シカ・イノシシなどの野生動物による被害を防ぐ対策とは?

2024.01.30更新(2018.11.28公開)

近年、地方部を中心にシカ・イノシシなどの野生鳥獣による被害が深刻な問題となっています。野生鳥獣による農作物被害額は約156億円(令和4年度)に上り、さらには森林や生態系、人々の生活にまで影響を及ぼしているのが現状です。また2023年度(令和5年度)に入ってからはクマの被害も例年より多く散見されています。
鳥獣被害の対策は、出没した個体を捕獲するだけでは不十分であり、多面的に対策を講じていくことが求められます。この記事では、シカ・イノシシなどによる鳥獣被害を減らしていくため、被害の実情から要因、対策について解説します。

深刻化するシカ・イノシシなどの野生鳥獣による被害

シカやイノシシといった動物による被害は中山間地域を中心に深刻化・広域化しています。農林水産省の調べによると、2022年度(令和4年度)の野生鳥獣による農作物被害額は約156億円に上ります。230億円となった2012年度(平成24年度)以降、被害額は減少傾向にあるものの、農業を始めとする各方面への被害は依然として甚大なものとなっています。

農作物被害のうち、特に大きいのがシカやイノシシによる被害です。獣類の割合としては、シカによる被害が50.7%、イノシシが28.4%となっており、これらによる農作物被害は実に被害額全体の6割以上に及びます。また、森林の被害面積については全国で年間約7,000haとなっており、シカによる被害が約8割を占めています。

こういった鳥獣被害は農林業に多大な被害をもたらすだけに収まりません。人的被害や生活環境の悪化といった被害が深刻化するとともに、森林破壊、希少植物の食害などの生態系への影響も問題となっています。さらに、鳥獣による被害は営農意欲の減退や耕作放棄地の増加にもつながり、被害額として数字に表れる以上の影響を各方面に対して与えていると言えるでしょう。

出典:農林水産省「全国の野生鳥獣による農作物被害状況について」(令和4年度)

個体数が増加傾向にある野生鳥獣

環境省の調べによると、ニホンジカ(北海道を除く)の推定個体数は2013年度(平成25年度)末において約305万頭でした。これは、1989年(平成元年)の約30万頭から四半世紀で約10倍に増加したことを示しています。さらに、現在の捕獲率を維持した場合、2025年には約500万頭にまで増加し、今以上に大きな被害をもたらす恐れもあるのです。

そのような鳥獣被害への対策のひとつとして、2013年に環境省・農林水産省が「抜本的な鳥獣捕獲強化対策」を策定しました。この対策では2023年までにシカ・イノシシの生息数を半減させることを目標として掲げており、ニホンジカについては、2011年度(平成23年度)実績の2倍以上の捕獲を実施しなければならない旨が記述されています。

現在も、この目標を達成するために、環境省・農林水産省や地方自治体においてさまざまな面からの対策が行なわれています。管理のための捕獲事業制度化の検討や狩猟銃の規制緩和のほか、ICT等を利用した捕獲技術の高度化なども積極的に推進しています。また、捕獲事業を強化する対策と同時に、地域ぐるみの被害防除・生息環境管理や、捕獲した鳥獣を食肉(ジビエ)として利活用する取り組みも進められています。

出典:環境省「統計手法による全国のニホンジカ及びイノシシの個体数推定等について」(平成28年)
環境省・農林水産省「抜本的な鳥獣捕獲強化対策」(平成25年)

令和5年度はクマの人身被害が過去最大に

例年に比べて令和5年度は「街中でクマを目撃した」「クマに襲われた」というニュースがよく報道されています。全国各地でクマが農村や市街地に出没し、クマと遭遇した方がケガをした、亡くなったなどの人身被害が深刻化しています。
環境省の資料によると、令和5年度のクマによる被害件数は196件、被害人数は217人と過去最大を記録しました。過去数年の数字を見ても、令和5年度はクマの人里への出没件数が異常に多くなっていることが分かるでしょう。

クマによる人身被害について

出典:環境省「クマ類による人身被害について」(令和6年)

シカ・イノシシなどの鳥獣被害が深刻化する要因

シカ・イノシシなどの鳥獣被害が深刻化する要因

鳥獣被害が深刻化する要因としては、一般的に以下のような要因が複合的に関係しているとされています。

1. 生息域の拡大

近年、シカ・イノシシの生息域は拡大傾向にあります。1978年から2014年までの36年間でニホンジカは約2.5倍、イノシシは約1.7倍に生息域が拡大しており、その要因のひとつとして考えられているのが温暖化による積雪量・積雪期間の減少です。

そもそもシカは寿命が長く、1歳以降のほとんどのメスが毎年1頭の子を産むため繁殖力も高いとされます。また、一部の植物を除いてほとんどすべての植物が餌となります。そんな生態のシカが、暖冬・少雪によって子ジカの死亡率が減少することで個体数が急速に増加し、多雪地として知られる尾瀬や南アルプスの3,000m級の山々にまで分布を広げています。

イノシシも繁殖力が高く、ほぼすべてのメスが毎年4〜5頭の子を産みます。積雪条件で生息は限定されるものの、人家に近い里山に多く生息し、シカ同様に温暖化で生息域が拡大しています。また、もともと生息していなかった地域でも食肉用に飼育していたイノシシやイノブタ(イノシシとブタの交配種)が逃げたり、狩猟資源育成のために人為的に放獣されたりしたことで生息域が拡大したようです。その一方で、シカやイノシシの天敵であるニホンオオカミといった捕食動物の絶滅も関係していると考えられています。

出典:環境省「二ホンジカ等の生息や被害の現状」

2. 狩猟者の減少・高齢化

狩猟は免許制となっており、狩猟期間や猟法には厳しい規則があります。ここ数年は新規の狩猟免許取得者数が増加傾向にありますが、1975年には50万人以上であった狩猟者も2015年(平成27年)には19万人まで減少しました。さらにベテランの狩猟者は高齢化しており、狩猟の捕獲圧が低下しています。

有害鳥獣の捕獲では銃猟ではなく、わな猟を行う場合が多くなります。しかし、わな猟は見回りなどに労力を必要とし、狩猟者が減少・高齢化した状況では対応しきれなくなるケースもあります。捕獲後の埋設・焼却処理なども負担となります。また、地方自治体の有害鳥獣捕獲事業も猟友会頼りになっている場合が多く、狩猟者は相当の費用・手間を負担しながら協力していることが多いのが現状です。

出典:農林水産省「鳥獣被害の現状と対策」(平成30年)

3. 耕作放棄地の増加

耕作放棄地とは、以前耕作していた土地で、過去1年以上作物を栽培せず、この数年の間に再び栽培する考えのない土地のことです。農業の高齢化や後継者不足、離農などによって耕作を放棄するケースは非常に多く、1990年は21.7万haだった耕作放棄地は、2015年には42.3万haとなっています。

耕作放棄地はやがて、荒れた竹林、ススキ・ササなどの植物に覆われた土地となります。こういった環境はシカやイノシシに餌場・隠れ場所を提供する生息適地となり、鳥獣被害を深刻化させる要因のひとつとなるのです。

出典:農林水産省「荒廃農地の現状と対策について」(平成28年)

4. 過疎化・高齢化などによる人間活動の低下

中山間地域における人口の減少や高齢化、生活スタイルの変化などによって、人間活動が低下していることも鳥獣被害が増える要因となっています。かつては里山として人間の影響があった土地も、森林管理や炭焼き、狩猟などで出入りする人間が少なくなりました。

もともとシカやイノシシなどの野生動物は用心深く、基本的にはわざわざ人間のいる場所には寄ってきません。しかし、人間の気配が薄れた中山間地域では、動物の生息域と人間の生活圏の境界線が曖昧になっており、農村だけでなく平野部・市街地にまで鳥獣が出没する状況になっているのです。

5. 山の餌不足

鳥獣が人里までに生息域を拡大している主な要因として「山の餌不足」が挙げられます。特に冬なると、他の季節に比べて餌を確保することが難しくなります。

農村や市街地には餌となる植物などが放置された状態の場所もあるため、鳥獣は餌を確保できることを学習し、餌を求めて人里まで下りてきます。

シカ・イノシシなどの鳥獣による被害の例

シカやイノシシなどの鳥獣による被害は、先に述べたような甚大な農業被害から人的被害までさまざまです。ここでは、実際にどのような被害が起きているのか見ていきましょう。

シカによる被害

シカは植物性のものならほとんど食べるため、被害を受ける農作物は多岐にわたります。水稲を始め、麦、豆類、白菜などの葉菜、大根などの根菜が狙われます。また、以前は食べなかったものでも、茶の葉など味を覚えると食べるようになります。

また、林業や森林の生態系に与える被害も甚大です。冬場の餌としてスギやヒノキ、果樹などの樹皮を食べる食害のほか、オスが木に角を擦り付けて剥皮するなどの被害があります。また、地表の植物が食い尽くされて景観が損なわれる、土砂崩れが発生するというケースも発生しています。

イノシシによる被害

シカと比べてイノシシは高栄養価で消化しやすい部位を好んで食べます。農作物のなかでは水稲、サツマイモ・ジャガイモなどのイモ類、好物のタケノコ、豆類、栗などが狙われます。また、水田の稲が踏み荒らされる被害や、地中の餌を探すために路肩や土手を掘り返されるという被害もあります。

イノシシは警戒心が強いため基本的には人間を避けますが、住宅地に侵入したり、刺激されると人間を襲ったりする可能性もあり大変危険です。跳ね飛ばされて怪我をするだけでなく、指を噛み切られたり、股下に入ったオスの大きな牙で太ももの動脈を裂かれて失血死したりする事故も発生しています。また、人間に慣れると買い物袋などを狙って襲ってくるというケースも報告されています。

シカ・イノシシともに、自動車との衝突事故も少なくありません。衝突によって車が損傷を受けるだけでなく、高速道路などではねられたシカ・イノシシを避けようとした車が事故を起こすという場合もあるようです。また、シカやイノシシが電車の路線内に立ち入り、衝突事故・ダイヤの乱れを発生させるという事例もあります。

以下のグラフは農作物被害の推移を示したものです。グラフから見ても、シカ・イノシシによる被害は鳥獣の中でも非常に大きいことが分かります。

※「その他獣類」にはモグラ、マングース、タイワンリス及びキョンが含まれています。

出典:農林水産省「野生鳥獣による農作物被害の推移(鳥獣種類別)」

シカ・イノシシなどの鳥獣被害をなくすための対策とは

シカやイノシシが出没したとき、被害を受けたときにその都度対処するだけでは、根本的な対策にはなりません。被害防除・個体数管理・生息環境管理の3つの基本要素について、同時かつバランスよく対策を講じることで、被害の減少が期待できます。

被害防除

シカやイノシシからの被害を防ぐためには、そもそも「近付けさせない・侵入させない」ことに重点を置きましょう。

防護柵・防護ネット

侵入防止柵・電気柵・防護ネットなどで農地への侵入を防ぎ、被害を防除します。鳥獣は柵の弱いところを見つけて侵入してくるため、道路や河川を含め全面的に農地を囲い、メンテナンスを欠かさず行う必要があります。柵を飛び越えたり、くぐったりして侵入する場合もあり、正しい知識で柵を設置することが重要です。

電気柵

約1秒間に1回の間隔で電流を柵に流し、触れた場合に電気ショックを与えて侵入を防ぎます。電気ショックによって侵入できないと学習すれば、近付かないようになります。ただし、電流が流れていない時間帯に侵入されてしまうと意味がないため、基本的に一日中電流を流しておくことがおすすめです。バッテリーがなくなったり電気柵が破損したりしていると電気柵の効果は得られないので、定期的に点検・メンテナンスを行う必要があります。

音・光

鳥獣が近付くとセンサーが感知し、警報音や光で威嚇することで追い払います。鳥獣がよくいる場所や通り道に設置するのがおすすめです。しかし、鳥獣が音や光に慣れてしまうと効果が得られなくなる場合があるため、音の種類や大きさを変えられる装置を選ぶと良いでしょう。

個体数管理

個体数や密度などを考慮した目標に従って、適切な捕獲・狩猟を行うことで周辺地域の個体数を管理します。山に生息する個体を管理するとともに、実際に農地を餌場と認識して農作物に被害を与えている有害鳥獣を的確に捕獲することで、被害を減らすことにつながります。

罠による捕獲

狩猟で多く使われる罠には、囲い罠、箱罠、くくり罠といった方法があります。罠を仕掛けるときは、どこに設置するかが重要です。事前の下見でターゲットの鳥獣が頻繁に現れる場所を把握し、捕獲しやすい場所に餌を置いて罠を仕掛けます。

一度捕獲に失敗してしまうと強い警戒心を持たれて、なかなか罠がある場所へ近づかなくなります。鳥獣が比較的安心できるような場所を選び、捕獲できるタイミングまで辛抱強く待つことが大事です。

銃による捕獲

銃を使用した捕獲では、所持許可が下りているライフル銃、散弾銃、空気銃の3種類を、ターゲットの鳥獣の種類・大きさによって使い分けます。狩猟ができる場所は決められているため、事前に銃猟禁止区域を確認しておきましょう。また、ターゲットとなる鳥獣がどこにいるか下見を行うことも重要です。自分がいる場所を常に把握しながら、どこにどのような鳥獣がいるのかデータを集めて対策しましょう。

生息環境管理

被害の予防・個体数のコントロールとともに、鳥獣が寄り付く環境を作らないようにすることも非常に重要です。農地周辺に放任されている柿などの果樹を撤去したり、農地に放置した野菜クズなどによる無意識の餌付けをなくしたりすることで、副次的な餌場を除去します。また、山際の藪を刈って緩衝地帯を作ったり、耕作放棄地を刈り払ったりして鳥獣の隠れ場所・通り道をなくし、鳥獣と人間の住み分けを明確にしていくことが大切です。

これらの対策により鳥獣被害を減らすことができますが、一度限りのものではなく、継続的に実施していく必要があります。地域が一丸となって、それぞれの要素について確実に対処できる体制を整えていくことが重要な課題となります。

ALSOKの「有害鳥獣対策」で効果的にリスクを低減

鳥獣問題は深刻化しているうえ、捕獲等にもコスト・労力や危険がつきまといます。ALSOKの「有害鳥獣対策」では、対策に必要な機器の販売から設置・管理・駆除までをトータルサポートし、鳥獣問題の解決をお手伝いします。

ALSOKグループでは、2022年1月時点で東京(※主に香川)・岩手・秋田・宮城・山形・福島・群馬・千葉・神奈川・福岡において「認定鳥獣捕獲等事業者」の認定を取得しています。すでに周辺地域において鳥獣捕獲等の実績があり、自治体や中山間地域の各種施設など、鳥獣対策のあらゆる場面でサービスを提供しています。

※認定鳥獣捕獲等事業者
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わな・防護柵などの鳥獣対策商品を幅広く取り揃えており、ICT活用によって見回りの労力を減らせる最新の監視装置付きの罠などもご提供しています。また、狩猟ではドローンを活用して有害鳥獣の映像やリアルタイムの位置情報を取得することが可能です。映像から得た情報を銃器捕獲作業者に共有することで、より効率的な鳥獣対策・捕獲につながります。

鳥獣罠監視装置の設置例

鳥獣捕獲には、以下のいくつかの工程があります。

  • 罠の設置
  • 罠の見回り・餌やり
  • 止め刺し(捕獲した鳥獣にとどめを刺すこと)
  • 移送
  • 埋設・処理

ALSOKではこのような鳥獣捕獲に関わる全業務を請け負うだけでなく、お客様の状況に応じて必要な業務のみをご依頼いただくことも可能です。さらに、ご要望に応じて罠の設置場所や生息環境管理についてのアドバイス・解説なども承っておりますので、鳥獣対策についてお悩みの場合はお気軽にALSOKにご相談ください。

地方部において深刻化するシカ・イノシシなどの鳥獣被害のリスクを減らしていくためには、的確かつ継続的な対策が不可欠です。長期的な視点でさまざまな対策を講じる必要があるため、地域ぐるみで鳥獣被害に強い体制を整えていくことが求められます。大切な農作物・自然資源や地域住民の生活を守るため、積極的に対策を行いましょう。