Always Essay ゆるゆるな日々 vol.5

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Always Essay ゆるゆるな日々

引っ越しはやめられない!?

鈴木さちこ

初めての一人暮らしは25歳のとき。映像制作会社に勤めていた私は、深夜帰宅の多い不規則な生活が続いていた。そこで、通勤しやすいエリアに一人暮らしすることを決心した。すぐに不動産屋に行き、物件を内見し、数日後には引っ越し。建前は両親に迷惑をかけないためとしていたが、本当の理由は別にあった。25歳にもなって、コメの研ぎ方もゴミの出し方も知らないなんて、人としても女としても駄目だと焦っていたからだ。
東京の荻窪で、私の新生活はスタートした。まずわかったのは、日用品でも食料品でも自分で買い物をしなければ、家には何もないということ。自分で掃除をしないと汚くなること。そんな単純な出来事で、一人住まいの事実が身に染みたのを覚えている。当然ながら料理もするようになった。基本的な料理本を手に奮闘して、会社にお弁当を持参するまでに成長。新聞の勧誘にだまされ、近所付き合いに悩みながら、少しずつたくましくなっていく。

退社して独立すると、家で過ごす時間が長くなった。以前よりも周りの環境に敏感になり、求めるものが変化した。仕事部屋から緑が見える物件を好んで探し、大きな公園の前に住んでいたころは、朝5時に起きて園内を散歩。夕方になると服の下に水着を着用し、10分後にはプールの中!なんと、公園を抜けると公共の温水プールがあったのだ。独身最後に住んだ神奈川の横須賀では、海と山を眺めながら原稿を書いた。都会から離れる寂しさと同時に、吹き抜ける風の心地よさを知った。
引っ越しは、わくわくする。どこかに不安も抱えながら。新しい街に少しずつ、自分の身体が馴染んでいく感覚。行きつけのお店ができていくうれしさ。一人暮らしを寂しいと感じたことはなく、数年ごとに引っ越しを楽しんだ。しかし家族ができると、気軽に動くことは難しい。今は子供の荷物に侵略されつつある部屋で、この原稿を書いている。さて、憧れのマイホームを手に入れる日はいつになりましょうか…。

すずき・さちこ

1975年東京生まれ。旅好きのイラストレーター・ライター。
「きのこ組」「うちのごはん隊」などのキャラクターを手がける。著書に『電車の顔』『日本全国ゆるゆる神社の旅』『住むぞ都!』『路面電車すごろく散歩』ほか。

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