HACCP対策の基礎!食品関連業者で行うべき衛生管理の対策

HACCP対策の基礎!食品関連業者で行うべき衛生管理の対策
2021.03.25

食品関連の事業を行っているほぼすべての事業者に、2021年6月から義務化されるHACCP(ハサップ)の導入。事業の規模に応じて取り組むべき内容は異なりますが、食品衛生上の危害を発生させないため、計画的に衛生管理を行っていくことが求められます。この記事では、HACCPの基盤となる一般衛生管理を確実に実施の上事業を行うことの重要性や、具体的な衛生管理の手法・進め方についてご紹介します。

※HACCPの基本事項に関してはこちらのHACCP義務化について説明した記事をご確認ください。

衛生管理とは?

ここでは、HACCPに沿った衛生管理手法をご紹介する前に、一般衛生管理の基本的な考え方からご説明します。

食品衛生の3原則とは

食品を取り扱う人は、食品の安全性を確保する上で、事業者が実施しなければならない基本的な事項として「食品衛生の3原則」または「食中毒予防の3原則」という考え方を意識しなければなりません。

【食品衛生の3原則(食中毒予防の3原則)】

「細菌を付けない」「細菌を増やさない」「細菌をやっつける」という3つの原則として提唱されています。

HACCP義務化による衛生管理

HACCP義務化にともない、食品事業者は先にご紹介した「食品衛生の3原則」を、より科学的な手法で実行していくことが求められます。HACCP(Hazard Analysis and Critical Control Pointの頭文字からの略称)を、日本語に直すと「危害要因分析重要管理点」となります。

HACCPに基づく衛生管理とは、原材料の仕入れから製造、生産品出荷までの全工程で、健康被害の原因となるハザード(危害要因)を列挙分析し、科学的な根拠に沿って管理していく手法です。従来実施してきた衛生管理に加えて、重大事故を確実に防ぐための仕組みを設けてマニュアル化し、実行する仕組みと考えると分かりやすいでしょう。

衛生管理の基本「5S活動」の具体的な方法

すべての衛生管理の基礎となる「5S活動」は、食品に関わる事業を行う方なら概要を把握していると思います。5Sとは「整理・整頓・清掃・清潔・習慣(躾)」の5つのSを指します。

食品事業者別の5Sの例

食品に関わる事業とひと口に言っても、生産に関わる事業もあれば製品を販売する事業もあります。各食品事業者別に、実践すべき5Sのなかでも重点を置く項目が異なります。

・製造業

食品製造業の場合は、直接的に衛生管理に関わる清掃や清潔は当然ながら、特に「整理」や「整頓」に重点を置く必要があります。必要のないものをそのまま放置しておくと衛生上問題があるため、必要なものを残し不用品は処分する「整理」を徹底しなければなりません。また、製造現場では多くの道具や機器を使用するため、それらを清潔で取り扱いやすい位置に配置する「整頓」も重要です。

・飲食業

営業時間内外に関わらずつねに適正な衛生管理が求められる飲食業において、もっとも重要な取り組みは食品やその提供場所を汚れなく保つ「清潔」でしょう。
しかし、お客様からは見えない厨房内でも、調理器具や什器等の位置を「整頓」し、無駄のない動線を確保しておくことが大切です。調理し盛り付け、フロアに運ぶ作業の流れを円滑にし、無駄な動作をなくして衛生面でのリスクの可能性を減らしましょう。また、保管している食品についても「整理」「整頓」しておくことで、厨房の作業をよりスムーズにできます。

・食品運送業、倉庫業

個包装商品は温度や賞味期限の厳しい管理で対応できますが、一括大量仕入れの食材で不良品を出さないための取り組みが非常に重要です。鮮度劣化や異物混入、菌やウイルスによる汚染/増殖などハザード要因を想定し、ハザードによって商品とならなくなる状態の線引きを想定します。
その上で商品の温度を管理し「清潔」に取り扱い、異物となるものの混入を防ぐ対策を考えます。
パレットやコンテナの清掃や洗浄を励行し、そのチェックを行うなど、不良品の発生を防ぐために具体的な行動の徹底が必要です。車内・庫内の温度確認や機器のメンテナンスもこまめに行い、倉庫の「整理」「整頓」とその確認まで徹底します。
また、不良が疑われる商品が見つかった際の具体的な対処法とルールを決め、不良品を外部へ出さないようにします。

上記のルールも定期的に見直しを行い、衛生管理の仕組みを強化し、衛生管理の記録を残しておきましょう。

企業規模ごとの求められる対策

食品事業者の規模によって、HACCP義務化にともない求められる対策の内容が異なります。

・従業員50人以上の企業(一般事業者)

「HACCPに基づく衛生管理」を行うことが必要となります。事業者自体がコーデックスのHACCP7原則(※)に基づいた衛生管理の仕組みを作って計画を立て、それに即した管理をすることが求められます。
※1993年にコーデックス委員会(FAO/WHO合同食品規格委員会)が策定したHACCPの12手順のうち、手順6~手順12を「7つの原則」としたもの。危害要因の分析と、HACCPによる衛生管理のプランを具体的に作成する手順までが含まれます。

・従業員50人未満の事業者(小規模事業者)

「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」が求められることになります。業界団体によって作成された「手引書」を参照し、それに沿って各業種向けに簡略化された手法で衛生管理を行っていくことが求められます。

上記のように、事業者の規模によって求められる対策が異なります。自社においてはどのような対策を求められており、何を実行することが必要であるかを確かめておきましょう。

小規模事業者のHACCP義務化対応に関しては、厚生労働省のホームページにさまざまな事業別の手引書が掲載されています。自分たちが必要な管理について詳しく知るためには、以下のリンクをご参照ください。

【HACCPの考え方を取り入れた衛生管理のための手引書】
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000179028_00003.html

5S活動

HACCP運用の土台にもなる「衛生管理の進め方」

HACCP義務化と言っても、急にまったく新しい取り組みを行うことが必要とされるわけではありません。HACCPそのものの基盤となるのは、食品事業者が従来長く取り組んできた一般衛生管理の考え方です。

一般衛生管理プログラムの作成

HACCP運用のための土台となるプログラムとして、一般衛生管理プログラムを最初に作りましょう。これは清潔で衛生的な食品の製造・加工環境確保のために、どの事業者も確実に整備しておくべき要件となります。
一般衛生管理プログラムを文書化し、それを事業へ確実に反映させるための手順書を作成しましょう。

施設設備の衛生管理

施設・設備・機器を、それぞれ工場内の区域ごとにリストアップします。その上でそれらの内容や頻度、担当者・確認者・記録方法を定めましょう。リストアップしたものには、それぞれ管理のポイントを記載しておきます。
たとえば、「清潔に保つために設備を清掃(洗浄)しやすくする→器具や備品を整理整頓する、壁から離して床との間も取っておく」などのように簡単に分かりやすく記載しましょう。

従業員の衛生教育

従業員に対しても定期的に衛生教育を行い、衛生管理に基づいた業務への従事および日常生活面で業務に直結すると考えられる行動面での衛生意識の徹底を行います。

施設設備・器械器具の保守点検

設備や道具・器具の維持管理においても5S活動を徹底し、予防保全を推進します。

食品現場でのオゾン除菌

機器やサービスを利用しての衛生管理を取り入れることも、有効な予防保全の手段となります。たとえば、食品工場の除菌・脱臭にオゾン水やオゾンガスを活用するなど、リスク要因を科学的根拠に基づいて安全に除去する試みも有効でしょう。
オゾンを活用するメリットとして、気体ゆえに機械設備の後ろなど隅々まで行き届き、短時間で分解されるため残留しない点が挙げられます。その他、タイマー等を用いて無人時間帯に自動で手軽に除菌できるというメリットもあります。

食品衛生管理コンサルタントの導入

適正な衛生管理を計画的に実行し、HACCP義務化にもスムーズに対応するためには、食品衛生管理コンサルタントを導入の上確実な対策を行うことも一案です。コンサルタント導入により、HACCP義務化に対応する衛生管理の規約やマニュアルの作成から、従業員への衛生教育まで、衛生面で万全の危機管理を実現します。

食中毒リスクに備えたPL保険への加入を

一般衛生管理の基本として、食品事業者は食中毒リスクの対策を行っておく必要があります。食中毒を発生させてしまうことで、事業者や店舗に以下3つのリスクが生じます。

  • 営業停止などの処分を受け、食中毒発生の事実が公表されることによる売上の低下
  • 食中毒に関連する可能性のある販売済み製品の回収措置
  • 被害を受けた顧客への損害賠償

食中毒の発生は、お客様への賠償などの実質的な損害をもたらすだけではありません。事業者名・店名が公表されることで企業・店舗のイメージが著しく損なわれ、致命的な売上の低下を招いてしまうこともあります。
そこで万一の事態から企業や店舗を守るため、食中毒のリスクに備える「PL保険(生産物賠償責任保険)」へ加入しておくことは食品事業者にとって非常に重要です。ただし、PL保険に加入さえしていれば、すべての食中毒リスクに備えられるわけではないため注意しましょう。

PL保険の基本的な補償内容は、あくまでお客様への損害賠償が発生した際に備えるためのものです。それ以外の風評による売上低下や、製品の回収にともなって受けた損害に対する補償は、特約でカバーされます。可能な限りこれらに備える特約も付帯し、上記3つのリスクをカバーできる補償内容でPL保険に加入しておきましょう。
保険商品によっては、すべてのリスクを特約でカバーしきれないことも考えられます。その場合は、別の保険に加入することで備えておく必要があります。

外部企業との連携も必要

食品の生産から消費に至るまでトータルな衛生管理を行う際には、自社での対応にとどまらず外部企業との連携も必要になることがあります。自社だけでHACCP義務化に対応していくことが難しく、技術的な面でのアドバイスが必要となることも少なくありません。
前の項目でもご説明した食品衛生管理コンサルタントなど、外部企業と連携しながら導入に際する課題を洗い出して解決したり、普及にともなう支援策の検討を行ったりすることも求められます。

ALSOKサービス紹介

警備会社のALSOKでは、さまざまな「リスク対応」で培ったノウハウを活かし、食品事業者の衛生管理に役立つサービスをご提供しています。

エムビックらいふ

エムビックらいふは、おもに食品事業者の一般衛生管理で役立つALSOKのサービスを提供するグループ会社です。エムビックらいふは高品質な衛生検査を実施するとともに、総合衛生コンサルティングも行っています。製品の安心・安全を最優先しながら「安全な商品」のブランド化を実現し、最終的には収益向上につなげていきます。

その他食品事業者の衛生管理に役立つALSOKのサービス

適正な衛生管理の実施には、従業員が日常生活から業務に移るまでの行動管理が密接に関わっています。以下のような施設警備・管理に関連するサービスを取り入れることも、食品事業における衛生管理の徹底に有効です。

まとめ

HACCPの完全義務化においては、何らかの新しい考え方を取り入れてゼロから仕組みを作ることが求められるわけではありません。HACCPという言葉自体は難しく聞こえますが、基本的な考え方は食品事業者が従来行ってきた一般衛生管理に基づいています。
これまで徹底してきた衛生管理を、すべての食品事業者がHACCPの考え方を取り入れて再認識し、より確実な管理を実施していくことが今回の義務化の目的です。主幹事業に集中しながらHACCP義務化に対応するには、外部企業の助言を得ながらスムーズに対応していく方法も選択できます。ALSOKでも食品衛生管理に関連するサービスを提供していますので、お気軽にご相談ください。