顔認証の仕組みとは?マスク社会でも導入が進む顔認証システム

顔認証の仕組みとは?マスク社会でも導入が進む顔認証システム
2024.01.31更新(2021.03.19公開)

デジタルカメラやスマートフォン内蔵のカメラアプリに備わっている、「顔認識」という機能をご存じの方は多いでしょう。撮影画像内で人の顔を検知し、笑顔かそうでないかなどを判別する仕組みです。

近年は、この顔認識機能をより進化させた「顔認証システム」が、施設の出入りにおけるセキュリティ管理などで役立てられています。

この記事では、現在急速に普及している「顔認証システム」についてご紹介します。マスク社会でも導入が進む顔認証システムとは、どのような仕組みなのでしょうか。

目次

顔認証システムとは

顔認証システムとは、人の顔を認証して本人確認を行う技術で、さまざまな場面で導入されている生体認証の1つです。
顔認証をはじめとする生体認証技術は、企業サービスから強固なセキュリティが求められる銀行、ひいては国家インフラなどにまで幅広く活用されるようになりました。
以下は、総務省の「平成29年版 情報通信白書」による、AIおよびIoTの市場規模と実質GDPの2030年までの推計をグラフ化したものです。

市場規模と実質GDPの2030年までの推計グラフ

上記を分かりやすく説明すると、「IoTやAIが経済成長にどれくらいの影響を与えるか推計したもの」です。これによると、2030年にはAIやIoTは、実質GDPを132兆円も底上げできる効果があるとみられています。もちろん、AIやIoTの活用と経済成長への結びつきには、今回ご紹介している顔認証技術の普及も関わっています。

なお、顔認証と混同しやすい画像認証技術に、「顔認識」があります。顔認識とは、画像から人の顔がどこに写っているか検知し、性別・年代・表情(笑顔なのか泣き顔なのかなど)などを判別する技術を指すことが一般的です。

一方で顔認証は、検知した顔の特徴などを登録されたデータと照合し、間違いなく特定の個人であることを認証するための技術です。

顔認証以外の生体認証技術としては、指紋認証、掌紋認証、手の静脈認証や眼球の虹彩認証などがあります。顔認証がこれらと異なるのは、デバイスへの接触が不要で、持ち物などで手がふさがっていても認証処理できる点や、立ち止まらなくても認証処理ができる点です。また、顔認証は複数人の認証処理を一度に行うことも可能です。

これらのことから、生体認証は本人確認を行う現場の特性に応じた使い分けが必要といえるでしょう。

顔認証システムとは

顔認証システムの技術・仕組み

容易な手段と高い精度で本人確認を行える顔認証システムですが、顔認証システムはどのような仕組みで認証を行っているのでしょうか。
顔認証の仕組みにはディープラーニング(深層記憶)を行える高度なAIが使用されています。ビッグデータより取得した情報に基づき、画像や映像から個人の顔を検出し特定を行っています。認証は目や鼻、口の位置といった個人の顔が持つ特徴から、顔の大きさに至るまで顔に関するさまざまな要素を識別することによって実行されます。

また、昨今ではマスク着用時でも認識できたり、検温機能が備わっていたりするシステムも増えてきています。

顔認証を含む生体認証のシステムを理解するには、認証システムと認証方式それぞれの種類について知っておきましょう。

認証システム

認証システムには、おもに次の2種類があります。

顔認証端末(デバイス)型

専用カメラや機材など、特定のデバイスを据え置き、それによって認証を行うタイプです。
認証速度が速く、ランニングコストが安価なことが特徴に挙げられます。個人情報が建物内で管理されるなど、自社のニーズに合った性能・特徴を備えたデバイスを導入できる点もメリットです。
しかし、デバイスの更新を行わない限り、認証精度が変わらないなどのデメリットも存在します。

クラウドサービス型

クラウド(インターネット上の仮想スペース)に用意された専用システムで、顔認証を行うタイプです。一般的なカメラやスマートフォンを活用することもでき、システム更新などの運用管理も必要ありません。そのため、導入コストが低く済み、OSや認証システムを常時最新の状態で使用できるメリットがあります。

ただし、認証速度が遅い・ランニングコストが高価・インターネット接続が途切れるとすべての認証システムが使えなくなるなどのデメリットがあります。また、個人情報が漏えいするリスクも想定されるでしょう。

顔認証の認証方式

顔認証の認証方式には、以下の2種類があります。

2D顔認証方式

画像に写った目・鼻・口などの位置を認識し、データベースの人物情報と照合することにより、特定の人物であると認証する方式です。対応端末が多く、選択肢が豊富であるというメリットがあります。
ただし、太陽や照明の光量により認証精度が左右される点や、髪型や化粧によって正常に認証できない可能性があるなど、複数の課題があるとされています。

3D顔認証方式

2D顔認証の仕組みに赤外線センサーを加え、顔を立体データとして認識できる機能を付加した認証方式です。顔認証の機能が増えるため、2D顔認証システムより認証の精度は高くなります。
化粧や髪型が変わっても影響がなく、太陽や照明の光量に関係なく顔認証システムを動作させられることもメリットでしょう。ただし、デメリットとして、赤外線認証に対応する端末が必要となる点が挙げられます。

顔認証システム導入のメリット

顔認証システムを導入して本人認証を行うメリットには、以下のようなものが挙げられます。

デバイスへの接触が不要

指紋・静脈認証などと異なり、特定のデバイスに触れなくても認証が可能です。非接触のため衛生的で、感染防止対策が必要な状況にもマッチします。デバイスに顔を映すだけで自動認証されるため、ICカードをかざすなどの人的操作が不要で、従業員の負担も少ないことが特徴です。

幅広いシーンで活用が可能

複数の人の顔を一度に認識できるため、多人数が集まる場所などさまざまな場面での活用が想定されます。
例えば、監視カメラの映像と組み合わせることでテーマパークやショッピングモールなどで、迷子を捜索する際にも役立つでしょう。その他、勤怠管理システムと連携させれば、従業員の入退室の際に顔認証を行うことでより正確な勤怠管理が可能です。従業員側での打刻漏れや打刻の手間を省き、ICカードの管理の手間も減少。業務の効率化やコスト削減にもつながります。顔認証システムによっては入室と同時に温度検知も行えるため、感染症対策にもなるでしょう。オフィスなど大人数が毎日行き交うことが想定される場所では、導入のメリットは大きいといえます。

専用の読み込み機材が不要

カメラやスマートフォンなど、身近な機材を活用できる顔認証システムも選べるため、専用の読み取り機材を必要とする他の生体認証システムと比べて、コストの面でも導入しやすいでしょう。

不正な認証を防げる

精度の高い認証システムの導入で認証ミスをなくすことで、不正防止にもつながります。

手がふさがった状態でも認証可能

顔をカメラに合わせて認証するだけなので、荷物で両手がふさがった人も本人認証が可能です。

受付の無人化

受付担当者が目視や書類などへの記入時に本人確認していた現場でも、顔認証システムの導入で受付担当者の省人化ができます。さらに、事前に顔写真などをデータベースに登録しておけば、瞬時に本人確認ができるためスムーズな受付対応が可能です。

ブラック・ホワイトリストの検知

本人確認と同時に、その場所を通行する許可を受けた人(ホワイトリスト)と、そうでない人(ブラックリスト)を選別することも可能です。

なりすましを防止できる

ICカードによる認証や、一般的な鍵による入退室システムの場合、カードや鍵の盗難・紛失などが原因で、第三者が侵入できる可能性もあります。また、社員同士で社員証やICカードの貸し借りを行い、権限のない人が無断で重要エリアに入室するなどの場面も想定できます。一方、顔認証では個人しか持ちえない「顔の特徴」を認識するため、社内不正や第三者によるなりすましや犯罪を未然に防げます。

感染症予防への顔認証活用

感染症予防の観点からも、顔認証システムは有用です。顔認証システムに検温機能を備えたシステムを選ぶことで、認証と検温チェックが同時に行えます。

顔認証システムの注意点

顔認証システムの導入にあたっては注意すべき点もあります。導入を検討する際は、おもに以下の3点を意識することが必要です。

プライバシーに関すること

顔認証システムでは、「顔」という個人情報を活用して認証します。顔認証システムによる本人認証という目的以外で、個人情報やそれに準ずるデータの流用・漏えいが起こった場合は、法的に罰せられることもあります。
そのため、顔認証に使用するデータの取り扱いには細心の注意を払うとともに、データの管理・運用方法を事前に決めておくことが大事です。

認証精度の問題

導入している顔認証システム技術のレベルによっては、認証精度にばらつきがある可能性があります。特に昨今では、新型コロナウイルス感染症予防の面からも、マスクをすることが一般化しています。顔認証システムを導入したものの、「マスクをしていると認証がうまくいかない」のでは、あまり意味がありません。
マスク着用時でも正確に認識できる、高精度なシステムを導入することが求められています。

データサイズの問題

顔認証システムで撮影する画像データは、非常にサイズが大きいため、日々認識するデータ量は相当なものになります。そのため、認証に用いる機材には、それ相応の性能の高さが求められます。

顔認証システムが使用されているシーン

顔認証システムは、さまざまなシーンで活用されています。ここでは、日常生活における顔認証システムの活用シーンについてご紹介します。

スマートフォンのロック解除

Apple社のスマートフォン「iPhone」においても、「iPhone X」以降のシリーズには「Face ID」という顔認証システムが搭載されています。スマートフォンを覗き込んで顔を認識させることで画面のロック解除が可能です。

顔認証決済

最近では、顔認証による決済が可能な場面もあります。クレジットカードや、スマートフォンでの決済、電子マネーでの決済などにおいて顔認証を活用することで、暗証番号の入力やサインの確認、バーコード読み取りなどの手間が省けるため、利用者側・店舗側双方の負担が軽減されることも特徴です。
また、非接触で決済できるので衛生的でもあります。

空港内での通行時

世界各国の空港でも、保安検査場・搭乗口・入出国ゲート・税関の電子申告ゲートの通過時などにおいて、顔認証システムが活用されています。

企業・事業所などの入退室システム

オフィスや事業所へ入退室する際の本人認証にも、顔認証システムが多く用いられるようになりました。従来は、社員証などによるICカード認証が主流でしたが、先述のとおりカード認証には盗難や紛失のおそれがある点で、セキュリティ面に不安が残ります。
大多数の企業は顧客の個人情報やクライアントの機密情報を扱う機会があるため、顔認証システムを活用することでセキュリティ面での安心につながります。また、顔認証システムによる入退室管理は、勤怠管理や在室管理などにも応用できることが特徴でしょう。

店舗の万引き対策

店舗の入り口など、お客様が必ず通る場所に機材を設置しデータを取得しておけば、万引きなどのトラブルが起こった際の対応策を練ることもできます。万引き犯を特定することで、再度来店時に注意を払えるようになり、店舗の損失も最小限に抑えられます。

テーマパークのアトラクション搭乗時など

大型テーマパークの一部でも、顔認証システムが活用されています。従来は、アトラクションへ搭乗する際、紙のチケットを見せる手間があり、搭乗まで時間がかかっていました。
しかし、顔認証による手続き(顔パス)を導入することで、入り口付近で来場者が滞留することが少なくなっているようです。

マーケティングリサーチ

マーケティングリサーチを目的として、店頭に顔認証システムを設けている店舗も数多くあります。決済の有無に関わらず、顔認証はすべての来店者について行うことができ、購入に至らなかったユーザーに関するリサーチの実施も可能となるためです。

工場内での活用

工場内の通行時も、以前は社員証などICカードによる本人認証を行っていましたが、最近では顔認証システムを導入するケースが増えています。顔認証システムでは、非接触で本人確認が可能なため、両手で荷物を持ったスタッフが工場内のセキュリティエリアに入退室する際もスムーズでしょう。

スポーツジムなどの受付の無人化

スポーツジムなど、深夜や早朝に営業を行う施設でも、入館時に顔認証システムを設けるケースが増えました。受付担当者が目視で確認を行う代わりに、顔認証システムを設置することで、スタッフの確保が難しい時間帯での営業も可能にしています。
また、ICカードによる認証を行っていた施設でも、顔認証に切り替えることで他人のカードを使ったなりすましなどによる不正利用を防止できます。

新型コロナウイルス感染症で注目される顔認証システムの利点

ここまで顔認証システムの仕組みや、実際に導入されているシーンなどについてご紹介しました。昨今の新型コロナウイルス感染症により、顔認証システムの導入はさらに加速しています。ここでは、顔認証システムの利点について詳しく見ていきましょう。

非接触による認証機能

会社や銀行、公共の場にあるパスワード認証や指紋認証などの認証機器は、複数人が機材に直接触れることになります。感染症予防の観点からは機材のこまめな消毒が求められます。とはいえ、誰かが認証したあとに毎回消毒を行うのは手間がかかるためあまり現実的ではありません。
その点、顔認証システムでは非接触による認証が実現するため、衛生的にも安心して利用できます。

検温機能

顔認証システムでは、利用者の顔を認識するとともに、検温も同時に行うことができます。体温に異常がある人が見つかれば、施設への立ち入りをお断りするなど迅速に建設的な行動を取ることもできるでしょう。感染症予防のため、検温機能が付いていることは重要なポイントです。
なお、検温測定は顔認証時に自動で行われるため、特別なシステムの導入や人との接触も必要ありません。

マスク着用時でも認証可能

顔認証システムのなかには、マスクを着用していても認識可能な高性能のものもあります。感染症予防の観点から、基本的に外出時はマスクをして過ごしている人もいるため、マスク着用時でも認識できるメリットは大きいでしょう。
ただし、マスク着用時は認証率が下がる可能性もあります。システムを導入する際には、専門家のアドバイスを聞きながら、利用方法を検討してください。

以上のように、顔認証システムを導入する利点は数多くあります。
従業員を配置することなく認証・検温ができるため、感染症予防だけではなくリソースやコストの最適化が図れるという点でも、顔認証システムは導入する価値があるといえるでしょう。

ALSOKが提供する顔認証などの非接触サービス

ALSOKでは、顔認証をはじめとする非接触認証システムを活用したさまざまなサービスを提供しています。
顔認証でセキュリティ管理が必要な個所への出入管理を行える「顔認証システム」なら、ICカードもパスワード入力も不要。接触機会を極力なくしながら、スムーズな出入りを実現します。またICカードなどのように貸し借りや偽造ができないため、不正な入退場の防止にもつながります。

また、顔認証システムと体温測定を組み合わせた端末もご提供しています。感染症対策が欠かせない現代においても、通過するだけで認証を完了。出入管理を煩雑にすることなく、2つの認証処理を一度に行えます。

店頭での決済処理が非接触で行えることも、時間短縮のメリットに加え有効な感染対策になります。さまざまなキャッシュレス決済サービスに対応できる「ALSOKマルチ決済ソリューション」なら、多くの決済ブランドを1つの端末で利用可能に。売上のチャンスを拡大できることに加え、非接触決済で感染リスクも抑えられます。

まとめ

顔認証システムは非接触かつ即時に本人確認を行えるため、スピーディで衛生的な出入管理が可能です。今後は、施設内のセキュリティ管理を目的とした導入にとどまらず、多くのアプリケーションやシステムなどのログインにも、顔認証システムが活用されるかもしれません。
ただし、顔認証によって取得した顔写真のデータが、重要な個人情報にあたる点には注意が必要です。顔認証システムを導入する際は、規約やセキュリティポリシーの徹底および必要に応じた見直しを実施し、正しい運用に努めましょう。