Always Essay ゆるゆるな日々 vol.12

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Always Essay ゆるゆるな日々

毎日、「王手!」

鈴木さちこ

早いもので、我が家の息子も四月から小学生。数々の遊びを経て、面白く成長を感じている。3歳の頃目覚めたのは、ジグソーパズル。次はトランプ。ババ抜き、神経衰弱、ページワンなどを教えた。ページワンでは、自分なりに作戦を立てカードを出すようになり、保育園ではクラスメイトに指導するまでになった。その流れを踏まえて、カードゲームの「UNO」も覚えた。
カードゲームの場合、私が勝ちそうになると、わざと決め手のカードを出さずに負けていたが、徐々に状況が変わっていく。
ポーカーを教えたら、めきめき上達し、そのうちすました顔でロイヤルストレートフラッシュを出す。神経衰弱ではカードをめくり続け、私よりも枚数を取るようになった。そして現在は、将棋に夢中だ。なんと私は、5歳児を相手に一度も勝てたことがないのだ。かつてのカードゲームのときみたいに、手加減をしているわけではなく、真面目に向き合って勝負している。

私も息子も将棋は初心者で、スタートラインは同じなのにどうしてだろう。将棋は、相手の動きの先の先を読まなければいけない。自分の動きも簡単に悟られては不利になる。自分の駒が敵陣に入り、裏返した駒は名前を変え動きが変わる。このことを“成る”というのだが、成るか成らないかは自由。成らない場合が良いときもある。
取った敵の駒は自分の駒として使うことができ、持駒と呼ばれる。自分の持駒をいつどこに打つか、逆に相手の持駒も意識する。
私にとって将棋は、考えることが多すぎて頭がこんがらがるのだ。ところが息子はスッキリと、無駄なく的確に駒を打ってくる。悩む私に「この駒をこう動かした方がいいよ」と、たまにアドバイスをしてくれる。しかし、本当に善意のときもあれば罠にはめられ、遠くで待ち構えていた角(角行)で、あっけなく玉(玉将)を取られたりする。「王手!」今日も息子の自信たっぷりの高らかな声が響く。諦めつつも、いつかは勝ってやるという密かな闘志を隠し、母は渋々と盤に向かう。

すずき・さちこ

1975年東京生まれ。旅好きのイラストレーター・ライター。
「きのこ組」「うちのごはん隊」などのキャラクターを手がける。著書に『電車の顔』『日本全国ゆるゆる神社の旅』『住むぞ都!』『路面電車すごろく散歩』ほか。

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