Always Essay ゆるゆるな日々 vol.10

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Always Essay ゆるゆるな日々

アフタヌーンティーは空港で

鈴木さちこ

数ヶ月に一度、私と親友は朝の家事を手早く済ませ、それぞれの最寄り駅からリムジンバスで羽田空港に向かう。そして、ひたすら話しながらランチをする。お気に入りは第二ターミナルのカフェ。同じ場所に留まっているのは、私たちくらいだ。ほとんどの人が、フライトまでの短い時間を過ごし移動していく。明るく広々とした空港内は清潔に保たれ、1年をとおして空調が安定している。極寒の日も、猛暑日も快適だ。
飛行機が次々と離陸し、やがて青空の彼方に消えていく。私たちは、ときおり会話を止めて、それを眺めることもある。空港は不思議だ。自分だけではなく、いろんな人の人生を俯瞰しているような感覚になる。まるで鳥になったかのように。親友とは毎年旅をしていた。旅先での失敗話に花が咲き、涙を流して笑う。もう戻れない日々の儚さ、慌ただしく進む毎日。空港で過ごすこの数時間のひとときが、気分転換となり元気の素となる。

子供が生まれる前は仕事の関係で、月に何度も飛行機に乗っていた。出産後は、まだ歩くことのできない息子と地元に留まる日々がもどかしかった。自宅近くの坂を歩けば、長崎の高台からの風景を思い出す。あぁ、旅をしたい。ある日我慢限界になった私は、息子を抱っこして羽田空港に行った。半年ぶりに訪れた場所は、私に想像以上の安堵感をくれた。ここが自分の原点なのだと素直に思った。たとえ飛行機に乗らなくても。
まだ太陽が高いうちに、後ろ髪を引かれる思いでリムジンバスに乗り込む。夕飯の支度と子供の世話が待っているからだ。バスは海の上の大きな橋を走っていく。船の浮かぶ水面が輝く。私と親友は偶然、真夏の同じ日に生まれた。次に会うのは、きっとその頃だろう。ささやかな贈り物を手にして。夏休みを様々な土地で過ごす人たちの笑顔を横目に、またおしゃべりが止まらないはず。空港は旅のとき以外でも、楽しめる。夏の昼下がり、いつもと違う場所で、大切な人とお茶してみませんか?おすすめですよ。

すずき・さちこ

1975年東京生まれ。旅好きのイラストレーター・ライター。
「きのこ組」「うちのごはん隊」などのキャラクターを手がける。著書に『電車の顔』『日本全国ゆるゆる神社の旅』『住むぞ都!』『路面電車すごろく散歩』ほか。

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