Always Essay ゆるゆるな日々 vol.14

  • 次号
  • バックナンバー
  • 前号
Always Essay ゆるゆるな日々

「テーマ」のある旅

鈴木さちこ

一年に一度は、家族三人で旅をする。6歳の息子に旅のテーマを訊き、それを元に季節などを考慮して行き先を選ぶ。「大きな公園」がテーマのときは、北海道札幌市のモエレ沼公園へ。彫刻家イサム・ノグチの基本設計で、公園全体がひとつの彫刻作品として考えられ造成されている。とにかく広い!どんなに走っても、大きい声を出しても許される環境に興奮した息子は、気がついたら裸足になっていた。

次の旅は「恐竜の化石を掘りたい」がテーマ。福井県勝山市の『かつやま恐竜の森』に即決した。化石発掘体験会場内には、扱いやすい大きさに砕かれた約一億二千万年前の白亜紀後期の石が、足元にたくさん重なっている。なんと、ここの発掘現場で、新種恐竜の化石を発掘した小学生がいたらしい。その新種恐竜には彼の名前がつけられる可能性が高いとか。それを聞いて、私たちは期待に胸を膨らませた。ゴーグルを装着して発掘開始。汗だくになりながら、必死にハンマーとタガネを使い石を叩いた。石の中に黒く見える部分が、植物などが炭化して化石になったもの。残念ながら恐竜の化石は見つからなかったが、シダ系の葉っぱの化石を手に入れた。家族全員、強烈に化石に魅了されてしまい、結局三回も発掘を体験。帰路は化石が入った荷物がとても重たかったが、充実感に満たされた。

「ゲゲゲの鬼太郎」と「砂丘」の組み合わせで、この春は鳥取県へ。息子は広大な砂丘に驚いたが、すぐに裸足になり夫と走り出し、あっという間に遠くへ消えた。音もない砂丘の真ん中でたたずむと、夢の中にいるかのようだった。米子と境港を結ぶ境港線のラッピング車両は、妖怪が描かれている。熱心に車両の撮影をする私に呆れる夫と息子。水木しげるロードでのスタンプラリーも無事終了。認定証をもらった。

次の旅のテーマは「宝石が掘りたい」とのこと。最近、息子は鉱物に興味があるらしい。旅先をリサーチする時間もわくわくする。もしかして、このテーマの旅は、家族の中で私が一番楽しんでいるのではないだろうか。

すずき・さちこ

1975年東京生まれ。旅好きのイラストレーター・ライター。
「きのこ組」「うちのごはん隊」などのキャラクターを手がける。著書に『電車の顔』『日本全国ゆるゆる神社の旅』『住むぞ都!』『路面電車すごろく散歩』ほか。

Always Essay ゆるゆるな日々 vol.14

  • 次号
  • バックナンバー
  • 前号