安全配慮義務とは?職場の安全を守るために企業がすべき対策

安全配慮義務とは?職場の安全を守るために企業がすべき対策
2024.09.27更新(2021.03.23公開)

職場では、つねに従業員の安全を守ることが必要です。わが国の法律にも安全配慮義務が明記されており、業種や職種を問わずすべての職場において働く人の生命や身体の安全が確保されなければなりません。

この記事では職場の安全配慮義務に関する概要をご説明し、その必要性や違反した際のリスク、具体的な対策についてご紹介します。

目次

安全配慮義務とは?

安全配慮義務とは?

安全配慮義務とは、従業員が健康と安全を保ち、働きやすい環境でつねに業務に従事できるよう会社が配慮する義務を指します。当然のことですが、従業員に賃金さえ支払っていればどのような働かせ方をしてもよいということではありません。

労働契約法第5条の条文には、以下のように記載されています。

(労働者の安全への配慮)
第五条 使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。

引用:労働契約法 第五条

安全配慮義務が規定された背景

近年では業務中の怪我などにとどまらず、ハラスメントなどの問題が顕在化することで安全配慮義務に関する議論が度々起こっています。

安全配慮義務という概念を盛り込んだ労働契約法は2008年に施行されました。また、判例や裁判例の積み重ねによって内容が具体化されました。ここでは、安全配慮義務を認めた代表的な事件をご紹介します。

・「陸上自衛隊事件」

1965年、陸上自衛隊の隊員が車両の整備中、後退してきたトラックにひかれ死亡した事故が起こり、遺族が損害賠償を求めて国を訴えた事件です。結果として、1975年に最高裁判所の判決では公務員に対する国の安全配慮義務違反が認められました。

1975年の最高裁判所の判決の要旨は、以下のとおりです。

「国は、公務員に対し、国が公務遂行のために設置すべき場所、施設若しくは危惧等の設置管理又は公務員が国若しくは上司の指示のもとに遂行する公務の管理にあたって、公務員の生命及び健康等を危険から保護するよう配慮すべき義務(以下「安全配慮義務」という)を負っているものと解すべきである。」

この裁判が、のちに労働契約法に安全配慮義務が明文化されるきっかけとなったといえます。また、次の「川義事件」も安全配慮義務の確立につながった判例です。

・「川義事件」

会社に単独で宿直勤務していた社員が、元社員の強盗に襲われて殺害された事件が発生しました。このとき高額商品が多数ある社内で防犯措置を怠っていたことを、安全配慮義務に違反すると遺族が訴えを起こしたものです。こちらも1984年の最高裁判所の判決により、安全配慮義務違反があるとし、会社は損害賠償責任を負うことになりました。

引用:厚生労働省「参考となる主な裁判例」

なぜ企業は安全配慮義務に取り組む必要があるのか

なぜ企業は安全配慮義務に取り組む必要があるのか

企業には、つねに安全配慮義務に則った労働環境を築き、それを維持することが求められています。ここでは、企業が安全配慮義務に取り組むべき理由についてご紹介します。

社員の長期的な定着:労働環境の改善によって働きやすい職場が実現できれば社員が定着し、中途退社を防ぐこともできます。優秀な社員を長く定着させることは、企業の競争力を強化することにもなり得ます。

生産性の向上:すべての従業員が心身ともに健康な状態で仕事に従事できれば、業務上のパフォーマンスも向上します。その結果業務の生産性が向上し、企業のさらなる成長にもつながります。

企業のブランディング:働きやすい職場を目指すことで、その取り組みが職場内の環境改善にとどまらず、企業そのものの好感度や人気にも直結します。「従業員に良心的な企業」と内外からの支持を獲得することで、効果的なブランディングにもつながります。

安全配慮義務の範囲

企業が行うべき安全配慮義務は、大きく「健康配慮義務」と「職場環境配慮義務」に分けられます。

健康配慮義務

健康配慮義務とは、従業員の心身への健康に配慮する義務です。具体的に行うべきこととしては、適切な労働時間管理や定期的な健康診断の実施、産業医の設置、メンタルヘルス対策などが挙げられます。健康管理や健康相談がいつでも行える環境の整備、ストレスチェックやカウンセラーの設置、メンタルヘルスに関する教育の実施なども、健康配慮義務に含まれます。

職場環境配慮義務

職場環境配慮義務とは、従業員に快適な職場環境を提供し、安心して働けるように配慮する義務です。業務効率を向上させる機器・設備の導入など物理的な環境整備以外に、近年はハラスメント対策なども重要視されています。ハラスメントが起こらない環境づくりや、従業員間のコミュニケーションを活発化させ、信頼関係を築きやすくすることなども企業の義務だといえます。

安全配慮義務の対象となる従業員

自社が雇用している全従業員が対象です。正社員・契約社員・アルバイトなど、雇用形態は問いません。労働契約法では、「労働契約に伴い、使用者は特別な規定や根拠がなくても、当然として安全配慮義務を負うこと」としています。つまり、雇用契約書に何も明記されていなくても、雇用する側は全従業員に対して雇用契約を結んだ時点で安全配慮義務を遵守しなければならないのです。

参考:厚生労働省「労働契約法のあらましp8-労働者の安全への配慮(第5条)」

安全配慮義務に違反した場合はどうなる?

安全配慮義務に違反した場合はどうなる?

安全配慮義務に違反し、それが発覚した際、企業にもたらされる影響についても見ていきましょう。

損害賠償など直接的な影響

安全配慮義務違反自体に罰則はなく、労働契約法の条文にも罰則に関する記載はありません。ただし、被害を受けた従業員側が訴えを起こした場合は民法が適用され、違反が認められれば企業が責任追及の対象となります。その違反によって従業員が健康被害を負った場合は、損害賠償を支払うことになります。

企業のイメージダウン

安全配慮義務違反が認められ、企業がその責任を追及されれば報道などによってその事実が公表されることとなります。企業のイメージダウンにも直結し、業績を大きく悪化させる事態にもなりかねません。

安全配慮義務違反の判断基準

安全配慮義務違反となる明確な基準はあるのでしょうか。判断基準としては、以下が挙げられます。

労働安全衛生法などで定めた義務を果たしているか

労働安全衛生法など、法令などで企業に定められた義務を果たしていない場合、安全配慮義務違反と判断される可能性があります。例えば労働安全衛生法では、「機械や引火性のあるものなど危険な業務を行う場合、十分な安全対策を取ること」が求められています。このような職場で十分な対策を行っていない場合は、安全配慮義務違反とみなされるでしょう。

また、近年は感染症への対策なども安全配慮義務に含まれます。感染防止対策はもちろん、従業員に感染者が出た場合の対策、感染の可能性がある場合の対策なども十分に考えておく必要があります。

引用:労働安全衛生法

従業員の傷病と関係性があるか

従業員が怪我や病気になった際、その原因に企業の安全配慮義務違反が関係しているかも判断基準として挙げられます。本来行うべき安全対策を怠ったせいで従業員が怪我をした場合や、長時間労働やハラスメントが原因で従業員が精神疾患を患った場合などには、企業の安全配慮義務違反が認められます。

例えば、管理職の従業員が多忙さから体調不良を訴え、業務量の調整を願い出たものの受け入れられず、結果としてうつ病を発症したという場合、企業側の安全配慮義務違反が認められます。一方、プライベートな出来事が原因でうつ病になり、業務に支障を来した場合、安全配慮義務違反にはあたりません。しかしうつ病などの精神疾患はさまざまな要因が複雑に絡み合っている場合が多いため、一定の配慮が求められる場合もあります。

予見可能性および結果回避可能性があるか

予見可能性とは「従業員の心身に害がおよぶことを事前に予期できたか」、結果回避可能性とは「予期した事象を回避できたか」ということを指します。

例えば、以下のようなケースは予見可能性・結果回避可能性があったといえるでしょう。

  1. 持病を抱える従業員が日常的に長時間残業を続け、結果心身の不調を訴えた
  2. 高所での作業中に従業員が転落し骨折した
  3. 欠勤が続く従業員がメンタルの不調を訴え退職した

1では持病がある従業員に配慮した労働時間を設定する、2では高所作業中は必ず命綱を着用させる、3では欠勤が続く従業員には聞き取りなどメンタルケアを行う、などの対策でいずれも結果は回避できた可能性があります。

特に近年では、3のように職場で精神障害を負ったことによる労災補償の請求が増加しています。以下は、2015年度~2023年度の精神障害による労災補償状況をグラフにしたものです。

精神障害による労災補償状況(件)
出典:[厚生労働省]精神障害に関する事案の労災補償状況「表2-1 精神障害の労災補償状況」
厚生労働省 報道発表資料/2024年6月 令和5年度「過労死等の労災補償状況」
  • 決定件数:前年度以前に請求があったものを含め、当年度中に「労災か、そうでないか」の決定が行われた件数
  • 支給決定件数:労災と認定され、給付金の支給が決定した件数

上記のグラフを見ると、2015年度から請求件数、決定件数、支給決定件数いずれも増加しており、企業は従業員の心の安全を守る配慮の徹底に向け、今後さらなる取り組みが必要であると考えられます。

企業が安全配慮義務を遵守するための対策事例

企業が安全配慮義務を遵守するための対策事例

企業において、安全配慮義務に違反しないことは必須事項です。ここでは、具体的にどのような対策を取って安全配慮義務の遵守に努めるべきかをご紹介します。

1.労災・事故防止対策

事故が発生する可能性がある場所には、その危険を回避するための安全装置を必ず設置し、安全確保に努めなければなりません。

例えば、

  • 機械設備を使用する場合には巻き込まれ事故防止のために柵や覆いを設ける
  • 故障を防ぐため機器の定期的な点検を行う
  • 火災や爆発の危険がある物を取り扱う際には換気を徹底する
  • 滑りやすい場所への滑り止めを設置する
  • 危険な作業に関する注意書きを設置する
  • 作業所、工場内の整理整頓を行う

などが対策として挙げられます。
また、各部署や現場においては衛生管理者や安全衛生推奨者を設置し、新しい従業員には安全衛生教育を実施する必要があります。

2.労働時間の管理

従業員が残業をする際には上司へ申請を行い、承認を受けなければ残業はできないとする、また管理者は従業員の労働時間を把握し、定期的に実態調査を行うなど、労働時間の管理を徹底しましょう。労働基準法では「時間外労働の上限規制」が定められています。これによると、休日労働を含まない残業は原則として「月あたり45時間、年あたり360時間」を超えないこととされています。

臨時的な事情があり労使合意に基づいて残業を行う場合も、「月あたり100時間未満、2~6か月の平均80時間以内(いずれも休日労働を含む)」「年あたり720時間以内(休日労働を含まない)」を守る必要があります。

3. 健康診断の実施

従業員の健康状態を把握するため、年1回の健康診断を実施しなければなりません。
そのほか

  • 雇い入れ時の健康診断
  • 特定業務従事者の健康診断(6カ月ごとに1回)

などが義務付けられています。

4. ハラスメント対策

従業員の心の健康も、決して損なわれてはいけないものです。特定の従業員に対するいじめや不当なハラスメント(嫌がらせ)を許さないという方針を明確にし、被害に関する相談・報告の体制を構築しましょう。

また、職場でのハラスメントは

  • パワーハラスメント
  • セクシュアルハラスメント
  • マタニティハラスメント

などさまざまな種類があり、どのような行為がハラスメントに該当するかの認識を全社的に標準化する必要があります。このため、企業は定期的にハラスメント教育・ハラスメント研修などを実施しましょう。

5.メンタルヘルス対策を徹底する

先述のように、近年は精神障害を負ったケースでの労災補償が増加しています。従業員のメンタルヘルス対策には、

  • 従業員自身のセルフケア
  • 管理者としてのラインケア
  • 産業保健スタッフなどによるケア
  • 事業場外の専門家によるケア

と、実態に応じた4つのケアが必要になります。社内カウンセラーを設置するなど、生じた課題に速やかに対応できる体制の構築も重要です。

2015年12月より、職場でのストレスチェックが義務化されており、メンタルヘルス対策のなかでもストレスチェックは状況把握のために重要な施策です。ALSOKでは、法令に準拠したストレスチェックサービスをご提供していますので、働きやすい職場づくりにぜひお役立てください。

6.感染症対策などのためテレワーク環境を整備

社内における感染症対策も、安全配慮義務に直結する課題です。社内における感染症対策を徹底するとともに、テレワーク環境を拡大している企業もあるでしょう。

なお、テレワーク中においても同様に安全配慮義務が求められます。例えば、テレワーク環境下で起こり得る、以下の身体的・精神的影響に対応することも必要です。

  • 身体的影響:運動不足による肥満や生活習慣病の悪化
  • 精神的影響:コミュニケーションの欠如や単独業務の継続による精神状態の悪化

企業のテレワーク導入に関することは、以下のコラムでもくわしくご紹介しています。

企業の安全配慮義務に役立つALSOKサービス

ALSOKでは、企業の安全配慮にも役立つさまざまなサービスをご提供しています。

【AED(自動体外式除細動器)】

ALSOKでは、突然の心停止に備えるAED(自動体外式除細動器)を取り扱っています。職場の安全配慮に有用なAEDの設置を、ぜひご検討ください。

【情報セキュリティ】

テレワーク環境が拡大したことにより、重要な情報が盗まれたり流出したりするリスクへの対策が安全配慮の面で必要です。ALSOKでは、企業のニーズに合わせた情報セキュリティも取り扱っています。

【出入管理】

出入管理はオフィスの防犯対策と、従業員の在室状況確認の両方に役立ちます。カードリーダーや指紋認証のほか、顔認証による出入管理システムもご用意しています。

【機械警備】

ALSOKの警備サービスは、ガードマンを常時配置する形だけではありません。監視カメラやセンサーで異常を感知し、ガードマンが現場へ向かう「機械警備」も取り扱っています。機械警備については、以下のコラムにもくわしくご紹介しています。

まとめ

企業には従業員が健康と安全を保ち、働きやすい環境でつねに業務に従事できるよう配慮する義務がありますが、対策が不十分だった場合などに、企業の責任が問われることがあります。その場合、被害を受けた従業員への損害賠償が発生しますが、死亡や障害が残るなどの重大なケースでは労災保険で賄いきれないこともあるでしょう。

大型機器に安全装置を設けていなかったり、吹き抜けの上部に転落防止の手すりを設けていなかったりすれば、安全配慮義務を怠っていると判断されます。また、最近では過度な長時間勤務の末の過労死や、ハラスメントによる心身の不調も大きな問題となっています。

それらの健康被害も企業が安全配慮義務を怠ったとみなされることがあるため、企業は勤務状況や心の健康も踏まえた安全配慮を行うことが必要です。