Always Essay ゆるゆるな日々 vol.11

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Always Essay ゆるゆるな日々

幸せを運ぶ果物

鈴木さちこ

朝ご飯をちゃんと食べないと、どうも力が出ない。白米に味噌汁、野菜の副菜が数点。メインのおかずは、手間がかからないものを毎日変える。納豆、しらす、鮭、海苔、梅干し、目玉焼き。そして、絶対に欠かせないのが旬の果物だ。色鮮やかな果物があると、食卓が華やかになる。野菜と同じく季節の移ろいを感じることができ、特に旬の果物はそのときの身体が求めている成分が、ぎゅっとつまっているような気がするのだ。
夏の朝、起き抜けに食べる西瓜は最高に美味しい。乾いた身体隅々に、水分が染み渡っていくのがわかる。でも、暑さがひいて過ごしやすくなってくると、あまり食べたいと思わない。不思議だ。売り場では西瓜は隅に追いやられ、梨や葡萄が登場し、林檎の足音が聞こえてくる。

数年前、大学時代の友人から出産の報告が届いた。お祝いを贈ると、さっそく内祝いが届いた。ずっしりと重い箱。甘いにおいが漏れている。箱を開けると、赤ちゃんのお尻みたいな可愛らしい桃が規則正しく並んでいた。当時一人暮らしだった私には、どう見ても量が多い。お裾分けするという考えも頭をよぎったが、こんなチャンスは滅多にないはず。全部自分で食べることに決めた。朝ひとつ、昼にもひとつ、夜にまたひとつ。日持ちが心配になり、コンポートを作り保存した。後にも先にも、こんなに嬉しい内祝いは無いと思う。ぷるんっとした赤ちゃんのお尻は、誰もを幸せな気持ちにさせる。それを桃に変えて表現した友人のユニークさも見事だった。
テレビでバナナの健康法を特集したとき、どの店でも一時期バナナが消えたことがある。もちろんバナナも美味しいけれど、売り場に溢れる旬の果物を前に、悲しくなったことがある。美しい四季がある日本は世界で一番、果物が美味しい国だと思う。きっと。明日の朝はあの果物を食べようとワクワクしながら、毎晩布団に入る。生産者のみなさんには、感謝の言葉しかないのです。「美味しい果物を作ってくれてありがとう」と。

すずき・さちこ

1975年東京生まれ。旅好きのイラストレーター・ライター。
「きのこ組」「うちのごはん隊」などのキャラクターを手がける。著書に『電車の顔』『日本全国ゆるゆる神社の旅』『住むぞ都!』『路面電車すごろく散歩』ほか。

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