※鳥獣の捕獲には、原則として狩猟免許が必要になります。
狩猟免許は4区分(網猟免許、わな猟免許、第1種銃猟免許、第2種銃猟免許)に分かれており、各都道府県で試験を受けて合格すると取得できます。

シカの捕獲方法

柵の設置

まずは被害を防ぐため、シカが農地に立ち入らないよう柵を設置しましょう。捕獲の前段階にあたる行動ですが、先にも述べた「侵入防止対策」の一環として有効です。
柵はシカの大きさに合わせ、2メートル弱ほどの高さが確保できていれば良いとされています。

囲い罠

囲い罠とは、柵で囲まれた空間にシカが入ると出入口が閉じ、そのままシカを閉じ込める罠です。多数のシカを1度に捕獲しなければならないときに有効な方法とされています。

くくり罠

くくり罠は設置が容易で使用しやすく低コストなため、今もっとも普及している捕獲方法といわれています。シカの通り道などにシカが好む餌を設置し、シカが立ち止まって罠本体を踏むとワイヤーが作動し、片足をくくり逃げられなくします。
罠1基につき1頭しか捕獲できないため、捕獲したい頭数が決まっている場合や、1頭ずつ捕獲したい場合などに適している方法です。また、罠は気づかれないよう草や葉などで隠して設置すると有効です。

狩猟

狩猟免許を持つハンター(猟師)が、実際に現れたシカを網や鉄砲で捕らえる方法です。
シカには何度も同じ餌場や遊び場に現れる習慣性があり、それを利用して事前に餌付けを繰り返しておくと、これらの捕獲方法に有効です。

イノシシの捕獲方法

箱罠

箱型の罠を設置し、餌付けなどでイノシシをおびき寄せて箱に入った所で出入口を閉じ、逃げられなくする捕獲方法です。警戒されないよう草などで罠本体を見えにくくしたり、罠内部だけではなく周辺部にも餌をまいたりして警戒心をなくさせるといった工夫が有効です。

囲い罠と狩猟

シカでも用いられているこれらの方法は、イノシシにも同じく有効です。

イノシシは賢く警戒心が強いため、罠などを目立つ状態で仕掛けると効果が薄くなってしまいます。仕掛けがバレないように注意するほか、日によって設置状況を変えてみるなど日常的な管理が重要です。

有害鳥獣対策の事例紹介

有害鳥獣対策を実際に行い、効果を上げている事例もあります。

埼玉県におけるアライグマ対策の事例

外来生物のアライグマが増え、被害が増加した埼玉県での事例です。
狩猟免許がない人も所定の研修受講でアライグマの捕獲を可能とし、箱罠型の専用捕獲機を積極活用することで一定の捕獲数を確保しました。また、地域間の情報共有や分析を密に行い、適正な防除につなげています。

三重県のサル・シカ対策の事例

サルやシカなどの獣による食害が深刻化していた三重県の事例です。
市が主に取り組んだのは、住民による環境整備と適切な追い払いです。餌を放置しない、草刈りで動物を隠れにくくするなど基本的な環境改善と、動物の目撃者がすぐ花火で周囲に知らせ、集団で追い払いを行うという2段階の対策を行いました。
この追い払いでサルの出没はかなり減らすことができ、シカも併せて金網の防護柵を設けることで適した対策を実現できています。

上記の事例について、詳しくは農林水産省のホームページもご覧ください。
https://www.maff.go.jp/j/seisan/tyozyu/higai/manyuaru/sogo_taisaku/jirei.pdf

有害鳥獣対策におけるジビエ事業の拡大

昨今、シカ肉やイノシシ肉などは鉄分などの栄養素が豊富でヘルシーな食材として、ジビエ料理として活用されています。ここからは有害鳥獣対策におけるジビエ事業の拡大についてご紹介します。

ジビエ事業とは

鳥獣対策の取り組みの1つに挙げられる「ジビエ事業」。ジビエとは、狩猟で得た野生鳥獣から得られた食肉のことです。ジビエを食生活・食文化に生かすことは、捕獲鳥獣を資源として利用することにもつながるでしょう。
狩猟等で野生鳥獣の個体数を調整することによって農産物被害を低減できるだけでなく、農山村地域の所得をアップさせられるなど、さまざまなプラスの働きが期待できます。

ジビエ事業の実態

野生動物の肉を食べることは難しいといわれてきましたが、現在ではさまざまな調理法が確立され、多くの野生動物をおいしく食べることができるようになりました。
実際に、令和2年度に処理された野生鳥獣から産出したジビエの利用量は増加傾向をみせており、今後もジビエの活用は年々注目されていくことが予測されています。

有害鳥獣対策ならALSOKがトータルサポート!

有害鳥獣を効果的に対策するには、適した道具や設置方法、日常的な設備の管理などが必要です。また、状況によっては対策すべき鳥獣が複数の種類にわたる場合もあるでしょう。
多様な野生動物に、それぞれ適した方法で確実な対策を行うためには、プロの業者と地元の自治体、住民の連携をお勧めします。
警備会社であり「認定鳥獣捕獲等事業者」の認定も受けているALSOKは、野生鳥獣被害対策のプロフェッショナル。対策用品のご提供から設置、設備の定期的な管理や実際の駆除までトータルに行っています。
扱いやすい箱罠や囲い罠など、さまざまな対策用品をラインアップ。各地で実績を上げていますので、鳥獣被害に関するお悩みがあれば、ぜひALSOKまでご相談ください。

まとめ

有害鳥獣による農作物の被害には、自治体や地元の人たちの自主的な対策が欠かせません。しかし、大がかりな設備を設置したり、実際に捕獲を行ったりするとなれば、プロのアドバイスやサービスが必要です。
ALSOKでは、警備会社ならではのノウハウを生かし、最先端の有害鳥獣対策サービスをご提供しています。鳥獣による農産物被害にお悩みの方は、ALSOKまでお気軽にお問い合わせください。