フードディフェンスとは?基本的な考え方とその重要性

フードディフェンスとは?基本的な考え方とその重要性
2023.09.05更新(2021.06.30公開)

食品に異物や有害物質などが混入すると、消費者や食品を取り扱う人へ危害を及ぼすなど重大な事態に発展します。それらを防止する取り組みとして、食品関連業において重要視されているのが「フードディフェンス」です。
この記事では食品関連の事業を行う方、食品を取り扱う方なら知っておきたい「フードディフェンス」について、その概要や具体的な取り組み内容、必要なシステムをご紹介します。

目次

食品の安全を守る「フードディフェンス」

フードディフェンスは、国際的に認められている衛生管理手法である「HACCP(ハサップ)」を補完する形で導入が進んでいます。ここではフードディフェンスという考え方について知るとともに、HACCPとフードディフェンスの違いについてもご紹介します。

フードディフェンスとは?

フードディフェンスとは、日本語に直訳すると「食品防御」という意味となります。具体的には、食品に入ってはいけないもの(食用に供せない異物など)を「第三者によって意図的に混入されること」による危害を防ぐ取り組みを指します。

「意図的な混入」とはどのような状況か

食品に異物などが意図的に混入される状況とは、どのように生じるのでしょうか。分かりやすくいえば、人為的ミスなどの偶発的な「事故」ではなく、第三者が悪意により食品に異物を混入させる「事件」ということです。わざと異物の混入を図る「食品テロ」は、食品工場だけでなく食料品販売店や飲食店など、身近な場所でも起こり得るものです。

HACCPとの違い

食の安全・安心を守る取り組みとして、HACCPが特によく知られています。フードディフェンスとこのHACCPには、どのような違いがあるのでしょうか。
HACCPの始まりは、アメリカで大規模な宇宙開発が進められていた1960年代にさかのぼります。アポロ計画を進めていたNASAなど複数の機関が食品の安全管理のために考案した管理方法がもとになっており、その後国連の機関であるWHOとFAOが主となったコーデックス食品規格委員会で詳細が定められました。現在ではこのコーデックスの規範に沿ったやり方がHACCPとして広がり、今ではISOを始め各種団体からHACCPに適合する旨の認証を受けることもできます。

HACCPの考え方においても、食品への異物混入防止に関する事項はあります。しかし、悪意ある第三者による食品危害をHACCPは想定しておらず、HACCP認証を取得するだけでは十分に食品危害を予防できないという考えから、HACCPに加えてフードディフェンスに取り組む事業者が増えているのです。
HACCPに基づいて事業を行うことは食品事業者の基本ですが、併せてフードディフェンスの考え方を取り入れることで、さらなる食品危害防止につなげられるのです。
HACCPの基礎知識については、以下のコラムもぜひご覧ください。

フードディフェンスに取り組むべき業種

フードディフェンスは、食品を生産、製造、流通、販売するすべての業種にとって重要な問題です。特に、以下の業種は、いずれも食品に密接に関わるためフードディフェンスに取り組む必要があります。

  • 食品製造業
  • 飲食業
  • 小売業
  • 食品輸出業
  • 農業

対策例としては、製造施設への防犯カメラの設置や、従業員などの入退場に対するセキュリティ強化などが挙げられます。

食品の安全を守るフードディフェンスに必要なシステムを先にみる

フードディフェンスが注目される背景

フードディフェンスという考え方が注目され始めたきっかけは、2001年にアメリカで突如発生した同時多発テロ事件であったといわれています。アメリカの議会や政府ではこの事件を踏まえ、あらゆるインフラをテロ行為から守る取り組みが提唱されました。食品もその一つとされ、フードディフェンスという考え方が広まったのです。
日本国内でも、食品への異物混入による事件が起こっています。2007年には、中国で製造した冷凍餃子に殺虫剤が混入され、日本と中国で食中毒被害者を出す事件が発生しました。また2013年には日本国内の冷凍食品工場で、製造品に農薬が混入し大規模な自主回収となる事件が発生しています。いずれも生産に携わっていた従業員の内部犯行によるもので、意図的に食物へ有害物質が混入された「食品テロ」とも呼べる事件です。

これらの事件により、日本でも食品の安全性への関心がより高まりました。食品への意図的な異物混入を防ぐことは、食品を取り扱う事業者にとって大きな課題となっています。

以下は、2017年度から2022年度にかけて消費者庁へ報告された危険情報のうち「異物の混入」の件数をグラフにしたものです。

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出典:消費者庁「令和4年版消費者白書」 
消費者庁「令和5年版消費者白書」

食品の安全性に関する事件などが報じられることで人や企業の安全意識が高まり、異物混入の件数自体は年々減少傾向にあります。
しかし2022年度にも282件近くの報告があるなど、依然として発生件数は多い状況です。本来は発生数ゼロであるべきものと考え、今後も安全管理の強化を継続する必要があるでしょう。

出入管理・入退室管理システム

食品問題によるリスク・影響とは?

食品問題によるリスク・影響とは?

万一、異物混入などが発生してしまった場合、消費者と企業それぞれにどのような影響が及ぶのでしょうか。ここでは、食品問題発生のリスクについてご紹介します。

消費者への影響

有害物質による食中毒や食品以外の異物によるケガなど、健康を損なう事態に見舞われます。また健康被害がなくても、異臭などにより不快な思いをすることがあります。

企業への影響

自主回収や風評による売り上げの低下などで、経済損失を招きます。事態が大きく報道されるに至った場合は企業イメージの低下も必至で、顧客や取引先の信頼を損なうことも想定されます。

フードディフェンスの主な取り組み

フードディフェンスの主な取り組み

HACCPの考え方に基づき、適切な衛生状態で食品を取り扱うことは非常に重要です。しかし、その取り組みだけでは第三者の悪意による異物混入を防ぐことはできません。ここでは、フードディフェンスの具体的な取り組み内容をご紹介します。

適切な組織マネジメント

従業員が働きやすい職場づくりを心掛け、前向きに業務に取り組める環境を構築する必要があります。
従業員の勤務状況や業務内容を把握し、管理を徹底するとともにコミュニケーションを図ります。品質や安全管理に関する従業員への積極的な意識付けを図ることも有効です。

人的要素(従業員)

従業員の私物や不要物の持ち込みを禁止するなどの取り組みも重要です。ポケットのない制服の導入など、服装規定を見直すことも同時に行うと良いでしょう。
また、採用時の身元確認や、業務に必要なエリアのみ入退室できるなど行動を制限する取り組みも挙げられます。

人的要素(部外者)

取引先などの部外者が、事業所内に立ち入る際のチェック体制の強化も有効な取り組みです。施設内を移動する際は、従業員が同行することで不要な立ち入りを防止できます。

施設管理

不審者が事業所内に立ち入ることを防ぐ仕組みづくりも重要です。警備員が24時間施設に常駐し警備を行うことや、防犯カメラ・監視カメラで侵入防止を図るなどの物理セキュリティ対策を講じましょう。また、内部犯行を防ぐためにも施設内部を監視カメラで常時監視・録画するなどの措置も必要となります。生体認証やIDカードによる認証機能を備えた鍵管理システムの導入も有効です。

食品の安全を守るフードディフェンスに必要なシステム

フードディフェンスを実現するためには、物理セキュリティが必要です。ここからは、フードディフェンスを実現するためのシステムについてご紹介します。

防犯カメラ・監視カメラ

防犯カメラ・監視カメラでは、以下のことが実現できます。

  • 部外者や元従業員の侵入の抑止(事件発生の抑止につながる)
  • 録画映像は有事の際の証拠として利用可能
  • 製造ラインの記録
  • 映像の検証による作業効率の改善

防犯カメラ・監視カメラの設置は、悪意をもった異物混入や無人時の侵入を抑止しながら、万一の事態にもしっかり映像を記録します。
また、録画映像を見返すことで作業効率の改善に役立てることもできるでしょう。録画映像は有事の際には証拠として利用も可能です。

ALSOKではさまざまな防犯カメラを取り扱っており、設置場所に適した機器をご提案します。また、「ALSOK画像クラウドサービス」なら録画データはクラウドに保存されるため誤ってデータを失う心配がなく、スマートフォンやタブレットから映像を確認することも可能です。

防犯カメラ・監視カメラサービス

入退室管理システム

入退室管理システムでは、以下のことが実現できます。

  • 部外者や元従業員の侵入を防止
  • 工場内での作業者の移動可能区画の設定
  • 誰がどこにいるかをリアルタイムで把握する在室管理
  • 入退室履歴を確認できる

入退室管理システムは、IDカードや顔認証により特定の人物の入退室を制限・管理するシステムです。食品工場などに導入することで部外者や元従業員の侵入を防止し、セキュリティを向上させることができます。
また、食品工場では作業者が自由に動き回ると、食品の汚染やクロスコンタミネーションのリスクが高まります。そこで入退室管理システムを利用することにより、作業者の移動を制限し、食品の安全性を向上させることも可能です。さらに、入退室管理システムは、入退室履歴を保存することができます。この履歴を分析することで、効率的な作業配置や、セキュリティ上の問題を特定することができます。

災害や緊急事態が発生した場合には、入退室履歴を確認することで、適切な措置を講じることにつながります。

このように、多くのことが実現できる入退室管理システムは、フードディフェンスに取り組む事業にとって欠かせないシステムです。

出入管理・入退室管理システム

機械警備・オンラインセキュリティ

機械警備・オンラインセキュリティでは、以下のことが実現できます。

  • 効率的なセキュリティ対策が可能
  • 部外者や元従業員の侵入を防止
  • 誰がどこにいるかをリアルタイムで把握する在室管理
  • 機密情報、個人情報などの管理
  • 冷蔵庫の温度異常を監視
  • 設備の遠隔制御や遠隔警備操作が可能
  • 有事の際に迅速な対応が可能

機械警備・オンラインセキュリティは、各種センサーが24時間異常の有無を監視するため効率的なセキュリティ対策が可能です。
また、遠隔地から設備の操作ができるため、管理者や責任者の不在時にも現地の状況を確認・設備の操作をすることができます。監視カメラの映像やセンサーの情報を基に、有事の際も迅速に状況を把握することにつながります。

機械警備・オンラインセキュリティは、フードディフェンスに取り組む企業にとって有用なシステムといえます。

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腸内細菌検査

フードディフェンスに取り組む企業として食の安全を守るためには、従業員の定期的な健康診断のほか、二次汚染を防ぐため食中毒菌の保菌チェックも重要です。

ALSOKグループの株式会社エムビックらいふでは、食品取扱者のための腸内細菌検査を実施しています。フードディフェンスの一環として、従業員の適切な健康管理・衛生管理が可能です。

まとめ

この記事では食の安全確保のために重要な取り組みである、フードディフェンスについてご紹介しました。安全な食品を消費者に提供するには、取り扱い時の適切な衛生管理にとどまらず、第三者による意図的な異物などの混入を防ぐことも必要です。
また、フードディフェンスに取り組む際、防犯カメラや機械警備・オンラインセキュリティといった安全管理に有効なシステムの導入は有用です。これらのシステムを活用しながら、フードディフェンスに徹底して取り組む体制をつくっていきましょう。