防災マニュアルの作り方とは?事業継続に必要な企業の備えと対策

防災マニュアルの作り方とは?事業継続に必要な企業の備えと対策
2024.01.30更新(2021.03.15公開)

災害は予測不能なことが多く、とっさに適切な判断ができるか否かで被害の程度が大きく異なる場合があります。人命を守って被害を最小限に抑え、事業の継続や早期再開を図るには、防災マニュアルを作成しておき、万一においてもすべての従業員が適切な行動をとれるようにすることが何より重要です。
この記事では、企業における防災マニュアルの必要性や作り方、防災マニュアルとBCP(事業継続計画)とのかかわりなどについてご紹介します。

目次

防災マニュアルの必要性

災害をはじめとする予期せぬトラブルが発生した際には冷静な判断が難しくなり、適切な対処を行えず二次災害を招く恐れもあります。そのような事態を回避するためにも、地震、津波、浸水、火災など災害の発生時に、人命と財産、企業を守るためにどのように対応するかを記した「防災マニュアル」を事前に作成しておくことは重要です。

以下のグラフは、大企業・中堅企業に対して実施したアンケートで得られた「災害対応で今後新たに取り組みたいこと」について回答をまとめたものです。

災害対応で今後新たに取り組みたいこと
出典:内閣府「令和3年度 企業の事業継続及び防災に関する実態調査」

災害発生に備え、大企業では訓練の見直しや社内リスクの認識などへの関心が高いことがわかります。一方、中堅企業では社員とその家族の安全確保や災害によるリスクに対する対応方法の策定に取り組みたいという回答が多いです。また大企業では、被災後の事業継続を視野に入れたBCPに関する回答も非常に多く得られています。

防災マニュアルの役割

防災マニュアルは、災害時や平常時においてどのような役割を持っているのでしょうか。先に述べたとおり、万一の事態が発生した際に落ち着いて適切な対処を実行可能としておくことが第一の役割です。もう一つの役割は、平常時に予期せぬ災害に備えるべく、万一の災害発生時において各人員の行動指針や役割分担を明確に把握しておくことです。
災害マニュアルを災害時において適切に運用するためには、平常時からその内容を各人員が把握し、災害時に自身が何をすべきか頭に入れておくことも必要となります。

防災マニュアルは更新が必要

防災マニュアルは、1度作成したらその内容でずっと運用できるとは限りません。
作成したマニュアルをもとに災害を想定した訓練を実施し、その都度見つかった改善ポイントを洗い出します。それに応じてマニュアルの内容を定期的に見直し、必要に応じて改訂を行い、またそれに即して訓練を実施する「PDCAサイクル」で継続的に育成していくことも必ず実践しましょう。

防災マニュアルの作り方

防災マニュアルといっても、他社のマニュアルをそのまま写したような形式的で薄い内容では、何が起こるか分からない災害時に適切に機能しない可能性があります。自社の業務内容や体制に応じて作成しましょう。
自社で防災マニュアルを作成する際は、以下のポイントを必ず内容に盛り込みましょう。

災害時の組織体制(役割分担)

災害発生直後は、何より迅速に適切な対応をとることが求められます。そのため社内で防災対策本部を設立し、その人員体制や各人員の役割などを詳細に決めておきます。それをすべての人員が把握し、緊急時に何をすべきか即座に判断できる内容にしておかなければなりません。
たとえば、以下のような人員を想定し役割を分担するといった体制構築が有効です。

  • リーダー(現場指揮担当)
  • 総務担当(対策本部の設立・運営、各部の支援)
  • 情報担当(災害関連情報を集め、連絡を行う)
  • 消火担当(火が出た際に延焼防止措置を行う)
  • 救護担当(負傷者の救護を行う)
  • 社員ケア担当(安否確認および物資の配給や困っている社員への支援を行う)

情報収集の内容・手段

災害発生時、どのように現場や社内外の情報を収集すべきか、またその情報を活用する判断基準や方法についてもマニュアルに明確に定め、誰が確認しても内容が分かるように記載しておきましょう。
通常、企業における情報収集手段としてテレビ、ラジオ、新聞、電話、FAX、インターネット、Eメールなどが利用されます。これに加え、災害発生時は防災行政無線や消防救急無線、災害用伝言サービスなどを活用しましょう。

緊急連絡網

勤務時間外や休日に災害が発生した場合、設立した防災対策本部に従業員の安否確認情報や本部からの指示を伝えるための連絡手段とその経路をマニュアルに明記しておきます。

初期対応・避難について

災害が発生した際に真っ先にとるべき行動は、すべての従業員の安全な避難です。災害が起きたと分かったとき、各従業員が最初にどのような行動をとるべきか、またどのような場所へ避難を試みるべきかが分かっていなければなりません。マニュアルにはさまざまな災害を想定した上で決めた避難場所を記載し、それらを誰が見ても分かるようにしておきましょう。たとえば、以下のような対応方法を記しておくと良いでしょう。

  • 消防や警察への連絡(必要な場合)
  • 重要な書類やデータの保護
  • 負傷者の応急処置や出火した際の初期消火と延焼防止
  • 事業所内に危険が予測される場合の緊急避難(津波・土砂災害・毒物の漏出・火災など)

これらの対応・避難が完了したら、従業員が全員安全に避難できているかを必ず確認しましょう。連絡が取れない従業員がいないか、行方不明になっていないか、怪我をしていないかを把握することで、その後の救出対応をスムーズに行うことができます。

防災マニュアル作成のポイント

前の項目では、防災マニュアルを作成する際に盛り込むべき内容についてご説明しましたが、ここでは防災マニュアル作成時に押さえたいポイントをご紹介します。

5W2Hで考える

防災マニュアル作成時には「5W2H」の手法を取り入れると良いでしょう。具体的には実施の目的(WHY)、具体的な実施事項(WHAT)、実施順序(WHEN)、実施する人(WHO)、実施場所(WHERE)、実施の手引き(HOW TO)、実施すべき数量・分量(HOW MUCH)=5つのWと2つのHです。

簡潔に伝える

長い文章ではなく、図や表、写真や動画を活用することで「じっくり読ませないこと」を意識した表現を心がけましょう。一瞬で判断を迫られる場面も想定し、「一目見れば理解・把握が可能な内容」にすることが大切です。
また、人間が1度に把握できる情報の数の限界は7つといわれていることを踏まえ、項目を大別する際には7つまでにまとめるとより分かりやすくできます。

3部構成で品質向上

マニュアルは煩雑な項目を設けてしまうと、とっさの行動が必要な局面で役立たなくなる可能性があります。以下の3部に分け、簡潔ながらポイントを押さえた構成にすると分かりやすいマニュアルにすることができます。

1.チェックリスト

何を用意できていて、どこを点検・確認できているか各人がチェックできる表を設けましょう。

2.様式に沿った報告事項

比較的長い文章を用いることが必要となる報告事項には、決まった様式を設けて必要な内容をその様式に沿って記載しましょう。できるだけ、視覚的に単純な形式をベースにすると、誰でも楽な視線移動で見進めることができます。

3.用語集を設けて知識を共有する

防災に関する用語の中には、日常的にあまり用いない単語や言い回しも頻出します。それらがすぐに理解できないと、判断や行動に迷ってしまう可能性もあるでしょう。マニュアル内にはピンポイント用語集を設け、事前に目を通しておくことでマニュアルに記載された用語を理解できる状態にしておきます。

内容を定期的に見直す

作成した防災マニュアルに基づき、平時にも定期的な教育や訓練を実施しましょう。その結果や成果に基づき、不足や修正事項が見つかればマニュアルの見直しを図ることも必要です。
また、社内における組織変更などの変化にも即時対応しなければなりません。実際に災害が発生しマニュアルが活用された際にも、その後のフィードバックを反映し内容を充実させていくことが求められます。

防災マニュアルと併せて実施したい対策

災害が発生した場合に備えて、事業継続や従業員の安全確保のために、企業や組織が防災マニュアルと併せて実施すべき対策をご紹介します。

BCPの策定

企業や組織にとって災害発生時に従業員の命を守り、損失を最小限に抑え、その後の事業継続や早期復旧を図ることは非常に重要です。そのためには、事前にBCP(事業継続計画書)を策定しておく必要があります。BCPの策定は、予想外の緊急事態が起きたときに企業全体で適切な対応がとれると、企業の信用度向上や生産性向上といったさまざまなメリットを得ることができます。BCPはただ策定するだけではなく、定期的に見直し・改善を行うことが大切です。

避難訓練の実施

大規模な建物には防災管理業務の実施が義務付けられており、年一回以上の避難訓練を実施する必要があります。従業員が安全に、かつ素早く避難するためには、実際に災害が発生したときを想定しながら、正しい知識の習得と避難経路を把握していなければなりません。
避難訓練に関して確認しておきたい問題点やポイントについては以下の記事を参考にしてください。

ALSOKでは、災害発生時を想定して自分たちで災害対応や避難行動を考える「災害図上訓練」をご提供しています。周辺地図や建物の図面を用いて、判断力や思考力を養えるため、より実践的な訓練をイメージすることが可能です。

ALSOKの関連商品

防災備蓄品の準備

地震や津波など大規模な災害が発生すると、ガスや水道、電気などライフラインが停止してしまう可能性があります。また、物流が止まると簡単に食料や水が手に入らなくなるかもしれません。そのような事態を想定し、被災後の生活に必要な防災備蓄品を事前に準備しておくことが重要です。

BCPと防災マニュアルの違い

防災マニュアルと聞き、BCP(事業継続計画)について連想した方も多いでしょう。BCPと防災マニュアルは密接に結びついていることが求められますが、両者には違いがあります。

BCPとは

BCP(Business continuity plan)とは、「事業継続計画」と訳し、災害が発生した場合において企業や組織の事業継続および早期復旧を可能とするための計画書のことです。具体的にはリスクアセスメントを行い、緊急時に人命や企業の損失を最小限に抑えて停止した事業は早期に復旧できるように手順・方法をまとめておきます。
自然災害やテロなどさまざまなリスクがいつ起こるか分からない今の時代、適切なBCP対策を講じることは企業の存続を左右する重要な取り組みといえます。

BCPと防災の違い

防災マニュアルは、災害発生時における具体的な対策を詳細に盛り込んだ手引書にあたります。一方BCPは災害を含めたすべての事業停止リスクに備え、どのような事態においても円滑に事業継続を図るための対策を記したものです。
BCPと防災マニュアルには重複する内容も数多く見られるため、混同されがちです。しかし、防災マニュアルは各従業員の人命保護や被害の抑制を主目的としていることに対し、BCPは事業継続という目的に重点が置かれています。事業の継続を視野に入れる場合は、防災マニュアルだけでは不十分となることもあり得ます。
防災マニュアルで人命を守って被害拡大を防ぐことはBCPの基礎となり、BCPでは事業停止を可能な限り回避するというように、双方が重要な役割を持っていると考えましょう。

BCP対策

リスク情報を把握する重要性

BCPにおいて想定されているリスクの種類は、災害にとどまらず多岐にわたります。地震や津波、台風被害や噴火などの自然災害のほか、コンピューターやネットワーク関連のシステム障害、サイバー攻撃、事故や火災などもリスクに該当します。
多くのリスクによる被害を抑えるため、可能な限り多数のリスクに対応可能な情報を収集しようとすればするほど、コストがかかってしまいます。また、リスクの数が増えれば必要なリスク情報の取り漏らしが発生する可能性も考えられるでしょう。リスク情報は情勢変化に応じて増加する場合もあり、つねに社会状況の変動に目を配り、必要な情報を盛り込んでいくことも求められます。

防災マニュアルと避難訓練計画書

防災マニュアルやBCPをすでに策定し、その内容に即した避難訓練を定期的に実施している企業は数多くあると思います。
その避難訓練の計画書も作成しておくことで、訓練の成果を把握しやすくなり、それに基づく防災マニュアルやBCPのブラッシュアップにも役立ちます。

避難訓練は基本的に、防災マニュアルの内容に沿って進められるものです。そこで、避難訓練自体のシナリオがあることでより実践的な避難訓練が可能となります。万一の事態においてもそこから得た経験や知識が功を奏するはずです。
避難訓練計画書を作成する際は、訓練実施に際しての目標や目的を明確にしましょう。その達成度によって、訓練の成果を的確に把握することが可能になります。また計画書は、必ず防災マニュアルやBCPの内容に沿って作成することが必要です。

企業における避難訓練計画については、以下の記事もご参照ください。

ALSOKの安否確認サービス・BCPソリューション

ALSOKでは、災害時の企業における人命保護や事業継続に備えたさまざまなサービスを提供しています。
これからBCPを策定する企業のために、BCPの立案から策定、そして企業内での定着に至るまで一貫してサポートを行う「BCPソリューションサービス」では、災害にとどまらず犯罪や情報管理などあらゆるリスクを想定して事業継続を支援します。
BCPソリューションサービスでは防災マニュアル策定支援も行っており、お客様が既に作成されている防災マニュアルを検証、改善のアドバイスを行います。また従業員が携帯できるよう、ポケットマニュアルの作成も可能です。ALSOKでは、ただ優れたBCPの策定をサポートすることだけではなく、全従業員に意識付けを図るところまでお手伝いします。

また、災害などの緊急時に、すべての従業員の状況をただちに把握するための安否確認システムもご提供しています。
災害が発生するとALSOK安否確認サーバからすぐ安否確認メールが自動送信され、確実・効率的に各従業員とコンタクトをとることが可能です。
また、一斉送信される自動送信メールに加え、管理者が任意で特定の関係者に緊急連絡を行える仕組みも備えています。近年増加しているテレワーク従事者の状況確認や、何らかの業務トラブルが発生した際にも確実な情報伝達を可能にしています。

まとめ

防災装備や食料などの備蓄、クラウド上への事業データバックアップを行うなど、万一に備えて対策している企業は多いでしょう。同時に、防災マニュアルの作成とともに、それをベースとしたBCPの策定や避難訓練計画書の作成なども並行することが重要です。
BCPの策定や運用を支援するサービスや、災害時に備えた安否確認システムなどを適宜取り入れ、万一の際も人命を守り、二次被害の拡大抑止と事業継続に取り組める防災体制の構築を図っておきましょう。

ALSOKの安否確認サービス(アプリ版)

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