介護施設のリスクマネジメントとは?必要な理由や実施手順、事故事例を解説
高齢者や要介護者など多くの利用者が生活する介護施設では、転倒や誤嚥などの事故リスクが常に存在します。これらを事前に特定し、事故を防止するリスクマネジメントは、利用者の安全を守るために重要です。
この記事では、介護施設で求められるリスクマネジメントの基本、発生しやすい事故事例、具体的な実施手順を解説します。
目次
介護施設のリスクマネジメントとは?
介護施設のリスクマネジメントとは、介護施設において発生する可能性があるリスクを事前に特定し、被害を最小限に抑えるための対策を講じる取り組みのことです。介護施設内で起きた事故やヒヤリハットの報告・分析を通じて危険要因を特定し、排除または軽減する計画を策定・実施・評価します。
介護施設のリスクマネジメントは単に事故を防ぐだけでなく、提供するサービスの質そのものを向上させ、利用者からの信頼を獲得し、安定した経営を維持するための土台となります。
介護施設でリスクマネジメントが必要な理由
介護施設におけるリスクマネジメントが必要な理由を4つ解説します。
利用者の安全を確保するため
介護施設の利用者は、心身に何らかの疾患や困難を抱えている高齢者が多く、転倒事故などの予期せぬ事故が起きやすい環境にあります。そのため、リスクマネジメントを通じて事故の発生を予測し可能な限り危険要因を取り除くことが、利用者の身の安全に直結します。利用者が安心して過ごせる環境を整えることは、介護施設の基本業務です。
職員が働きやすい環境作りのため
リスクマネジメントの徹底は、介護職員が安心して職務に取り組める環境を整備することに直結します。業務に対する不安や心理的負担が減少し、職員は本来の介護業務に集中しやすくなり、事故やヒヤリハットの減少につながります。
また、事故を未然に防ぐための明確なマニュアルや手順の整備で業務の標準化が進み、質の高いサービスを提供できます。
介護サービスの質向上
リスクマネジメントを実施するなかで、インシデントの報告と分析を組織的に行うことにより、サービス提供プロセスの問題点や潜在的なリスク要因の把握が可能です。明らかになった問題点やリスクに対して組織的に取り組み、サービスの提供方法や環境が体系的に見直すことができます。このように、リスクマネジメントにより、利用者が安心できる環境を整え、サービスの質も向上します。
訴訟を未然に防ぐため
介護は専門性の高い領域であり、利用者やその家族との間でサービスに対する認識のズレや過度な期待が発生することがあります。過失の有無をめぐってトラブルになりやすく、なかには訴訟に発展するケースもあるほどです。
また、介護施設には利用者の生命・身体の安全を守る大きな責任があり、些細なミスでも重大な事故につながりやすいため、結果として法的責任を問われることが多くなります。訴訟は施設の信用低下と経営への影響を招くため、日頃からのリスクマネジメントが重要です。
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介護施設で発生しやすい事故の事例
介護施設では、利用者の状況や生活環境に起因するさまざまな事故が発生する可能性があります。ここでは、特に発生しやすい代表的な事故事例を解説します。
転倒事故
転倒事故は、介護施設において頻繁に発生する事故の一つです。利用者の筋力低下やバランス感覚の衰え、認知症による判断力の低下などが主な原因とされています。特に、浴室など床が滑りやすい場所や、段差がある場所、あるいは暗い場所で起きやすい傾向があります。転倒は、骨折や頭部の外傷などの重篤な怪我につながる可能性が高く、その後の生活の質(QOL)を大きく低下させる要因です。
介護職員は、段差の解消や滑り止めマットの使用、明るさの確保など環境面の改善に加え、利用者の身体機能にあわせて運動量を増やす、介助方法を工夫するなどの対策が必要です。
転落事故
転落事故は、ベッドや車椅子からの転落など、高低差がある場所で発生します。特に車椅子からの転落は、ブレーキのかけ忘れや、利用者の姿勢が崩れた際に起こるリスクが高まります。転落事故を防ぐためには、ベッド柵の適切な使用や、車椅子の安全確認、そして利用者の状況に合った環境整備が重要です。
誤嚥・誤飲事故
食事や水分が誤って気管に入る誤嚥事故や、異物などを誤って飲み込んでしまう誤飲事故は、特に高齢者に多い事故です。高齢者は嚥下機能が低下していることが多く、誤嚥・誤飲により窒息するおそれがあります。また、誤嚥性肺炎を引き起こす原因にもなりえます。
誤嚥につながりやすい食品の提供を避ける、調理形態を工夫するなどの対策が必須となりますが、事故を防ぎきれないケースもあります。食事中の異変に気付き、初期対応を迅速に行えるよう、介護職員の見守りの強化が重要です。
誤薬事故
誤薬事故は、訴訟につながるおそれもある重大な事故です。誤薬事故には、薬の種類を間違える、投与量・投与時間を間違える、対象となる利用者を間違えるなどのパターンがあります。複数の利用者が服薬するタイミングが重なったり、業務が多忙な時間帯であったりすると、確認漏れなどにより誤って提供してしまう可能性があります。誤薬事故は利用者の健康状態に直接的な影響を及ぼし、重篤な副作用を引き起こす可能性があるため、細心の注意と厳格なチェック体制が必要です。
紛失・破損事故
利用者の所有物に関する紛失・破損事故も、介護施設では頻繁に発生します。具体的には、眼鏡や補聴器、入れ歯といった日常的に使用する小物の紛失や、清掃時に利用者の持ち物を落とす、破損させるなどが挙げられます。特に金銭や貴重品の紛失・破損は、利用者や家族の信頼を失うことに直結し、大きなトラブルに発展することもあるため、日頃からリスクマネジメントによってリスクを予測し、回避する必要があります。
介護施設のリスクマネジメントを実施する手順
リスクマネジメントは、場当たり的な対応ではなく、体系的な手順を踏んで継続的に実施することが重要です。ここでは具体的な実施手順を解説します。
1.介護事故の事例を把握する
まず、自施設や他の施設で過去に発生した介護事故の事例を収集し、分析することから始めます。この段階で、どのようなリスクが潜んでいるのか、何が事故につながる可能性があるのかを、組織全体で認識を共有しましょう。
収集する情報で特に重要なのは、事故に至らなかった「ヒヤリハット」の情報です。ヒヤリハット事例は、潜在的な危険要因や業務上の問題点を浮き彫りにし、本格的な事故が起きる前の貴重な予兆情報として機能します。
2.事故事例の原因分析を行う
収集した事故事例やヒヤリハット事例について、発生した要因を深く掘り下げて分析します。単に「職員の不注意」で終わらせるのではなく、「なぜ不注意が起きたのか?」「どのような環境要因があったのか?」といった根本的な原因(真因)を追究します。分析にあたっては、人的要因(知識・技術の不足)、環境要因(施設の構造、設備)、組織的要因(マニュアルの不備、情報共有の不足)など、多角的な視点から要因を考えることが重要です。
3.具体的な対応策を立案する
特定できた事故の発生要因に対して具体的な対応策を検討し、立案します。対策は、その要因を完全に排除できるものが理想ですが、難しい場合はリスクを最小限に抑える策を講じましょう。対応策は、誰が・いつ・何を・どのように行うのかを明確にした具体的な行動計画とし、実行可能性や継続性を考慮して検討することが重要です。
4.情報共有を行い、対策を実施する
検討・立案された対策を、実際に現場で働く全職員に対して情報共有し、リスクマネジメントとして実施します。対策を形骸化させないためには、職員研修や会議などを通じてその目的と手順を徹底的に周知徹底する必要があるでしょう。
対策の実施後は、効果検証を行い、効果が不十分な場合や新たなリスクが発生した場合は原因分析に戻り、PDCAサイクルを回しながら改善することが求められます。
介護施設で事故が起きたときの対処方法
万が一、介護施設で事故が発生してしまった場合、迅速かつ適切な対応を取ることが被害の拡大を防ぐために重要です。事故が発生した際の基本的な対処方法を解説します。
状況に応じた処置を行う
事故発生時の最優先事項は、利用者の安全確保と応急処置等の即時的な対応です。事故が起きた際は、まず利用者の状況を確認し、その場で可能な応急処置等を速やかに実施します。事故の状況が深刻であると判断した場合や、専門的な医療が必要と判断される状況であれば、迷わず救急搬送し、同時に連携している医療機関にも連絡を取ります。
家族へ報告する
利用者の安全が確保され次第、速やかに家族への報告を行います。報告の際は、事故発生の経緯、利用者の現在の容態、実施した応急処置、今後の対応方針(医療機関での受診など)などの伝達事項をまとめて、正確かつ誠意をもって報告する姿勢が求められます。
事故やヒヤリハットの原因を調査する
必要な応急処置や報告の後、事故の原因を客観的に調査します。具体的には、事故発生時の状況、環境、関わった職員の行動や手順を詳細に記録し、原因分析を行いましょう。原因分析には、ヒヤリハット報告と同様に、さまざまな角度から要因を特定する視点が必要です。
自治体や警察などにも連絡する
事故の状況や結果に応じて、自治体や警察などの関係機関にも連絡をする必要があります。特に、利用者の死亡や重篤な怪我(骨折や意識障害など)、行方不明事案が発生した際は市町村・警察への事故報告を速やかに行います。また、損害賠償が発生する場合は保険会社への連絡も忘れずに行いましょう。
介護施設でのリスク対策もALSOKがサポート
ALSOKでは、介護施設でのリスク対策に役立つさまざまなサービスをご提供しております。
病院・クリニック向けセキュリティ
医療機関や介護施設における不審者侵入や暴力事案など、多様なリスクへの対応を総合的にサポートします。防犯カメラや入退室管理システムなどのハードウェアと、防犯教育などのソフト面を組み合わせることで、不審者の侵入を抑止するだけでなく、万が一不審者の侵入や火災が発生した場合には迅速に感知し、二次被害の拡大防止に貢献します。
また、認知症の方の徘徊対策や夜間の安全対策も可能です。
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災害対策
予期せぬ災害の発生に備えたリスクマネジメントも、介護施設にとって重要な事項です。ALSOKでは、自然災害が発生した際の対応をサポートします。
BCPソリューションサービス
地震や水害などの自然災害が発生した際に、介護サービスの提供を維持するための事業継続計画(BCP)策定を支援します。災害発生時のリスクアセスメントから、対策の実施、講習などを通じたマニュアルの定着化まで一貫してサポートいたします。
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災害備蓄品(管理含む)
ALSOKでは、災害時に備えて水・食料・衛生用品などの防災備蓄品を提供しております。災害(防災)備蓄品の期限管理に不安を抱えている場合も、課題解決のサポートをいたします。
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安否確認サービス
ALSOKの安否確認システムは、大規模な地震や災害の発生時に一斉にメッセージを配信し、従業員やご家族の安否を迅速に確認できます。また、回答や集計も簡単に行えるため、万が一災害や事故が発生した際の初動対応をサポートします。さらに、災害時だけでなく、平時にトラブルが発生した際の連絡手段としても役立ちます。
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災害図上訓練
お客様の介護施設と周辺地域の情報を取り込んだ地図を使い、災害発生時の対応を実践的にシミュレーションする訓練です。訓練を通じて、災害発生時の判断力・対応力を養えます。
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緊急地震速報システム
気象庁のデータをもとに、地震の揺れが到達する前に緊急地震速報を通知するシステムです。迅速な情報提供により、医療機器の停止や利用者の安全確保など、揺れが始まる前の適切な初動対応を可能にし、被害の軽減に貢献します。
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まとめ
介護施設のリスクマネジメントは、利用者の安全と安心、職員の働きやすい環境、そしてサービスの質の向上など、施設運営の根幹を支える活動です。リスクマネジメントでは、リスクの把握・原因分析・対策立案・実施・評価というPDCAサイクルを継続的に回すことが重要となります。
介護施設としての責任を果たし、利用者や家族に安心して利用を継続してもらうために、適切なリスクマネジメントを実施しましょう。















