高齢ドライバーの免許返納、いつすればいい?

最近、高齢者ドライバーの運転ミスによる悲惨な交通事故の話題がマスコミでも多く取り上げられるようになりました。そのようなニュースを見るたびに「自分の親も事故を起こすのではないか」と心配になる人も少なくないはず。高齢の親御さんと遠く離れて暮らしている人であれば、親の健康状態をリアルタイムで感じることができないので、なおさらです。そんなときに真っ先に頭に浮かぶのは「免許返納」。大きな事故を起こす前に自分から免許を返納して、と考えるわけですが、親の側はそう簡単には決心できません。都会に住んでいるならまだしも、地方に暮らす老夫婦には「クルマはライフラインのひとつ」といっても過言ではない存在。免許返納にはこの生活スタイルを根本から変える決心が必要だからです。
ここではこの免許返納をめぐる問題について少し考えてみることにしましょう。
高齢者の事故は増えてはいない?

出典:内閣府「平成30年交通白書」
免許返納の話題に入る前に、まず高齢者の交通事故は本当に増えているのか、という素朴な疑問を解消しておくことにしましょう。
こちらは年齢層別免許保有者10万人当たりの死亡事故件数の推移を過去10年間でみたものです。
死亡事故の割合が高いのは「16〜19歳」と「80歳以上」であることがわかりますが、事故件数は年々減少しています。また、「65歳以上」という括りでみたときの事故件数は「20〜29歳」のレベルとほぼ同じであることもみてとれます。
これをみてまずわかることは、高齢者ドライバーによる死亡事故の件数は決して増えておらず、むしろ10年前と比べると半分近くにまで減少しているということです。
これだけ重大事故は減っているのに、なぜ今、高齢ドライバーの運転が社会的に問題として取り上げられているのでしょうか。
平成 19年 |
20年 | 21年 | 22年 | 23年 | 24年 | 25年 | 26年 | 27年 | 28年 | 29年 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
16~19歳 | 20.8 | 20.4 | 19.7 | 15.5 | 16.9 | 15.0 | 16.9 | 13.8 | 14.4 | 13.5 | 11.4 |
20~29歳 | 8.5 | 7.6 | 7.1 | 6.4 | 6.7 | 6.1 | 5.9 | 5.4 | 5.4 | 4.8 | 4.6 |
30~39歳 | 5.6 | 4.8 | 4.4 | 4.7 | 4.2 | 4.0 | 3.5 | 3.4 | 3.3 | 3.2 | 3.1 |
40~49歳 | 4.9 | 4.4 | 4.3 | 4.5 | 4.2 | 3.9 | 3.9 | 3.7 | 3.3 | 3.5 | 3.4 |
50~59歳 | 5.6 | 4.6 | 4.6 | 4.5 | 4.1 | 3.9 | 3.6 | 3.8 | 3.9 | 3.5 | 3.5 |
60~69歳 | 5.1 | 4.8 | 4.5 | 4.8 | 4.5 | 4.1 | 4.3 | 3.8 | 3.8 | 3.7 | 3.5 |
70~79歳 | 9.4 | 9.1 | 8.3 | 7.7 | 6.6 | 6.4 | 6.5 | 5.6 | 5.6 | 5.4 | 4.7 |
80歳以上 | 20.9 | 16.8 | 15.2 | 18.2 | 15.6 | 15.1 | 14.7 | 14.7 | 13.3 | 12.2 | 10.6 |
65歳以上 (再掲) |
8.5 | 8.2 | 7.3 | 7.4 | 6.8 | 6.4 | 6.4 | 5.8 | 5.8 | 5.5 | 4.9 |
出典:内閣府「平成30年交通白書」
こちらは先の同じ免許保有者10万人当たりの数字を平成28年だけ取り出し、年齢の刻みを変えてみたものです。
「75歳未満」全体の平均と「75歳以上」を比較すると2倍以上の大きな開きがあることがわかります。ちなみに平成28年は「70〜79歳」は10万人当たり5.4件であるのに対し、「80歳以上」は同12.2件となっており、80歳以上になると事故率が急激に高くなることがよくわかります。しかしそれでも全年齢区分のトップは「16〜19歳」で13.5件。つまり80歳以上のドライバーであっても、未成年のドライバーよりも事故を起こす確率は低いということです。
また、75歳以上が起こした死亡事故件数と死亡事故件数全体に占率をみてみると、件数はここ10年ほぼ横ばいですが、占率は徐々に高くなってきていることがわかります。これは死亡事故全体の数がその他の年齢区分で年々少なくなってきていることに起因していますが、このグラフをみると「高齢者を75歳以上」と規程した場合には高齢ドライバーによる事故は増えているように見えます。



出典:内閣府「平成29年交通白書」
しかし一方で、75歳以上の運転免許保有者の数の推移をみてみると、ここ10年間で実に倍に膨れ上がってきていることがわかります。
つまり高齢ドライバーが起こす死亡事故率は下がってきているが、人数が急速に増えてきているので、死亡事故件数自体は増えてきてしまっているということです。またこの推計どおりに高齢ドライバーの数が推移するとすれば、今後高齢ドライバーの数は増え続け、それにつれて死亡事故件数も増え続けると考えられます。これらが最近高齢ドライバーの事故や免許返納の問題が取り立たされてきている理由です。ある意味、「少子高齢化の進展」により起こってきている問題の副次的な事象と捉えることができるかもしれません。


出典:内閣府「平成29年交通白書」
免許返納はいつすべきか?
先のグラフから免許返納すべき時期を割り出すとすれば、80歳以上になると死亡事故件数が急激に多くなることから、免許返納の目安はひとつ「80歳」と考えてもよいかもしれません。しかしこれはその人の健康状態等によって大きく状況が異なってくるので一概にはいえるものではありません。
そこでここで高齢者の起こす事故の特徴をみて、危険な状態と判断する基準を探ってみることにしましょう。
これは平成28年の死亡事故の要因を75歳以上のドライバーと75歳未満のドライバーで比べてみたものです。
75歳未満では「内在的あるいは外在的な前方不注意」による事故が多いのに対し、75歳以上では「ハンドル等の操作不適」が際立って多いことがわかります。またこのうちの「ブレーキとアクセルの踏み間違い」を比べてみると75歳未満ではわずか0.7%ですが、75歳以上では5.9%まであがっています。要するに高齢ドライバーは自動車の操作がうまくできずに事故になるケースが多いということです。これはつまり、運転操作がおぼつかなくなったら、80歳未満でも免許返納を考えるタイミングにきているということがいえると思います。
高齢ドライバーの親と離れて暮らすお子さんたちは、帰省の際などには積極的に親御さんの運転するクルマに同乗して、運転操作におかしなところがないかをそれとなくチェックするようにしましょう。車庫入れの際になんでもないところでぶつけてしまったり、左折の際に縁石に乗り上げたりと、普段の生活では気づかない「老い」を感じることがあるかもしれません。また、同乗して一緒に危険な目にあっていれば、「そろそろ免許返納を考えて」という言葉も言い出しやすくなるというメリットもあります。


※ 警察庁資料による
出典:内閣府「平成29年交通白書」
免許証の更新で認知症のチェックができる⁉
免許の更新時において70〜74歳の人は高齢者講習を受けないと免許証の更新ができなくなりました。高齢者講習のなかには機材を使った動体視力や夜間視力、視野の測定が含まれています。また、ドライブレコーダーのついたクルマを実際に運転して指導員から助言を受けるという内容も含まれています。
また、免許の更新時において75歳以上の方はまず認知機能検査を受けることになりました。検査の結果は第1分類(認知症のおそれがある)、第2分類(認知機能が低下しているおそれがある)、第3分類(認知機能低下のおそれがない)にわけられますが、ここで第1分類とされると臨時適性検査または主治医等の診断書の提出が必要となり、その結果、認知症と診断されると免許の停止または取消しを受けることになります。
このように免許を持っていると、定期的にかつ強制的に認知機能検査を受けることになりますが、これは高齢の親御さんと離れて暮らす子ども世代には大きなメリットとも捉えることができます。
たとえ高齢の親御さんの認知症が進行してしまっていても、離れて暮らす子どもにはなかなか気づくことができません。認知症は軽いうちに病院に行って適切な処置を施せば、進行を遅らせることができますが、「少しおかしい」と感じたくらいではなかなか病院に行くというところにまで話が発展しないのが普通です。そうこうしているうちに症状が進んでしまい、どうにもならなくなってしまうというのが認知症の怖さなのです。
でも、もし親御さんが免許を持っていたら、更新時に必然的に認知機能検査を受けることになり、問題があれば病院に行って検査をする理由づけができます。これは大きなメリットです。認知症は家族がおかしいと思って心配しても、本人が病院に行きたがらない、おかしいと認めない、ということが多いからです。
家族がみて、よほど危ないと思われるとき以外は、無理に免許返納を勧めることはせず、更新時に認知機能検査を受けさせる方がメリットが多いといえるのかもしれません。
免許返納が認知症進行のきっかけになることも
免許返納によって高齢の親からクルマをとりあげる結果となったとき、注意しなければならないのは生活スタイルの激変により認知症を発症もしくは急激に進行させてしまうことです。
自分でクルマを運転できるときには、好きな時に買い物に出かけたり、病院に行ったりできるわけですから、生活の大部分において自分の面倒は自分で見られるという意識が働いています。しかし、免許返納してしまうとそれができなくなります。バスやタクシーを使って外出することはできますが、買い物をすれば思い荷物を持って歩かなければなりません。こうなるとだんだん外出するのが億劫になって、次第に社会から隔絶されていきます。
社会から隔絶を感じ始めると次は次第に時間の観念がなくなってきます。家からでることもないので朝昼晩のリズムが崩れてきます。これまで普通にやってきていたことがすべて意味なく、面倒に思えてきます。毎日ちゃんと3食摂っていた食事も1食減り、2食減りし、それに伴って食後の薬などもきちんと時間通りに飲めなくなります。
このようにすべてが楽な方に流れてしまうようになると、今度は認知症の進行が心配になります。毎日ちょっとしたことで考えたり、工夫したりすることの繰り返しが認知症予防においては重要ですが、だんだんとそうした時間が失われていってしまいます。
高齢の親御さんと離れて暮らす子ども世帯の方は、ご両親のどちらかが免許返納したという場合には、このような変化が起こりうる可能性があるということを十分に認識したうえで、適切なケアを行う必要があるといえるでしょう。
ケアの方法としては、「こまめに電話などで連絡をとる」というオーソドックスな方法の他に、最近ではIoT機器を利用して見守るという方法があります。
たとえばネットワークカメラを設置すれば両親の行動をリアルタイムに見守ることができます。この場合は、親世帯にだけカメラを設置すると「何だか監視されているようで嫌」と思われがちですので、自分の世帯にも設置して双方で確認しあえるようにするのがコツです。カメラを通じてお孫さんなどと頻繁にコミュニケーションを取れるようにしておけば、認知症予防にも効果があり、一石二鳥です。
また、電気ポットに電源が入っているかや、生活導線にあるトビラが開け閉めされているかなどを検知するセンサーをつけて、その情報から両親の生活リズムに異常がないかを確認するという方法もあります。
親御さんにも子ども世帯にもできるだけ負担にならず、つかず離れずのいい距離を保ちつつ、でもしっかりと異常がないかを確認できる体制を作っておくことが大切です。
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