企業や施設内にAEDを設置する必要性とは?

2017.03.30

駅や公共施設、スポーツ施設など、さまざまな場所で見かけるAED(自動体外式除細動器)。最近では一般企業や施設でも導入するところが増えています。AEDはそもそもなぜ必要なのか、企業や施設が導入することにはどんな意味があるのかについて解説します。

AEDとは

「AED」(自動体外式除細動器。Automated External Defibrillator)とは、救命処置用の医療機器です。心室細動を起こしている心臓に対して電気ショックを与え、正常なリズムを取り戻させます。

心室細動とは?

突然の心停止の多くは、不整脈の一種である心室細動が原因です。心室細動を起こすと心臓の筋肉の一部が痙攣したような状態になり、ポンプ機能が失われて全身に血液が送れない=酸素が運ばれない、という状態に陥るため、一刻も早く細動を取り除く処置(電気ショックによる除細動)が求められます。

一刻も早く処置を行うことが不可欠である以上、現場の近くにAEDが設置されていることが非常に重要。仮にAEDが300mごとに1台設置されると、150m/分の早足でAEDを取りに行けば、どこでも5分以内に処置を行うことが可能になります。AEDが普及することは、より多くの命を救うことにつながります。

AEDの重要性。早急な対応が命を救う

日本国内において、1年間に救急搬送された心原性心肺停止(心臓に原因がある心肺停止)傷病者数は75,109人(*1)に上ります。一方で、1年間の交通事故死者数は3,694人(*2)。つまり心肺停止は交通事故死よりも発生件数が多く、1日に200人以上の方が突然の心肺停止によって救急搬送されているということになります。

また、日本では通報から救急車が到着するまでの全国平均時間は約8.5分(*1)。突然の心停止を起こした人の救命の可能性は時間とともに低下し、3〜4分程度で脳の回復が困難になると言われます。

しかし、傷病者の近くに居合わせた私たち一般市民がAEDによる除細動や心肺蘇生の救命処置を行うことで、救命の可能性は上がります。除細動による救命率は1分ごとに10%低下するとされ、傷病者の命を救うためには1分1秒でも早くAEDを使用することが求められるのです。

このように誰しも他人事とは言えない心停止やAEDですが、実際はどれくらいAEDが活躍しているのでしょうか。

1年間で一般市民が目撃した心原性心肺停止傷病者数が25,569人であるのに対して、心肺蘇生が実施されたのは14,354人。そのうち除細動が実施されたのは1,204人となっており、およそ4.7%の心肺停止傷病者に対してAEDが使用されています(*1)。

まだまだ当たり前に使用されているとは言えないものの、AED が使用された場合の生存率は圧倒的に高くなっています。心肺蘇生が実施されなかった傷病者の1ヶ月後生存者数の割合が9.3%であるのに対して、心肺蘇生が実施された場合は16.4%。除細動が実際された場合は53.3%にまで伸び、処置が行われなかったときと比べて生存率は5.7倍に上がっています(*1)。

(*1):総務省消防庁「平成29年版 救急救助の現状
(*2):警察庁交通局「平成29年における交通死亡事故の特徴等について」

AEDの設置が進められている場所とは?

厚生労働省が公表した「AEDの適正配置に関するガイドライン」には、AEDの設置が求められる施設の種類が記載されています。それによると人が多く集まる駅、空港、長距離輸送機関(旅客機、新幹線など)、学校、スポーツ関連施設、市役所や図書館などの公共施設などは積極的にAEDを設置すべき場所とされています。

さらに、商業施設、集客施設、会社、工場、作業場、アパート、マンションも設置が推奨される施設とされています。最近では実際にこれらの場所にAEDが置かれていることも珍しくなくなりました。しかし、24時間365日AEDが使用できる設置箇所はまだまだ少なく、いつでも利用できる環境整備が望まれています。

会社内にAEDを設置することは従業員の命を救うことに役立つだけではありません。社会全体を見たとき、施設としての価値向上につながります。アパート・マンションなどの集合住宅も同様です。居住者と周辺住民、通りがかった人の命も助けられるかもしれません。学校の場合は多くの児童、生徒、学生、教員に加え、選挙投票時、避難時などに集まる人々の人命救助に役立つ可能性もあります。

AEDの種類について

AEDを製造しているメーカーは複数あり、メーカーや製品によっていくつかの種類があります。基本的に高度な知識などがなくても使用できる設計になっていますが、設置場所や必要な機能に応じて適したものを選びましょう。

航空法対応

航空法ではバッテリーのリチウム含有量や電力量が制限されており、飛行機に持ち込んだり預けたりするためには、規格に対応した製品を選ぶ必要があります。

監視端末対応(通知機能)

AEDは必要なときに確実に動作することが重要。セルフメンテナンス情報や異常発生などの情報が監視端末からメールで通知される監視端末対応の製品は、管理者が常駐していない施設などで役立ちます。

環境に対する性能が優れた製品

AEDの管理温度は一般的に0〜50度。防塵防水性に優れたAEDもあり、屋外環境や携帯移動時に最適です。

AEDの基本的な使用方法

いつどこでAEDが必要な場面に出くわすかわかりませんので、1人でも多くの命を救うためには、できるだけ多くの人がAEDの使用方法を理解しておくことが大切です。ここで簡単にAEDの使い方を説明しましょう。

(1)AEDの準備

意識のない傷病者を発見したら、速やかに119番通報するとともにAEDを手配。AEDを設置場所から取り出す際には大きなアラームが鳴ります。呼吸がない場合は、AEDが到着する間も胸骨圧迫や人工呼吸の心肺蘇生を行います。

(2)AEDの電源を入れる

AEDにはカバー等を開けることで自動的に電源が入るものと、手動のスイッチで電源を入れるものがあります。電源を入れるとAEDの音声ガイドが始まりますので、指示に従って処置を行いましょう。

(3)電極パッドを装着

電極パッドをイラスト通りに右胸上部と左胸下部位置(成人)・前胸部と後背部位置(小児)に装着。成人用・小児用のパッドや、成人・小児モードの切替えキーおよびスイッチがあるものは対象者に合わせて選びましょう。パッドを装着すると、AEDが自動で電気ショックが必要かどうかを判断します。

(4)ショックボタンを押す

電気ショックが必要と判断された場合、指示通りに体から離れてショックボタンを押します。その後も、音声ガイドに従って胸骨圧迫を継続。救急隊員が到着するまでは、電極パッドを外したり電源を切ったりしないようにしましょう。

AEDを使用する際の注意点としては、AEDの心電図解析時や電気ショック時には傷病者に触らないこと。また、胸部が水などで濡れている場合は水分を拭き取り、傷病者に接している電動ベッドなどの家電製品のコンセントは抜くようにします。

基本的にAEDの指示通りに処置を行えば問題ありませんが、おおまかな流れを覚えておけばいざというときも迅速かつ確実に対応できるでしょう。

AEDの導入手段について

AEDの導入手段には、レンタル、リース、購入などがあります。

レンタル

常設で備える場合などは、長期契約でレンタルできます。レンタル業者によってサービスが異なりますが、消耗品の交換などのメンテナンス料金が含まれていることが多くなっています。

リース

長期契約の月額支払い契約が一般的。初期費用やランニングコストが抑えられます。

購入

長期使用でトータルの費用を抑えたい場合に適しています。保険や法人の場合の税金面でメリットがある一方、自己責任で管理や点検、消耗品の購入などを行う必要があります。

AEDの使用期限は7年というのが一般的。消耗品である電極パッドは通常1年半~2年で交換し、バッテリーも3~5年程度で交換が必要となります。使用する際にAEDが正常に作動しないのでは意味がありません。これらの消耗品の管理をしっかり行うとともに、動作確認用のインジケーターなどが正常に表示されていることを毎日確認することが欠かせません。

AEDの管理等は、担当者を決めて日常的に点検などを行うことが重要です。販売会社から消耗品交換等の連絡が来るので、担当者がその窓口となって管理する必要があります。こうした日常の点検作業などが難しい場合には、サポートサービス会社に管理を委託することもできます。

このように、契約や会社などによってAED導入の費用やランニングコスト、管理にかかる労力が変わってきます。耐用年数や消耗品があり、いざというときに確実に動作しなければならないというAEDの特質も理解しつつ、方針や予算に応じて導入手段を検討するようにしましょう。

AEDの設置で期待できること

AEDを設置することにより、以下のことが期待できます。

安全管理の向上

AEDは誰でも使用できます。操作方法は音声ガイドに従えばよく、AEDは心臓に痙攣が起きているときのみ作動します。一般の人がAEDを使用して人命救護した事例は年々増えており、社内や施設内における安全管理が向上します。特に、アパートやマンションなどは入居者のみならず、近隣の住民の安全管理のためにも設置するところが増えています。

施設価値の向上

AEDが設置してあることで、万が一のときの安心感を持ってもらうこともできるため、施設の利用価値、存在価値も向上します。逆に、いざというときに「もしもAEDがあったら……」と後悔する状況になることはできるだけ避けたいものです。

CSR効果の向上

CSRとは企業などの社会的責任のことです。コンプライアンスや情報開示、環境問題への取り組みなどとともに、従業員や来客者、近隣にいる人の安全管理に努め、備えをすることで、相対的な社会的価値が向上します。

ALSOKではAED講習も

誰でも使用できるAEDですが、やはり実際に使用するときは事前の知識や経験があればより的確に処置を行うことができます。

AEDの販売・レンタル、管理を行っているALSOKでは、企業や学校、介護施設、アパートやマンションの集合住宅などさまざまな施設で救急トレーニングの講習を実施しています。講習を受けることで正しいAEDの使い方を知り、その知識を拡散することもできます。こうしたサービスを利用することで、AEDの使用成功率を上げていくこともできるでしょう。

企業や施設内にAEDがあれば、命を救うことのできる場面は確実に増えていきます。安全で安心な施設環境、企業環境を作るために、導入を考えてみてはいかがでしょうか。

AEDの導入が気になる方はまず、心肺蘇生法とAEDの使い方をご確認ください。