医療リスクマネジメントとは?目的や対策事例、実施プロセスを解説

病院やクリニックなどの医療機関では、患者と医療従事者の安全を確保するためにさまざまな対策が行われています。その根幹をなすのが「医療リスクマネジメント」です。
この記事では、医療リスクマネジメントとは何か、その目的や具体的なリスク、対策事例、実施プロセスなどを解説します。
目次
医療リスクマネジメントとは?
医療リスクマネジメントとは、患者や医療従事者への危害および医療機関の経済的な損失を防ぐために、医療現場の安全性を高める活動のことです。医療現場には多くのリスクが潜んでおり、1つのリスクが重大な事故や損失につながりかねません。そのため、医療事故を未然に防ぎ、万一の被害を最小限に抑えるリスクマネジメントが求められます。
医療リスクマネジメントの目的
医療リスクマネジメントの目的は、多岐にわたります。
- 安全な医療サービスを提供して医療事故を未然に防ぐ
- 医療従事者が心身ともに健康な状態で働ける職場づくり
- 医療事故による損害賠償や業務停止などを回避する
- 医療機関として社会的信用や評価を向上させる
医療リスクマネジメントを適切に行い、継続的な改善プロセスを通じて医療サービスの質を向上できれば、患者の満足度および医療従事者のモチベーションの向上にもつながるでしょう。
医療現場で想定される主なリスク例

医療現場には、多くのリスクが潜んでおり、その要因はさまざまです。ここでは、特に注意すべき主なリスクを解説します。
薬剤の投与ミス
薬剤投与ミスは医療事故の中でも発生頻度が高く、重篤な結果を招く危険性があります。原因としては、薬剤名の類似による取り違え、投与量や投与経路の間違い、患者の薬剤アレルギー情報の見落とし、医療スタッフ間での情報伝達不備などが挙げられます。薬剤の投与ミスは、患者の健康に直接的な危害を及ぼすだけでなく、最悪の場合、生命の危機につながることもあります。予防策として、薬剤師による処方監査の強化、バーコード認証システムの導入、患者名・薬剤投与量の確認徹底やダブルチェック体制の徹底、ヒヤリハット事例の共有などが考えられます。
医療機器の誤使用
医療現場では、多くの高度医療機器が使用されており、操作ミスや保守不良による事故が発生するリスクがあります。具体的には、人工呼吸器を患者の状態に合わせて使用しなかった、滅菌していない機器を使用してしまった、などが挙げられます。
医療機器の誤使用リスクを低減するためには、定期的な機器のメンテナンス、操作研修の実施、使用前の点検の徹底が不可欠です。また、機器の不具合や故障を速やかに報告し、対応する体制を整えることも重要です。
転倒・転落事故
高齢患者や術後患者などは転倒・転落のリスクが高く、医療現場では特に細心の注意を払わなければなりません。転倒・転落は、骨折や頭部外傷といった深刻な状態に発展する恐れがあります。転倒・転落を防ぐためには、個々の患者に対してそれぞれリスクマネジメントを実施し、リスクの高い患者にはベッドからの転落防止策や、安全に移動できる環境を整えることが重要です。また、見守り体制の強化や、ナースコールへの迅速な対応も求められます。
患者誤認
患者の取り違えにより、該当患者以外に検査や治療、手術が行われることは、絶対に避けなければならない事故です。しかし、現場の忙しさによる患者確認の簡略化や、電子カルテの操作ミス、同姓同名の患者の存在などが原因で、取り違えが発生してしまう恐れは十分あり得ます。患者誤認を防ぐためには、口頭確認の徹底はもちろんのこと、複数のスタッフによるダブルチェックや、バーコード付きリストバンドの照合など、より確実な対策を取る必要があります。
院内感染
病院はさまざまな感染症患者が集まる場所でもあり、適切な感染管理を行わなければ院内感染が拡大するリスクがあります。院内感染を予防するには、基本的な予防策の徹底(手指消毒、マスク・ガウン着用、換気など)、医療器具の適切な滅菌・消毒、感染患者の隔離、そして医療従事者への予防接種などが重要です。
医療リスクマネジメントの実施プロセス
医療リスクマネジメントは、単発的な取り組みではなく、継続的なプロセスとして実施されます。主なプロセスは、以下の4つのステップから構成されます。
1.リスクの特定
まず、自院の現場に潜むあらゆるリスクを網羅的に把握する必要があります。過去のインシデント報告書やヒヤリハット事例を詳細に分析し、どのような事故やミスが起きているのか、その原因について明らかにします。また、現場スタッフへのアンケート調査やヒアリングを実施し、潜在的なリスクや問題点を幅広く収集しましょう。
2.リスクの分析
特定したリスクを、発生頻度と事業影響度(患者への危害、経済的損失、社会的信用の低下など)の2つの軸で評価・分析を行います。リスクの分析を行うことによって、どのリスクを優先して対策すべきかを判断しやすくなります。
3.リスク対策の立案
分析結果に基づいて、リスクを予防・軽減するための具体的な対策を立案する段階です。対策には、マニュアルの改訂、研修の実施、機器の導入、人員配置の見直しなど、さまざまな方法が考えられます。この際、期限を明確に定め、必要な予算や人材も確保することが重要です。人件費や業務時間の増加などのデメリットも十分に検討し、バランスの取れた改善計画を策定することで、対策の実効性を高められます。
4.対策効果の検証と改善
実施した対策の効果を定期的に測定・評価し、必要に応じて改善を行います。月次や四半期ごとに、インシデント発生件数の推移、スタッフの安全意識調査、患者満足度などの定量・定性指標を調査し、対策が効果を発揮しているかを確認しましょう。もし期待した効果が出ていない場合は、原因を再分析し、新たな対策を立案します。このPDCAサイクルを継続的に回すことで、医療リスクマネジメントの内容を常にアップデートできます。
医療リスクマネジメントの対策事例

医療リスクマネジメントを実践するためには、組織全体で具体的な対策を講じることが重要です。ここでは、効果的な対策事例をいくつかご紹介します。
医療事故防止のための安全管理マニュアル作成
医療事故を防止するためには、現場の実態に即した実践的な内容で安全管理マニュアルを作成することが重要です。厚生労働省のガイドライン「リスクマネージメントマニュアル作成指針」に準拠しつつ、自院の特性や診療科の特徴を反映した具体的な手順を明記します。
記載する内容の例は、薬剤投与時のダブルチェック手順、患者確認の方法、医療機器の操作手順などです。また、マニュアルは定期的に見直し、新しい医療技術の導入や法改正に対応した最新の内容を維持することが求められます。
医療安全管理委員会の設置
医療安全管理委員会を設置し、定例会を開催してインシデントやアクシデント事例の分析、再発防止策の検討、安全管理方針の策定などを行います。迅速な情報共有の体制整備なども重要です。委員会は、医師、看護師、薬剤師、技師、事務職員など、多職種のメンバーで構成するのが望ましいとされています。各部署の視点からリスクを捉え、より包括的な対策を検討しましょう。
専任の管理者の選定
各部署に専任の管理者を配置することで、現場レベルでの安全管理の強化につながります。管理者は、日常的な安全パトロールの実施、ヒヤリハット事例の収集・分析、スタッフへの安全指導を主に行います。また、医療安全管理者の資格取得を推奨し、管理者が専門知識とスキルの向上を図ることで、組織全体の安全管理能力を高めることが可能です。
スタッフへの定期的な勉強会の実施
全スタッフを対象とした、定期的な医療安全研修を体系的に実施することも効果的です。「新人職員向け」「技術職員向け」など、対象やテーマを細分化することで、より効果的な学習を促せます。座学だけでなく、シミュレーション訓練やケーススタディを活用した実践的な研修も取り入れましょう。また、研修の最後に理解度テストや実技評価を実施し、個々が自主的に学習に取り組めるような工夫も有効です。
職場環境や働き方の見直し
医療従事者の過重労働は、注意力低下や判断力の鈍化を招き、医療事故のリスクを高めるため、適切な労働環境の整備が不可欠です。勤務時間の上限設定、勤務体制の見直し、人員配置の最適化などを実施することで、スタッフの負担を軽減し、質の高い医療を提供できる環境を整えます。また、産業医やカウンセラーによる相談体制を整備し、ストレスチェックを定期的に実施することも有効です。
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まとめ
医療リスクマネジメントは、患者の安全を確保し、質の高い医療を持続的に提供するために不可欠な取り組みです。リスクマネジメント体制は一度整備したら終わりではなく、リスクの特定から対策の立案・実行、そして効果の検証・改善というプロセスを組織全体で継続的に実施することが重要です。
マニュアル整備や委員会設置、スタッフ教育といった多岐にわたる対策を講じることで、医療事故のリスクを低減し、安全な医療体制を築きましょう。