「自助・共助・公助」とは?企業が取り組むべき防災対策について解説
大規模災害や緊急事態は、企業の事業継続に甚大な影響を与えます。予測不能な事態に備えることは、単なるリスク管理ではなく、企業の存続と社会的な責任を果たすうえで不可欠な要素です。こうした危機に際して被害を最小限に抑え、早期の事業復旧を実現するためには、「自助・共助・公助」に基づいた対策が求められています。
この記事では、この3つの概念の違いや、注目されるようになった背景、企業が取り組むべき具体的な防災対策などについて解説します。
目次
「自助・共助・公助」とは
自助・共助・公助とは、災害や緊急事態において個人・社会がどのような役割を果たすべきかを示す概念です。災害直後には、公的支援(公助)がすぐに提供されると誤解されがちですが、実際にはまず自分自身の安全確保(自助)が最優先されます。その後、地域やコミュニティでの助け合い(共助)があり、最後に公助が機能するという順序になります。そのため、自分の身は自分で守る「自助」の考え方が何よりも重要なのです。
ここでは、自助・共助・公助それぞれの役割について、詳しく見ていきましょう。
自助
自助とは、災害や緊急事態が発生した際に、自分自身や家族の力で身を守り、生活を維持する取り組みを指します。防災の基本は「自らの命は自らで守る」という考え方です。大規模災害時には、公的支援が被災地に到着するまでに時間がかかることが想定されます。そのため、企業においては従業員や事業所が孤立した状況でも、一定期間は自力で組織を守る「自助」の充実が不可欠となります。この自助の備えこそが、災害時の生存率や事業継続の可能性を高めるうえで最も重要な要素です。
共助
共助とは、地域住民や企業、自治会、ボランティアなど、身近な地域コミュニティが互いに協力し合い、助け合うことを指します。自助だけでは対応しきれない状況や、企業単独での解決が困難な課題に対して、地域の力を結集して対処する仕組みです。大規模災害発生時には、公的機関だけではすべての被災者への対応が困難になるため、地域コミュニティによる助け合いが、被害を最小限に抑えるうえで重要な役割を果たします。
公助
公助とは、国や地方自治体などの行政機関、警察、消防、自衛隊などの公的機関による支援活動を指します。災害時の人命救助・救援活動から、被災したインフラ(道路、電気、ガスなど)の復旧、被災者の生活再建支援まで、広範囲かつ組織的な支援を提供するものです。また、災害が起こる前の予防策として、防災インフラの整備や、防災・被害想定に関する情報提供を行うことも公助の重要な役割です。
「自助・共助・公助」の考えが広まった背景
「自助・共助・公助」の考え方が、日本の防災対策の基本理念として広く認識されるようになった大きなきっかけは、1995年に発生した阪神・淡路大震災だとされています。阪神・淡路大震災では、生き埋めなどから救出された人の7割弱が自助、約3割が共助によるもので、公助によって救出された人は1.7%とごくわずかでした。
災害時には広域的なインフラ被害や同時多発的な被害が発生し、公助のみに頼るのには限界があります。阪神・淡路大震災を通して、日ごろからの自助の備えや、地域住民による共助の重要性が改めて認識されることとなったのです。
出典:東京消防庁「阪神・淡路大震災から学ぶ自助、共助の大切さ」
さらに近年では、地震や風水害などの「災害リスクの増大」に加え、行政の能力には限界があるという認識から、防災を分散して考える「行政の限界と分散型防災」の必要性が高まっています。また、「少子高齢化と地域コミュニティの変化」による共助機能の低下や、国民一人ひとりが自律的な行動を求められる「自己責任・分権型社会の流れ」も、自助・共助の重要性を高める要因となっています。
これらに加え、防災基本計画などの「法制度・政策の後押し」もあいまって、自助・共助・公助の考え方は、現代の防災対策の根幹部分になったといえるでしょう。
企業が「自助・共助・公助」に取り組むメリット
企業が自助・共助・公助の考え方に基づき防災対策に積極的に取り組むことは、単なるリスクヘッジに留まらず、企業の競争優位性と信頼性を高めるうえで非常に重要です。ここでは、自助・共助・公助に取り組む具体的なメリットを解説します。
BCP(事業継続計画)の強化
BCP(事業継続計画)は、災害や事故発生時に企業が重要業務を継続または早期に復旧するための計画です。企業が自助としてBCPを策定し、設備の耐震化、データのバックアップ、代替拠点の確保などを行うことで、災害時の被害を最小限に抑えられます。早期に事業の復旧が実現できれば、売上損失や顧客離れを防ぎ、競合他社に対する優位性を維持することもできるでしょう。災害時の事業継続力は企業の生命線であり、自助・共助への投資が長期的な経営の安定につながります。
地域コミュニティとの連携強化
地域住民や自治体との間で防災に関する連携を深めることは、共助への貢献であり、平時から地域との信頼関係の構築を実現します。具体的には、地域防災訓練への参加、避難所としての施設提供、防災物資の備蓄協力などを通じて、地域社会の一員としての責任を果たせます。災害時には、地域との連携により従業員の安否確認がスムーズになったり、地域住民からの協力が得やすくなったりするメリットも期待できるでしょう。
取引先や関係企業からの信頼性向上
BCP策定や防災対策の充実は、「災害時でも供給責任を果たせる企業」という高い社会的信頼につながり、取引先や株主、金融機関からの高い評価を得られます。また、ESG(環境Environment/社会Social/ガバナンスGovernance)の観点から企業を評価するESG投資の流れにおいても、地域貢献や防災への取り組みは企業価値を高める重要な要素として評価されます。
企業における自助の具体的な取り組み
企業が自社の力で危機を乗り越えるための、自助としての具体的な取り組みを見ていきましょう。
BCP(事業継続計画)の策定
BCP(事業継続計画)には、企業が直面する可能性のあるリスクの分析、事業への影響が大きい優先業務の特定、代替拠点の確保、復旧目標時間の設定などが含まれます。全社的な取り組みとして定期的な見直しと更新が求められ、実効性のある計画を構築・維持していくことが、企業の危機管理における強固な基盤となります。
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防災備蓄品の準備
災害発生時に従業員が安全に一定期間社内に留まれるよう、食料、飲料水、医薬品、衛生用品などの防災備蓄品を準備する必要があります。備蓄量の目安は、従業員数×3日分程度が推奨されています。また、一箇所に集中させるのではなく、保管場所を分散配置することも重要です。備蓄品は消費期限の管理を徹底し、定期的な入れ替えを行うとともに、従業員がすぐに取り出せるよう保管場所を周知しておきましょう。
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安否確認体制の整備
災害直後に従業員の安否を迅速かつ正確に把握するため、安否確認システムの導入、緊急連絡網の作成、そして連絡手段の多重化(メール、電話、SNS、専用アプリなど)を行う必要があります。また、安否確認システムの動作確認と従業員の習熟を図ることを目的に、定期的に訓練を実施し、安否報告を実際に行うことも不可欠です。これにより、迅速な情報伝達体制が構築されます。
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防災訓練の実施
実際の災害を想定した訓練を定期的に実施し、BCPや防災マニュアルの実効性を検証することも重要な自助の取り組みです。机上訓練(シミュレーション)と、避難経路の確認や消火器の使用などを行う実地訓練を組み合わせることで、従業員の防災意識向上と行動の習熟を図ります。訓練後には必ず振り返りを行い、気づいた課題や改善点を抽出して、計画やマニュアルの改善につなげるPDCAサイクルを回すことが重要です。
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防災設備の定期点検
企業が保有する消火器、スプリンクラー、火災報知器、非常照明、非常用発電機などの防災設備は、法令に基づき定期的に点検・整備することが義務付けられています。また、避難経路の確保、防火扉の動作確認、排煙設備の機能確認なども必要です。専門業者による法定点検と、日常的な自主点検を組み合わせた管理体制を構築し、非常時に防災設備が確実に機能する状態を維持しましょう。
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企業における共助の具体的取り組み
企業が地域社会の一員として、また事業継続性を高めるために必要な共助の具体的な取り組みを解説します。
地域の方向けの防災備蓄品の支援
災害発生時には、自社の従業員用の備蓄とは別に、地域支援用の備蓄品を事前に確保しておくことが有効です。具体的には、自治体や地域と連携し、水や食料の提供、帰宅困難者などへのトイレや休憩スペースの提供などを実施する体制を整えます。
避難場所としての連携
災害時に地域の帰宅困難者や被災者を一時的に受け入れる体制を整備することも、共助の重要な取り組みです。自治体と連携し、自社の受け入れ可能人数や提供可能な支援内容(水、トイレ、情報など)を事前に登録することで、地域の防災計画に組み込まれます。
官民連携の防災訓練・協定
自治会や地域の防災訓練に企業として積極的に参加するのも、重要な共助の取り組みです。従業員の参加奨励、訓練会場や資機材の提供、専門知識を持つ社員による講習会の開催など、企業が行えることは多々あります。また、自治体と防災協定を締結することにより自治体や市民に対して、社会的な責任(CSR)を積極的に果たしているという印象を与え、広報面でも良い影響が期待できます。
防災対策に取り組む際の注意点
企業が自助・共助の取り組みを実効性の高いものにするためには、以下の点に注意し継続的な活動とすることが不可欠です。
社内共有と訓練
BCPや防災マニュアルに沿って定期的な防災訓練を実施し、全従業員が避難経路や災害時の役割分担を理解している状態を維持しましょう。訓練はマンネリ化しやすいため、シナリオを変えたり、抜き打ち訓練を取り入れたりするなどの工夫も効果的です。また、訓練後には必ず振り返りの時間を設け、気づいた課題や改善点を共有し、マニュアルや計画に反映させることが重要です。
検証と改善
防災対策は一度策定したら終わりではなく、定期的な見直しが不可欠です。訓練で明らかになった課題、社会情勢の変化、新たな災害リスクの発見などを踏まえ、計画を常に更新し続ける必要があります。年に1回はマニュアル全体を点検し、他社の事例や最新の防災情報を収集しながら、より実効性の高い対策へとブラッシュアップしていくことで、強固な防災対策へとつながります。
企業の防災対策に役立つALSOKのサービス
ALSOKでは、企業の防災対策を支援するさまざまなサービスをご提供しております。
災害対策
BCPソリューションサービス
ALSOKのBCPソリューションサービスは、BCPの策定から運用・訓練・見直しまでをトータルでサポートいたします。災害現場で培った豊富な経験・ノウハウを活かし、企業のBCP(事業継続計画)策定をお手伝いします。
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防災備蓄品(管理含む)
ALSOKでは、災害時に備えて水・食料・衛生用品などの防災備蓄品・災害対策用品をご提供しております。従業員数や事業所の規模に応じた備蓄プランをご提案し、期限管理や棚卸、回収調整まで行う「災害備蓄品マネジメント支援サービス」もご依頼いただけます。
ALSOKの関連商品
安否確認サービス
ALSOKの安否確認サービスは、災害発生時に一斉にメールを配信し、従業員の安否状況を迅速かつ確実に把握できるシステムをご提供しております。従業員・管理者どちらも使いやすい設計により、適切な初動対応をサポートします。
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AED
ALSOKでは、突然の心停止から命を守るためにAEDの導入をサポートしております。お客様のニーズに合わせたAEDの選定・設置、万全な管理、従業員向けの講習会や導入後のサポートまで、安心できる体制づくりを支援いたします。
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災害図上訓練
災害図上訓練サービスは、お客様先の情報を取り込んだ地図を使い、災害発生時の対応を実践的にシミュレーションする訓練です。実践的な訓練を通じて、想定外の災害にも素早く対応できる判断力を養うことができ、自助・公助への積極的な取り組みにつながります。
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緊急地震速報システム
ALSOKでは、気象庁のデータをもとに、大きな揺れが到達する前にお知らせする緊急地震速報システムをご提供しております。迅速な情報提供により地震発生前の適切な初動対応を支援し、従業員の安全確保や設備等の被害の拡大防止に貢献します。
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事件・事故対策
機械警備
自然災害による直接的な被害に加えて、社会的混乱や治安の悪化により事件・事故(二次被害)が発生するケースも少なくありません。
ALSOKはこうした事件・事故対策を支援するサービスもご提供しております。
ALSOKの機械警備システムは、24時間365日監視し、異常発生時にはALSOKが駆けつけて対応します。侵入、火災、設備異常などを早期に検知し、適切に対処することで、被害拡大を防ぎます。
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防犯カメラ・監視カメラサービス
ALSOKでは、高画質のカメラで施設内外を24時間監視できる防犯カメラ・監視カメラシステムをご提供しております。遠隔からの映像確認も可能で、問題発生時の事実確認や、複数拠点の状況を一元管理したい場合にも役立ちます。防犯カメラは、災害発生時の盗難対策や、避難所として開放した際の防犯対策にも貢献します。
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まとめ
大規模災害のリスクと常に隣り合わせの現代において、防災対策は事業継続と企業価値向上に直結する重要な経営戦略。企業には自助(自社の備え)、共助(地域との連携)、公助(行政の支援)の3要素の役割を理解したうえで、災害発生直後において特に重要となる「自助」と「共助」の対策を徹底することが求められます。
BCP策定や備蓄品の準備、地域との連携強化といった具体的な取り組みは、事業継続性の向上だけではなく社会的信頼の獲得につながります。強靭な企業体制を構築するためにも、自助・共助・公助の観点から防災対策を見つめ直してみましょう。
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