Always Essay 初めての・・・ 1.東京

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Always Essay 初めての・・・

1.東京

小栗左多里

小学校4年の時、なぜか急に宝塚の舞台を観に東京へ行った。母と姉と私と、母の妹とその小さな息子とで。私の家族にとっては初めての東京だった。でも母も叔母も特に舞台が好きだった記憶もないし、住んでいた岐阜からは宝塚の本拠地である兵庫の方が近かったのにどうして東京まで行ったんだろうと、後から不思議に思っていた。
40年以上たった先日ふと母に聞いてみると、叔母がその時木更津で働いていたので、そこへ遊びに行って東京にも寄ったという。驚いた。私は木更津部分をまるごと覚えていない。たぶん宝塚の衝撃で忘れてしまったのだろう。舞台なんて学校で観にいくくらいだった田舎暮らしの小4に、まばゆい大劇場で、キラッキラのスター鳳蘭(おおとりらん)がフェルゼンを演じた「ベルサイユのばら」がぶつけられたのである。ただただ眩しく、圧倒された、のだと思う。舞台そのものより、私たち姉妹が完全にハートを鷲づかまれ、その後1年ほどパンフレットを何度も読み、「あ~い~、それは~あ~まく~」と歌って暮らしたことを強く覚えている。
しかし時がたち、今、その旅行で一番思い出すこと。それは、終演後にホテルに帰るためタクシーを止めた叔母が「あかんと」と戻ってきたことだ。「乗れんの?なんで?」と聞くと「近すぎるであかんと」。私はぽかんとした。「乗車拒否」、なんやそれ。お金を払って乗ろうとしとるのに、乗れんなんてことがあるんや。これが東京ってところなんか。皇居の前だったので、その非日常的な風景と相まって、急に東京がそそり立った要塞みたいな感じがした。踏むとジャクジャクと音がする玉砂利を見ながら歩いた。
母にも思い出を聞いてみた。答えは「木更津で入ったお店で、めちゃくちゃ綺麗な炒り卵が出てきたこと」。たたた卵。「味は覚えてない。とにかく綺麗やった」。同じ旅行で、この遠さ。思い出は何年か寝かせてから語り合った方が、本当に刺さった部分がわかるかもしれない。

おぐり・さおり

岐阜県出身の漫画家。
著書に「ダーリンは外国人」「フランスで大の字」など。
近著「ダーリンの東京散歩 歩く世界」「手に持って、行こう ダーリンの手仕事にっぽん」。
2012~2019年までドイツ・ベルリンに居住。

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